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王立アカデミーの卒業記念パーティーは今まさに最高潮を迎えようとしていた。
シャンデリアの眩い光が 磨き上げられた大理石の床を照らす。
楽団が奏でる優雅なワルツが 楽しげな喧騒を彩っていた。
わたくし カタリナ・フォン・ヴォルフ公爵令嬢は この日の主役の一人。
そして わたくしの隣に立つはずの婚約者 エドワード第二王子。
しかし その姿はわたくしの隣にはなかった。
(フフ…)
わたくしは扇で口元を隠し 貴族たちの輪の中心で優雅に微笑む。
今日のこの日のために どれほどの準備をしてきたことか。
完璧な悪役令嬢としての仕上げ。
そのための舞台が 今まさに整おうとしている。
(遅いじゃありませんか 王子)
わたくしが内心で焦れ始めた その時だった。
「皆様!ご静聴願いたい!」
喧騒を突き破るように 凛とした声が響き渡る。
エドワードだ。
わたくしは扇をゆっくりと閉じ 優雅に(計算通りに)驚きを表現する。
(フフ…ついに始まるのね!わたくしの わたくしによる わたくしのための舞台が!)
エドワードは壇上で 見慣れない地味な令嬢…いいえ 平民の娘かしら?
リリア・ブラウンの手を固く握っている。
「今日ここで皆様に ご報告したいことがあります」
会場の貴族たちがざわめき始める。
わたくしは心の中でガッツポーズをした。
(そうよ もっとざわめきなさい!この歴史的瞬間の証人となるがいいわ!)
「カタリナ・フォン・ヴォルフ公爵令嬢!」
エドワードがわたくしをまっすぐ指差す。
その目は真剣そのもの。恋に盲目な男の目だわ。
「お前との婚約を 今日この場で破棄させてもらう!」
キターーー!
わたくしは内心で歓喜の叫びを上げた。
ついに来たわ!悪役令嬢人生最大のハイライト「婚約破棄」!
周囲が水を打ったように静まり返る。
全ての視線が わたくしと王子 そしてリリアに突き刺さる。
「まぁ エドワード様…!」
リリアが庇護欲をそそるか弱い声で 王子の腕にしがみつく。
完璧なヒロインムーブ。腹立たしいほどに完璧だわ。
「エドワード様 いけません!カタリナ様は公爵令嬢なのですよ!」
「いいや リリア。君は優しすぎる」
王子はリリアを優しく見つめ 再びわたくしに非難の視線を向ける。
「カタリナ!お前はリリアがアカデミーでどれほど辛い思いをしてきたか 知っているだろう!」
「さあ?存じ上げませんわね」
わたくしは扇を優雅に揺らし これ以上ないほど冷たい声で答えてやった。
(そうよ!悪役令嬢たるもの こうでなくては!)
「お前は!その公爵家の権力を盾に リリアの教科書を破り 階段から突き落とし 果てはドレスを汚した!」
(え?わたくしそんなことしてないわよ)
一瞬 素で驚きそうになったが いけないいけない。
ここは「やりましたわ」という顔をしなければ。
「それが何か?」
「何だと!?」
エドワードが激昂する。
いいわ いいわ もっと怒りなさい!
「カタリナ!お前のような冷酷で嫉妬深い女こそが 悪だ!」
「悪…ですって?」
わたくしは扇を閉じ パシンと小気味よい音を立てる。
「悪結構ですわ。むしろ 悪役令嬢として最高の賛辞と受け取っておきます」
「なっ…!反省していないのか!」
「反省?なぜわたくしがしなくてはならないのでしょう?
王子こそ わたくしという婚約者がいながら あのような平民の娘にうつつを抜かし…」
「黙れ!これは真実の愛の物語だ!」
(うわ 出たわよ 真実の愛)
わたくしは心の中で盛大にため息をついた。
どうやらこの王子様は お花畑で頭がやられてしまったらしい。
「リリアこそ 私の運命の相手だ。彼女をこれ以上 お前のような女から守るためにも 婚約は破棄する!」
会場が一気にざわめき出す。
「公爵令嬢が婚約破棄…?」
「なんてスキャンダルだ」
「でも リリア様は本当に健気で…」
フン 愚かな民衆め。
わたくしはここで完璧な「負け犬」を演じなければならない。
悲劇の悪役令嬢として哀れに退場する。
それがわたくしの美学。
「エドワード様…本気でございますか?」
わたくしは必死に声を震わせ 瞳に涙を溜める(演技)。
「当たり前だ!」
「そん…な…」
わたくしはよろめき 今にも倒れそうに(見えるように)片手で額を押さえる。
(完璧よカタリナ!今よ!今こそがあなたの演技力の見せ所!)
「わたくしは…わたくしは ずっとエドワード様のことだけを…!」
「その嘘も聞き飽きた!お前が愛しているのは ヴォルフ家の権力と 次期王妃という地位だけだろう!」
(…半分正解ね)
でも 今はそれを認めるわけにはいかない。
「違いますわ!わたくしは…!」
わたくしは必死に涙をこらえ 健気な元婚約者を演じる。
会場の同情を全てわたくしに集めるのよ!
「エドワード様…あんまりですわ…」
リリアがまた絶妙なタイミングで割り込んでくる。
「カタリナ様も きっと反省してくださいます!どうか 婚約破棄だけは…!」
「リリア!君はどこまで優しいんだ!」
(出たわね 偽善者ムーブ!本当に腹立たしい女!)
わたくしはリリアを睨みつける。
もちろん 嫉妬に狂った悪役令嬢の顔で。
「うるさい女狐ですわね!どの口がそれを言うのです!」
「キャッ!」
リリアが大袈裟に怯えて エドワードの後ろに隠れる。
よしよし いい流れよ。
「カタリナ!まだリリアをいじめるとは!もう我慢ならん!」
エドワードが剣の柄に手をかける。
(え、ちょっと待って。ここで斬りかかってくるのは台本にないわよ)
「お待ちなさい エドワード」
低い声が響いた。
国王陛下だ。
「父上!しかし!」
「公の場で 王族が剣を抜くとは何事だ。
そして 婚約破棄は両家の合意あってこそ。そなたの一存で決められることではない」
(ゲッ 国王)
ちょっと面倒なことになってきた。
わたくしは静かに退場したいだけなのに。
「しかし父上!カタリナの悪行は!」
「証拠はあるのか?」
「リリアの涙が証拠です!」
(ダメだこりゃ)
会場の誰もがそう思ったに違いない。
わたくしはすかさず畳み掛ける。
「陛下。エドワード様は あちらの平民の方にご執心のあまり 少々お疲れのようですわ」
「なっ!カタリナ貴様!」
「国王陛下。このカタリナ・フォン・ヴォルフ 誠に僭越ながら この場にて エドワード第二王子殿下との婚約を」
わたくしは優雅にカーテシーを決め 言い放った。
「わたくしの方から 破棄させていただきますわ!」
「「「な、なんだとー!?」」」
会場が今日一番のどよめきに包まれる。
エドワードもリリアも 国王さえも目を丸くしている。
フフン。
悪役令嬢が断罪されて ただで引き下がると思った?
(この舞台の主役は あくまでわたくしよ!)
わたくしは高笑いを(心の中で)上げながら 華麗なる退場の準備を始めたのだった。
シャンデリアの眩い光が 磨き上げられた大理石の床を照らす。
楽団が奏でる優雅なワルツが 楽しげな喧騒を彩っていた。
わたくし カタリナ・フォン・ヴォルフ公爵令嬢は この日の主役の一人。
そして わたくしの隣に立つはずの婚約者 エドワード第二王子。
しかし その姿はわたくしの隣にはなかった。
(フフ…)
わたくしは扇で口元を隠し 貴族たちの輪の中心で優雅に微笑む。
今日のこの日のために どれほどの準備をしてきたことか。
完璧な悪役令嬢としての仕上げ。
そのための舞台が 今まさに整おうとしている。
(遅いじゃありませんか 王子)
わたくしが内心で焦れ始めた その時だった。
「皆様!ご静聴願いたい!」
喧騒を突き破るように 凛とした声が響き渡る。
エドワードだ。
わたくしは扇をゆっくりと閉じ 優雅に(計算通りに)驚きを表現する。
(フフ…ついに始まるのね!わたくしの わたくしによる わたくしのための舞台が!)
エドワードは壇上で 見慣れない地味な令嬢…いいえ 平民の娘かしら?
リリア・ブラウンの手を固く握っている。
「今日ここで皆様に ご報告したいことがあります」
会場の貴族たちがざわめき始める。
わたくしは心の中でガッツポーズをした。
(そうよ もっとざわめきなさい!この歴史的瞬間の証人となるがいいわ!)
「カタリナ・フォン・ヴォルフ公爵令嬢!」
エドワードがわたくしをまっすぐ指差す。
その目は真剣そのもの。恋に盲目な男の目だわ。
「お前との婚約を 今日この場で破棄させてもらう!」
キターーー!
わたくしは内心で歓喜の叫びを上げた。
ついに来たわ!悪役令嬢人生最大のハイライト「婚約破棄」!
周囲が水を打ったように静まり返る。
全ての視線が わたくしと王子 そしてリリアに突き刺さる。
「まぁ エドワード様…!」
リリアが庇護欲をそそるか弱い声で 王子の腕にしがみつく。
完璧なヒロインムーブ。腹立たしいほどに完璧だわ。
「エドワード様 いけません!カタリナ様は公爵令嬢なのですよ!」
「いいや リリア。君は優しすぎる」
王子はリリアを優しく見つめ 再びわたくしに非難の視線を向ける。
「カタリナ!お前はリリアがアカデミーでどれほど辛い思いをしてきたか 知っているだろう!」
「さあ?存じ上げませんわね」
わたくしは扇を優雅に揺らし これ以上ないほど冷たい声で答えてやった。
(そうよ!悪役令嬢たるもの こうでなくては!)
「お前は!その公爵家の権力を盾に リリアの教科書を破り 階段から突き落とし 果てはドレスを汚した!」
(え?わたくしそんなことしてないわよ)
一瞬 素で驚きそうになったが いけないいけない。
ここは「やりましたわ」という顔をしなければ。
「それが何か?」
「何だと!?」
エドワードが激昂する。
いいわ いいわ もっと怒りなさい!
「カタリナ!お前のような冷酷で嫉妬深い女こそが 悪だ!」
「悪…ですって?」
わたくしは扇を閉じ パシンと小気味よい音を立てる。
「悪結構ですわ。むしろ 悪役令嬢として最高の賛辞と受け取っておきます」
「なっ…!反省していないのか!」
「反省?なぜわたくしがしなくてはならないのでしょう?
王子こそ わたくしという婚約者がいながら あのような平民の娘にうつつを抜かし…」
「黙れ!これは真実の愛の物語だ!」
(うわ 出たわよ 真実の愛)
わたくしは心の中で盛大にため息をついた。
どうやらこの王子様は お花畑で頭がやられてしまったらしい。
「リリアこそ 私の運命の相手だ。彼女をこれ以上 お前のような女から守るためにも 婚約は破棄する!」
会場が一気にざわめき出す。
「公爵令嬢が婚約破棄…?」
「なんてスキャンダルだ」
「でも リリア様は本当に健気で…」
フン 愚かな民衆め。
わたくしはここで完璧な「負け犬」を演じなければならない。
悲劇の悪役令嬢として哀れに退場する。
それがわたくしの美学。
「エドワード様…本気でございますか?」
わたくしは必死に声を震わせ 瞳に涙を溜める(演技)。
「当たり前だ!」
「そん…な…」
わたくしはよろめき 今にも倒れそうに(見えるように)片手で額を押さえる。
(完璧よカタリナ!今よ!今こそがあなたの演技力の見せ所!)
「わたくしは…わたくしは ずっとエドワード様のことだけを…!」
「その嘘も聞き飽きた!お前が愛しているのは ヴォルフ家の権力と 次期王妃という地位だけだろう!」
(…半分正解ね)
でも 今はそれを認めるわけにはいかない。
「違いますわ!わたくしは…!」
わたくしは必死に涙をこらえ 健気な元婚約者を演じる。
会場の同情を全てわたくしに集めるのよ!
「エドワード様…あんまりですわ…」
リリアがまた絶妙なタイミングで割り込んでくる。
「カタリナ様も きっと反省してくださいます!どうか 婚約破棄だけは…!」
「リリア!君はどこまで優しいんだ!」
(出たわね 偽善者ムーブ!本当に腹立たしい女!)
わたくしはリリアを睨みつける。
もちろん 嫉妬に狂った悪役令嬢の顔で。
「うるさい女狐ですわね!どの口がそれを言うのです!」
「キャッ!」
リリアが大袈裟に怯えて エドワードの後ろに隠れる。
よしよし いい流れよ。
「カタリナ!まだリリアをいじめるとは!もう我慢ならん!」
エドワードが剣の柄に手をかける。
(え、ちょっと待って。ここで斬りかかってくるのは台本にないわよ)
「お待ちなさい エドワード」
低い声が響いた。
国王陛下だ。
「父上!しかし!」
「公の場で 王族が剣を抜くとは何事だ。
そして 婚約破棄は両家の合意あってこそ。そなたの一存で決められることではない」
(ゲッ 国王)
ちょっと面倒なことになってきた。
わたくしは静かに退場したいだけなのに。
「しかし父上!カタリナの悪行は!」
「証拠はあるのか?」
「リリアの涙が証拠です!」
(ダメだこりゃ)
会場の誰もがそう思ったに違いない。
わたくしはすかさず畳み掛ける。
「陛下。エドワード様は あちらの平民の方にご執心のあまり 少々お疲れのようですわ」
「なっ!カタリナ貴様!」
「国王陛下。このカタリナ・フォン・ヴォルフ 誠に僭越ながら この場にて エドワード第二王子殿下との婚約を」
わたくしは優雅にカーテシーを決め 言い放った。
「わたくしの方から 破棄させていただきますわ!」
「「「な、なんだとー!?」」」
会場が今日一番のどよめきに包まれる。
エドワードもリリアも 国王さえも目を丸くしている。
フフン。
悪役令嬢が断罪されて ただで引き下がると思った?
(この舞台の主役は あくまでわたくしよ!)
わたくしは高笑いを(心の中で)上げながら 華麗なる退場の準備を始めたのだった。
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