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国王陛下から全権(と予算)を(勘違いされたまま)委任されたわたくしは
早速 行動を開始した。
場所は 王宮にほど近い中央広場。
片隅では リリアがエドワード王子(護衛)のもと
今日も「奇跡の無料パン」を配り 民衆がそれに群がっている。
「リリア様!ありがとうございます!」
「ああ…これで今日も食いつなげる…」
(フン…あの女狐に飼い慣らされて…愚かね)
わたくしは その対角線上
王都で最も人通りの多い場所に 職人ギルドの者たちと特設した舞台(ステージ)を設置させた。
背後には 黒いベルベットの幕が下ろされ
これから発表される「何か」を隠している。
「カタリナ様…本当に よろしいのですか」
パン屋ギルドの親方が 緊張した面持ちでわたくしに尋ねる。
顔色はまだ悪いが その目には(辺境に来た当初のわたくしとは違い)諦めの色はない。
「当たり前でしょう」
わたくしは扇で己の顔を仰ぎ 高らかに言い放つ。
「わたくしの『悪事』は いつだって本気(マジ)ですのよ」
「(…また『聖女』と呼ばれなければいいが)」
背後でセシリオが(絶対に聞こえる声で)ぼソッと呟いた。
(うるさいわね この朴念仁!)
わたくしはセシリオを睨みつけ 咳払い一つで舞台に上がった。
広場の民衆が わたくしの存在に気づき ざわめき始める。
「おい…あれは…」
「辺境に追放されていた カタリナ公爵令嬢じゃないか?」
「ああ!あの『デビル・ヴォルフ』で大儲けしたっていう…」
「『商才の聖女』様だ!」
(だから その不名誉な称号で呼ぶな!)
わたくしは怒りを込め 舞台の床を(優雅に)ヒールで鳴らす。
喧騒が 少し静まった。
わたくしは扇を閉じ まず リリアがパンを配っている一角を
ビシッと指差した。
「そこのあなたたち!」
「え?」
リリアのパンに群がっていた民衆が わたくしを見る。
「タダで貰えるパンは 美味しいかしら?」
「あ 当たり前だ!リリア様は俺たちの救世主だ!」
「フン!愚か者どもが!」
わたくしは一喝する。
「よくお聞きなさい!
この世に『タダ(無料)』より高いものはないのですよ!」
広場がシン と静まり返る。
リリアさえも パンを配る手を止め キョトンとわたくしを見ている。
「あの女(リリア)が配っているのは パンではありませんわ!
あれは お前たちから『働く誇り』を奪い
『考える力』を麻痺させる『甘い毒』よ!」
「なっ…!何を言うんだ!」
「リリア様への侮辱だぞ!」
民衆の一部が怒り出す。いいわ いいわ もっと怒りなさい!
「侮辱ですって?
事実でしょう!
あの女がパンを配り始めてから この王都はどうなった!
パン屋は店を閉め 薬師は廃業し
職人たちは 己の技術(スキル)を披露する場所さえ失った!」
わたくしは舞台の背後の幕を指す。
「あの女がやっていることが『善意』なら!
わたくしは『悪意』をもって お前たちに本当の『価値』を叩き込んでさしあげますわ!」
わたくしが合図すると セシリオが(心底面倒くさそうに)幕を開けた。
現れたのは 二つのテーブル。
一つには 山と積まれた『デビル・ヴォルフ』の壺。
もう一つには たった一つのパン。
しかし そのパンは 黄金色に輝き 見るからに最高級の素材で作られていると分かった。
「な…なんだありゃ…」
「デビル・ヴォルフ…?辺境の?」
わたくしはまず その黄金色のパンを 高々と掲げた。
「これは!
王都最高のパン職人が!その技術の粋を集めて焼き上げた
『黄金(ゴールデン)・ブレッド』よ!」
「リリアのパン(無価値)と違い
これは お前たちの舌を 確実に満足させる『価値』があるわ!」
「お値段は 一切れ なんと!」
わたくしはニヤリと(最高の悪役令嬢スマイルで)笑う。
「金貨一枚ですわ!」
「「「き きんか いちまい!?」」」
広場がどよめいた。
一切れのパンに 金貨一枚。
平民の数ヶ月分の生活費に相当する。
「馬鹿げてる!」
「そんなもの 誰が買うか!」
「そうだ!リリア様はタダなのに!」
民衆の非難が わたくしに集中する。
(フフン…!これよ!これこそ悪役令嬢!)
「お嬢様」
「なによセシリオ!わたくしの完璧な演説の邪魔をしないで!」
「…いえ。
それは ぼったくり()を通り越して 強欲が過ぎるのでは」
セシリオが小声で突っ込んでくる。
「うるさいわね!悪役令嬢は強欲なのよ!
それに 見てなさい!」
わたくしは非難の声を上げる民衆を無視し
今度は『デビル・ヴォルフ』の壺を掲げた。
「そして!こっちは!
わたくしが辺境で開発した『デビル・ヴォルフ』の
王都限定・最高級(エクストラ・リッチ)バージョンよ!」
「辺境の物より さらに濃厚な蜂蜜と 希少なスパイスを使い
わたくしの悪意()で煮詰めた 禁断の味!」
「こちらは 一壺 なんと!」
「金貨十枚ですわ!」
「「「じゅっ…!」」」
もはや 民衆は声も出ない。
わたくしは舞台の端に立ち 群衆を見下ろした。
「フン!価値が分からない愚民は
あちらの『無料(タダ)のパン』でも 食べていなさい!」
「わたくしの『悪意(商品)』は
本物の『価値』が分かり
己の金で『贅沢』を勝ち取ることのできる
『選ばれた方』だけに 売って差し上げますわ!」
わたくしは高らかに宣言する。
一般民衆は 怒りと呆れでわたくしを睨みつけ
再びリリアのパンへと戻っていく。
(フフン…愚民どもめ…)
わたくしが勝利を確信していると
広場を見下ろす貴族の観覧席が ざわめき始めた。
「おい…聞いたか?」
「一切れ金貨一枚のパン…だと?」
「それに あの『デビル・ヴォルフ』の高級版…!」
リリアの『施し』と『無料のパン』に
(貴族として)内心 辟易し
(食通として)飽き飽きしていた貴族たちが
わたくしの『強欲な商品』に 強い興味を示し始めた。
「面白い…!」
観覧席から 一人の恰幅の良い大貴族(財務大臣だわ)が
立ち上がった。
「カタリナ嬢!
その『黄金のパン』と『デビル・ヴォルフ』!
わたくしが 買おう!」
「「「ええー!」」」
民衆が驚きの声を上げる。
「フフ…毎度あり()ですわ 財務大臣閣下」
わたくしは優雅にカーテシーを決めた。
わたくしの『悪の経済支配』が
リリアの『善意の経済破壊』に
宣戦布告を果たした 瞬間だった。
早速 行動を開始した。
場所は 王宮にほど近い中央広場。
片隅では リリアがエドワード王子(護衛)のもと
今日も「奇跡の無料パン」を配り 民衆がそれに群がっている。
「リリア様!ありがとうございます!」
「ああ…これで今日も食いつなげる…」
(フン…あの女狐に飼い慣らされて…愚かね)
わたくしは その対角線上
王都で最も人通りの多い場所に 職人ギルドの者たちと特設した舞台(ステージ)を設置させた。
背後には 黒いベルベットの幕が下ろされ
これから発表される「何か」を隠している。
「カタリナ様…本当に よろしいのですか」
パン屋ギルドの親方が 緊張した面持ちでわたくしに尋ねる。
顔色はまだ悪いが その目には(辺境に来た当初のわたくしとは違い)諦めの色はない。
「当たり前でしょう」
わたくしは扇で己の顔を仰ぎ 高らかに言い放つ。
「わたくしの『悪事』は いつだって本気(マジ)ですのよ」
「(…また『聖女』と呼ばれなければいいが)」
背後でセシリオが(絶対に聞こえる声で)ぼソッと呟いた。
(うるさいわね この朴念仁!)
わたくしはセシリオを睨みつけ 咳払い一つで舞台に上がった。
広場の民衆が わたくしの存在に気づき ざわめき始める。
「おい…あれは…」
「辺境に追放されていた カタリナ公爵令嬢じゃないか?」
「ああ!あの『デビル・ヴォルフ』で大儲けしたっていう…」
「『商才の聖女』様だ!」
(だから その不名誉な称号で呼ぶな!)
わたくしは怒りを込め 舞台の床を(優雅に)ヒールで鳴らす。
喧騒が 少し静まった。
わたくしは扇を閉じ まず リリアがパンを配っている一角を
ビシッと指差した。
「そこのあなたたち!」
「え?」
リリアのパンに群がっていた民衆が わたくしを見る。
「タダで貰えるパンは 美味しいかしら?」
「あ 当たり前だ!リリア様は俺たちの救世主だ!」
「フン!愚か者どもが!」
わたくしは一喝する。
「よくお聞きなさい!
この世に『タダ(無料)』より高いものはないのですよ!」
広場がシン と静まり返る。
リリアさえも パンを配る手を止め キョトンとわたくしを見ている。
「あの女(リリア)が配っているのは パンではありませんわ!
あれは お前たちから『働く誇り』を奪い
『考える力』を麻痺させる『甘い毒』よ!」
「なっ…!何を言うんだ!」
「リリア様への侮辱だぞ!」
民衆の一部が怒り出す。いいわ いいわ もっと怒りなさい!
「侮辱ですって?
事実でしょう!
あの女がパンを配り始めてから この王都はどうなった!
パン屋は店を閉め 薬師は廃業し
職人たちは 己の技術(スキル)を披露する場所さえ失った!」
わたくしは舞台の背後の幕を指す。
「あの女がやっていることが『善意』なら!
わたくしは『悪意』をもって お前たちに本当の『価値』を叩き込んでさしあげますわ!」
わたくしが合図すると セシリオが(心底面倒くさそうに)幕を開けた。
現れたのは 二つのテーブル。
一つには 山と積まれた『デビル・ヴォルフ』の壺。
もう一つには たった一つのパン。
しかし そのパンは 黄金色に輝き 見るからに最高級の素材で作られていると分かった。
「な…なんだありゃ…」
「デビル・ヴォルフ…?辺境の?」
わたくしはまず その黄金色のパンを 高々と掲げた。
「これは!
王都最高のパン職人が!その技術の粋を集めて焼き上げた
『黄金(ゴールデン)・ブレッド』よ!」
「リリアのパン(無価値)と違い
これは お前たちの舌を 確実に満足させる『価値』があるわ!」
「お値段は 一切れ なんと!」
わたくしはニヤリと(最高の悪役令嬢スマイルで)笑う。
「金貨一枚ですわ!」
「「「き きんか いちまい!?」」」
広場がどよめいた。
一切れのパンに 金貨一枚。
平民の数ヶ月分の生活費に相当する。
「馬鹿げてる!」
「そんなもの 誰が買うか!」
「そうだ!リリア様はタダなのに!」
民衆の非難が わたくしに集中する。
(フフン…!これよ!これこそ悪役令嬢!)
「お嬢様」
「なによセシリオ!わたくしの完璧な演説の邪魔をしないで!」
「…いえ。
それは ぼったくり()を通り越して 強欲が過ぎるのでは」
セシリオが小声で突っ込んでくる。
「うるさいわね!悪役令嬢は強欲なのよ!
それに 見てなさい!」
わたくしは非難の声を上げる民衆を無視し
今度は『デビル・ヴォルフ』の壺を掲げた。
「そして!こっちは!
わたくしが辺境で開発した『デビル・ヴォルフ』の
王都限定・最高級(エクストラ・リッチ)バージョンよ!」
「辺境の物より さらに濃厚な蜂蜜と 希少なスパイスを使い
わたくしの悪意()で煮詰めた 禁断の味!」
「こちらは 一壺 なんと!」
「金貨十枚ですわ!」
「「「じゅっ…!」」」
もはや 民衆は声も出ない。
わたくしは舞台の端に立ち 群衆を見下ろした。
「フン!価値が分からない愚民は
あちらの『無料(タダ)のパン』でも 食べていなさい!」
「わたくしの『悪意(商品)』は
本物の『価値』が分かり
己の金で『贅沢』を勝ち取ることのできる
『選ばれた方』だけに 売って差し上げますわ!」
わたくしは高らかに宣言する。
一般民衆は 怒りと呆れでわたくしを睨みつけ
再びリリアのパンへと戻っていく。
(フフン…愚民どもめ…)
わたくしが勝利を確信していると
広場を見下ろす貴族の観覧席が ざわめき始めた。
「おい…聞いたか?」
「一切れ金貨一枚のパン…だと?」
「それに あの『デビル・ヴォルフ』の高級版…!」
リリアの『施し』と『無料のパン』に
(貴族として)内心 辟易し
(食通として)飽き飽きしていた貴族たちが
わたくしの『強欲な商品』に 強い興味を示し始めた。
「面白い…!」
観覧席から 一人の恰幅の良い大貴族(財務大臣だわ)が
立ち上がった。
「カタリナ嬢!
その『黄金のパン』と『デビル・ヴォルフ』!
わたくしが 買おう!」
「「「ええー!」」」
民衆が驚きの声を上げる。
「フフ…毎度あり()ですわ 財務大臣閣下」
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