婚約破棄された悪役令嬢ですが、どうにも威厳が保てません!

パリパリかぷちーの

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わたくしが王都の経済を(強欲商法で)立て直し
国王陛下から『救国の聖女(不本意)』として 絶大な信頼を寄せられ始めた頃。

王宮の一室では エドワード第二王子が
床を行ったり来たりしながら 苛立ちを募らせていた。

「おかしい…!絶対におかしい!」

エドワードは爪を噛む。

「父上も 貴族どもも 民衆までもが
あのカタリナの『金儲け()』に熱狂している!」

「エドワード様…」

リリアが 不安そうな顔で王子の袖を掴む。
わたくしの『高級品戦略』が始まって以来
リリアの『無料のパン』に群がる人々は ほとんどいなくなっていた。

「リリア…!君の力は本物だ!
カタリナのような『金』で動く力とは違う
『無償の愛』の力なんだ!」

「は はい…!」

「そうだ…!父上たちに 見せつけてやらねばならない!
カタリナの『金』などより
君の『奇跡』の方が どれほど尊く 価値があるかを!」

エドワードは(国王から『カタリナの邪魔はするな』と言われたにも関わらず)
最悪のアイデアを思いついてしまった。

「リリア!今こそ 君の最大の奇跡を見せる時だ!」

「え?最大の…ですか?」

「ああ!王宮の宝物庫へ行こう!」

「ほ 宝物庫…ですか?」

「そうだ!
あの宝物庫には 歴代の王が集めた 莫大な金銀財宝が眠っている!
君が そこでお祈りをすれば
財宝は さらに輝きを増し その『価値』は無限になるはずだ!」

(※リリアの力は『価値をゼロにする』力だと まだ気づいていない)

「そ そんな…私にできるでしょうか…」

「君ならできる!
真実の愛()に選ばれた 君なら!」

エドワードはリリアの手を引き 狂気に近い熱意で 宝物庫へと向かった。

---

その頃 わたくしは。

「フンフンフ~ン♪」

わたくしは『経済対策室』で
『デビル・ヴォルフ・ロワイヤル(金粉入り)』の
更なる改良(悪事)に勤しんでいた。

(わたくしの『悪の経済支配』も ほぼ完成したわ!)
(そろそろ あの『悪の晩餐会』の準備も再開しないと!)

コンコンコン!

「お嬢様!」

「なによセシリオ!ノックが乱暴よ!」

セシリオが(珍しく)慌てた様子で 部屋に飛び込んできた。

「いけません!エドワード王子が リリア嬢を連れて
王宮の宝物庫に!」

「はあ?宝物庫?
あの お花畑カップルが 今度は強盗でも働く気?」

「いえ!どうやら リリア嬢の力で
財宝の『価値』を増やそうと()している模様です!」

「(……は?)」

わたくしは一瞬 理解が追いつかなかった。

(あの女の力は『価値をゼロにする』のよ…?)

(そこに『莫大な価値(財宝)』を投入したら…)

「…セシリオ」

わたくしは顔面蒼白になる。

「それって…」

「はい。
国家予算 数百年分が
一瞬で『無』に帰る可能性がございます」

「(ヒッ…!)
い 行くわよ!」

わたくしはスプーン(金粉まみれ)を放り出し
セシリオと共に 宝物庫へと全力疾走した。

---

わたくしたちが宝物庫の重い扉の前に着いた時
国王陛下も(セシリオからの事前の連絡で)兵士を引き連れて駆けつけたところだった。

「エドワード!開けろ!何をしている!」

国王が扉を叩くが 中から返事はない。

「…開けます」

セシリオはそう言うと
わたくしが止める間もなく
扉の『鍵』(超複雑な魔法錠)を
物理的に(蹴破って)破壊した。

(さすが わたくしの朴念仁護衛騎士…!)

開け放たれた宝物庫の中。
そこには。

「……」

金銀財宝の山。
…だったはずの モノが転がっていた。

黄金の杯は ただの鈍い色の『鉄くず』に。
山積みの金貨は 価値のない『石ころ』に。
壁に飾られていた伝説の絵画は
ただの『シミのついた布』に変わり果てていた。

「あ…」

「あ…あ…」

エドワードとリリアは そのガラクタの山の中で
腰を抜かし 呆然と座り込んでいた。

「そんな…なんで…」

エドワードが震える声で呟く。

「『価値』を増やそうと…
リリアが お祈りしたら…
全部…全部…!」

「エドワード様…私…私…!」

リリアは 自分が何をしでかしたのか ようやく理解したのか
顔面蒼白でワナワナと震えている。

「エドワード…!」

国王の怒りに満ちた声が 宝物庫(ガラクタ置き場)に響き渡る。

「お前は…!
我が国の『歴史』と『富』の全てを…!」

「ち 違います父上!これは何かの間違いで…!」

「間違いなどではない!」

国王は『石ころ』になった金貨を一つ拾い上げ
エドワードに叩きつける。

「これがお前の信じた『奇跡』の正体だ!
『無価値』こそが あの女の力の正体だったのだ!」

「そ そんな…」

エドワードはリリアを見た。
リリアは「ごめんなさい…ごめんなさい…」と泣きじゃくるばかりだ。

「エドワード・フォン・クライス!」

国王が 王子としての名で 厳かに言い放つ。

「そなたは 王族としての分別を失い
国庫に(修復不可能な)損害を与えた!」

「よって!そなたの第二王子としての王位継承権を剥奪!
リリア・ブラウンと共に
王都を追放!北の修道院にて 生涯をかけて国への償いを行うことを命じる!」

「そん…な…!」

エドワードは絶望の顔で 国王を見上げる。

「待ってください父上!
私は!私はただ 真実の愛を…!」

「黙れ!」

国王は冷たく言い放つ。

「その『真実の愛()』とやらが 国を滅ぼすところだったのだ。
兵士!二人を連れて行け!」

「いやだ!離せ!
私はリリアと…!真実の愛は…!」

エドワードの情けない叫び声と
リリアの泣き声が 廊下の向こうへと消えていく。

「……」

わたくしは ガラクタの山と化した宝物庫の中で
一人 呆然と立ち尽くしていた。

(終わった…)

(わたくしの復讐の相手が…
わたくしが『悪の晩餐会』で見返してやるはずだった相手が…)

(わたくしが手を下すまでもなく
勝手に 自爆して 失脚していった…)

「…お嬢様」

セシリオが わたくしの肩にそっと上着をかける。

「…なによ セシリオ。
わたくし…
何もしてないじゃないの…」

わたくしの『悪役令嬢』としてのプライドは
ガラクタになった財宝と共に
粉々に砕け散った気がした。
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