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「わたくしは 辺境に帰らせていただきます!」
国王陛下の(呆気に取られた)顔を背に
わたくしは ガラクタの山と化した宝物庫を 意気揚々と後にした。
「フン!フフン!」
王宮の廊下を歩きながら わたくしは鼻歌が出そうになるのを必死でこらえた。
気分が いい。
最高に いい!
(あの国王に!
王妃の座(お古)を蹴飛ばしてやったわ!)
(悪役令嬢として これ以上の『権力への反逆』があるかしら!)
エドワードへの復讐は 自爆という形で終わってしまったけれど
この「国王陛下への啖呵」は
悪役令嬢カタリナの歴史に 燦然と輝く功績(悪事)として刻まれるはずだわ!
「お嬢様」
「なによセシリオ!
今のわたくし 見たでしょう!完璧な悪役令嬢ムーブだったわよね!」
わたくしが振り返ると
セシリオは(いつもの)無表情で…
いや 待ちなさい。
(こいつ…!口元が…!
口元が笑いを堪えるみたいに ピクピクしてるわ!)
「あなた!今 わたくしを笑おうとしたわね!」
「…いいえ。
お嬢様の あまりに『お嬢様らしい』ご決断に
ただ 感服しておりました」
「(う…)そ そうでしょう!
わたくしは こうでなくては!」
(『お嬢様らしい』って どういう意味かしら…
まさか あの『苦行日誌』の『五歳児』的な意味じゃないでしょうね!?)
わたくしはセシリオをジロリと睨みつけながら
王宮を後にし 滞在していた『経済対策室(わたくしの城)』へと戻った。
「さあ!セシリオ!
ぐずぐずしてないで 帰る準備をなさい!」
わたくしは部屋に入るなり クローゼットを開け
(王都の職人に作らせた 最高級の)ドレスを引っ張り出す。
「このドレスも あのドレスも 持って帰るわよ!」
「お嬢様。それは辺境の土埃には不向きかと」
「うるさいわね!
『デビル・ヴォルフ』で儲けたお金で
辺境の道を 全部 大理石にしてやりますわ!」
「(…また 叔父貴様が泣いて喜びそうなことを)」
わたくしは山積みの金貨(ボーナス含む)を
頑丈なトランクに詰め込みながら
辺境での 新たなる『悪の計画』に 胸をときめかせていた。
「フフフ…待っていなさい 辺境領!」
(王都の経済なんて 小さすぎたわ!)
(これからは!あの辺境を拠点に!
わたくしの『デビル・ヴォルフ』商会(叔父上が勝手に命名)を 大陸全土に広げてやる!)
(そして!大陸の経済を支配する『悪の女帝』として
この世に君臨するのよ!)
(あの『苦行日誌』も 今度こそ燃やしてやるわ!)
わたくしが完璧な未来予想図に悦に入っていると
セシリオが黙々と 荷造りを(わたくしのガラクタを仕分けしながら)進めていた。
「…そういえば セシリオ」
「はい」
「あなたは どうするのですか?」
わたくしは手を止め 護衛騎士を振り返った。
「わたくしは 辺境に帰るわ。
でも あなたは わたくし(公爵令嬢)の護衛騎士。
王都に残るという選択肢も あるのではないかしら?」
(まあ わたくしに逆らって 王都に残るなんて言ったら
あの『苦行日誌』を お父様に(特急便で)送りつけてやるけれど!)
わたくしが内心で(悪役令嬢らしく)脅迫の準備をしていると
セシリオは 荷造りの手を止め わたくしに向き直った。
(な なによ…
いつもと雰囲気が違う…)
「お嬢様」
「は はい」
(なんで わたくしが緊張してるのよ!)
セシリオは ゆっくりと わたくしの前に進み出た。
その無表情な瞳が まっすぐに わたくしを捉えている。
「当然ながら 俺も 辺境へ参ります」
「!
そ そう!そうよね!当然だわ!」
わたくしは なぜかホッとした胸を隠すように 腕を組む。
「護衛騎士が 主君(わたくし)から離れるなんて 許しませんもの!
辺境でも わたくしの『奇行』をしっかり記録して…」
「いいえ」
「…はい?」
セシリオの低い声が わたくしの言葉を遮った。
「お嬢様」
「な なによ…」
セシリオは わたくしの目の前で
(わたくしの護衛騎士として あるまじきことに)
片膝をついた。
「!?」
(こ これって…!
騎士が 忠誠を誓う時の…!)
(わ わたくしに(今更)忠誠を誓い直すというの!?)
わたくしがドキマギしていると
セシリオは わたくしの手を取る…
ことはなく
床に落ちていたレースのハンカチ(わたくしの)を拾い上げた。
(…紛らわしいわね!)
「お嬢様」
セシリオはハンカチをわたくしに差し出しながら
(わたくしを見上げたまま)静かに言った。
「俺は これ以上
『護衛騎士』として お嬢様にお仕えするつもりはございません」
「な…!?」
(なんですって!?)
(まさか…!
わたくしのポンコツ…いえ 奇行に
ついに愛想が尽きた!?
ここで 辞表を叩きつける気!?)
「セシリオ!あなた!
わたくしを捨てるというの!?」
わたくしが絶叫すると
セシリオは(ほんのわずかに)目を細めた。
それは 笑っているようにも 困っているようにも見えた。
「…違います」
「では!」
「護衛騎士 として ではなく」
セシリオは わたくしを見上げたまま
はっきりと こう言った。
「お嬢様の 『共犯者』として
お側に おります」
「……」
「……共犯者…?」
わたくしは 彼の言葉の意味が理解できず
オウム返しに呟いた。
「はい」
セシリオは立ち上がる。
その距離は いつもより 少しだけ近い気がした。
「お嬢様は これから辺境で
数々の『悪事(ビジネス)』を 働かれるのでしょう?」
「そ そうよ!
大陸を股にかける 悪の女帝に…!」
「でしたら 護衛(まもるもの)は必要ない」
セシリオは わたくしの目を まっすぐに見つめて
(絶対に)
微笑んだ。
「共に『悪事』を働く
パートナーが 必要かと」
「(……!)」
(ぱーとなー…!?)
(きょ きょ きょうはんしゃ…!?)
わたくしの頭は 真っ白になった。
顔が 熱い。
心臓が うるさい。
(こ こ こ こいつ!
今 なんてこと言ったの!?)
(それって…!)
(それって まるで…!)
「…プロポーズ…?」
わたくしが 蚊の鳴くような声で呟くと
セシリオは
いつもの無表情に戻り
(しかし 耳が わずかに赤くなっているのを わたくしは見逃さなかったわ!)
「…さあ
どうでしょうね」
そう言って わたくしから視線を外し
荷造りを 再開してしまった。
「(キーーーッ!)」
「はっきりおっしゃい この朴念仁!!」
わたくしの絶叫が
(幸せそうな)王都の空に
響き渡ったのだった。
国王陛下の(呆気に取られた)顔を背に
わたくしは ガラクタの山と化した宝物庫を 意気揚々と後にした。
「フン!フフン!」
王宮の廊下を歩きながら わたくしは鼻歌が出そうになるのを必死でこらえた。
気分が いい。
最高に いい!
(あの国王に!
王妃の座(お古)を蹴飛ばしてやったわ!)
(悪役令嬢として これ以上の『権力への反逆』があるかしら!)
エドワードへの復讐は 自爆という形で終わってしまったけれど
この「国王陛下への啖呵」は
悪役令嬢カタリナの歴史に 燦然と輝く功績(悪事)として刻まれるはずだわ!
「お嬢様」
「なによセシリオ!
今のわたくし 見たでしょう!完璧な悪役令嬢ムーブだったわよね!」
わたくしが振り返ると
セシリオは(いつもの)無表情で…
いや 待ちなさい。
(こいつ…!口元が…!
口元が笑いを堪えるみたいに ピクピクしてるわ!)
「あなた!今 わたくしを笑おうとしたわね!」
「…いいえ。
お嬢様の あまりに『お嬢様らしい』ご決断に
ただ 感服しておりました」
「(う…)そ そうでしょう!
わたくしは こうでなくては!」
(『お嬢様らしい』って どういう意味かしら…
まさか あの『苦行日誌』の『五歳児』的な意味じゃないでしょうね!?)
わたくしはセシリオをジロリと睨みつけながら
王宮を後にし 滞在していた『経済対策室(わたくしの城)』へと戻った。
「さあ!セシリオ!
ぐずぐずしてないで 帰る準備をなさい!」
わたくしは部屋に入るなり クローゼットを開け
(王都の職人に作らせた 最高級の)ドレスを引っ張り出す。
「このドレスも あのドレスも 持って帰るわよ!」
「お嬢様。それは辺境の土埃には不向きかと」
「うるさいわね!
『デビル・ヴォルフ』で儲けたお金で
辺境の道を 全部 大理石にしてやりますわ!」
「(…また 叔父貴様が泣いて喜びそうなことを)」
わたくしは山積みの金貨(ボーナス含む)を
頑丈なトランクに詰め込みながら
辺境での 新たなる『悪の計画』に 胸をときめかせていた。
「フフフ…待っていなさい 辺境領!」
(王都の経済なんて 小さすぎたわ!)
(これからは!あの辺境を拠点に!
わたくしの『デビル・ヴォルフ』商会(叔父上が勝手に命名)を 大陸全土に広げてやる!)
(そして!大陸の経済を支配する『悪の女帝』として
この世に君臨するのよ!)
(あの『苦行日誌』も 今度こそ燃やしてやるわ!)
わたくしが完璧な未来予想図に悦に入っていると
セシリオが黙々と 荷造りを(わたくしのガラクタを仕分けしながら)進めていた。
「…そういえば セシリオ」
「はい」
「あなたは どうするのですか?」
わたくしは手を止め 護衛騎士を振り返った。
「わたくしは 辺境に帰るわ。
でも あなたは わたくし(公爵令嬢)の護衛騎士。
王都に残るという選択肢も あるのではないかしら?」
(まあ わたくしに逆らって 王都に残るなんて言ったら
あの『苦行日誌』を お父様に(特急便で)送りつけてやるけれど!)
わたくしが内心で(悪役令嬢らしく)脅迫の準備をしていると
セシリオは 荷造りの手を止め わたくしに向き直った。
(な なによ…
いつもと雰囲気が違う…)
「お嬢様」
「は はい」
(なんで わたくしが緊張してるのよ!)
セシリオは ゆっくりと わたくしの前に進み出た。
その無表情な瞳が まっすぐに わたくしを捉えている。
「当然ながら 俺も 辺境へ参ります」
「!
そ そう!そうよね!当然だわ!」
わたくしは なぜかホッとした胸を隠すように 腕を組む。
「護衛騎士が 主君(わたくし)から離れるなんて 許しませんもの!
辺境でも わたくしの『奇行』をしっかり記録して…」
「いいえ」
「…はい?」
セシリオの低い声が わたくしの言葉を遮った。
「お嬢様」
「な なによ…」
セシリオは わたくしの目の前で
(わたくしの護衛騎士として あるまじきことに)
片膝をついた。
「!?」
(こ これって…!
騎士が 忠誠を誓う時の…!)
(わ わたくしに(今更)忠誠を誓い直すというの!?)
わたくしがドキマギしていると
セシリオは わたくしの手を取る…
ことはなく
床に落ちていたレースのハンカチ(わたくしの)を拾い上げた。
(…紛らわしいわね!)
「お嬢様」
セシリオはハンカチをわたくしに差し出しながら
(わたくしを見上げたまま)静かに言った。
「俺は これ以上
『護衛騎士』として お嬢様にお仕えするつもりはございません」
「な…!?」
(なんですって!?)
(まさか…!
わたくしのポンコツ…いえ 奇行に
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ここで 辞表を叩きつける気!?)
「セシリオ!あなた!
わたくしを捨てるというの!?」
わたくしが絶叫すると
セシリオは(ほんのわずかに)目を細めた。
それは 笑っているようにも 困っているようにも見えた。
「…違います」
「では!」
「護衛騎士 として ではなく」
セシリオは わたくしを見上げたまま
はっきりと こう言った。
「お嬢様の 『共犯者』として
お側に おります」
「……」
「……共犯者…?」
わたくしは 彼の言葉の意味が理解できず
オウム返しに呟いた。
「はい」
セシリオは立ち上がる。
その距離は いつもより 少しだけ近い気がした。
「お嬢様は これから辺境で
数々の『悪事(ビジネス)』を 働かれるのでしょう?」
「そ そうよ!
大陸を股にかける 悪の女帝に…!」
「でしたら 護衛(まもるもの)は必要ない」
セシリオは わたくしの目を まっすぐに見つめて
(絶対に)
微笑んだ。
「共に『悪事』を働く
パートナーが 必要かと」
「(……!)」
(ぱーとなー…!?)
(きょ きょ きょうはんしゃ…!?)
わたくしの頭は 真っ白になった。
顔が 熱い。
心臓が うるさい。
(こ こ こ こいつ!
今 なんてこと言ったの!?)
(それって…!)
(それって まるで…!)
「…プロポーズ…?」
わたくしが 蚊の鳴くような声で呟くと
セシリオは
いつもの無表情に戻り
(しかし 耳が わずかに赤くなっているのを わたくしは見逃さなかったわ!)
「…さあ
どうでしょうね」
そう言って わたくしから視線を外し
荷造りを 再開してしまった。
「(キーーーッ!)」
「はっきりおっしゃい この朴念仁!!」
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