婚約破棄された悪役令嬢ですが、どうにも威厳が保てません!

パリパリかぷちーの

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わたくしが辺境に戻り
『悪の女帝(という名の聖女)』として
『悪事(という名の経済活性化)』に 邁進してから 一年が過ぎた。

辺境領は 見違えるように豊かになった。

わたくしの『デビル・ヴォルフ』商会(仮)は
(叔父上が わたくしの猛反対を押し切り『聖女カタリナ商会』と正式に命名しやがった!)
大陸全土にその販路を広げ 莫大な富を辺境にもたらしている。

『悪魔の涙(激辛ソース)』は 南方諸国の必需品となり
『黄金のパン(の廉価版)』は 領民たちの食卓を彩る。
わたくしが気まぐれに開発した『呪いの仮面(風アイマスク)』は
王都の貴婦人たちの間で(なぜか)安眠グッズとして 大ブームを巻き起こしていた。

「……」

わたくしは『デビル・ヴォルフ御殿(聖女カタリナ商会 本社ビル)』の
最上階にある 執務室(悪の司令塔)の窓から
活気に満ちた領地の様子を 忌々しそうに眺めていた。

道は『デビル』マネーで大理石(とはいかなかったが 綺麗な石畳)に整備され
孤児院は(わたくしの寄付(悪の資金洗浄)で)王宮の離宮のように豪華になり
領民たちは 王都の貴族より よほど良い服を着て 笑い合っている。

(おかしいわ…)

(わたくしの『悪の経済支配』は 完璧だったはず…)

(なぜ 領民たちは こんなにも幸せそうなのよ!?)
(わたくしは!圧政と重税(は叔父上が許してくれなかった)で
領民たちに『カタリナ様 助けて!』と 泣きついてほしかったのに!)

コンコン。

「ボス。お茶が入りました」

「(ボスと呼ぶな!)…入れ」

わたくしが(悪役令嬢っぽく)ふんぞり返ると
わたくしの『共犯者(という名の婚約者)』セシリオが
(いつもの)無表情で 紅茶を運んできた。

彼の手には 紅茶のトレイの他に
分厚いノートが握られている。

(出たわね!『新・苦行日誌(経済白書)』!)

「セシリオ!また わたくしの『奇行』を
お父様に報告(密告)する気ね!」

「人聞きの悪いことを。
これは お嬢様の『偉大なる功績()』の記録です」

セシリオはノートを開き 淡々と読み上げ始めた。

「『辺境二年目 春。
ボス(お嬢様)『悪役令嬢たるもの 領民を飢えさせるべき』と主張。
『デビル・ヴォルフ』の原料となる野菜の 買い占め(悪事)を実行』」

「フフン!そうよ!あの時は…」

「『結果。
買い占めた野菜で 新商品『デビル・ピクルス』を開発。
保存食として大ヒットし 辺境から飢饉(ききん)の二文字が消滅』」

「(がーん!)」

「『同年 夏。
ボス『悪役令嬢は涼しい場所でふんぞり返るもの』と主張。
領地北部の氷山の氷を 独占(悪事)しようと計画』」

「そ そうよ!あの時は…!」

「『結果。
氷を利用した『天然の冷蔵庫(物流システム)』を構築。
『悪魔の涙(激辛ソース)』の鮮度を保ったまま 大陸全土への輸出に成功。
ついでに『聖女様の氷菓子(かき氷)』がブームになり また儲かる』」

「(ががーん!)」

(わたくしの悪事が!ことごとく裏目に出てるじゃないの!)

わたくしは頭を抱えて机に突っ伏した。

「なぜなのよ…
わたくしは ただ 純粋な『悪意』で 動いているだけなのに…」

「…お嬢様」

セシリオはノートを閉じ わたくしの肩に(ごく自然に)手を置いた。

「(…クスクス)」

「今!絶対に笑ったわね!」

「いえ。
お嬢様が 今日も『いつも通り』で
安心しただけです」

(そのセリフ!王都へ行く馬車の中でも聞いたわよ!)

わたくしが抗議の目を向けると
セシリオは(ほんの少しだけ)微笑んだ。

「お時間です ボス。
本日 午後からは 重要な『悪事()』が控えております」

「なによ!
また どこかのギルドを『恫喝(友好的な会談)』しに行くの?」

「いえ。
本日は お嬢様の
『聖女カタリナ様 銅像除幕式』でございます」

「(……)」

「……はい?」

わたくしは 自分の耳を疑った。

「どうか なさいましたか?
領民たちが お嬢様への日頃の感謝()を込めて
広場のど真ん中に 建立した『救国の聖女カタリナ様』の像のお披露目です」

「叔父貴様も 張り切っておられましたぞ。
『わが姪は 辺境の誇りだ』と」

「(……)」

わたくしは ゆっくりと立ち上がった。
わなわなと 拳が震える。

(ど ど ど…)

(銅像ですって!?)

(わたくしが!悪役令嬢のわたくしが!
あのリリア(偽聖女)でさえ 成し遂げられなかった
『銅像建立』という 聖女の最高峰()に!?)

「ふ ざ け る ん じ ゃ な い わ よ ーーーー!!」

わたくしの絶叫が 辺境(と大陸全土)に響き渡った。

わたくしは執務室を飛び出し
広場へと(ドレスの裾が乱れるのも構わず)全力疾走した。

広場は すでに 領民たちで埋め尽くされていた。
中央には 巨大な白い布がかけられた「何か」がそびえ立っている。

「おお!ボス(お嬢様)!お待ちしておりましたぞ!」

叔父上が 満面の笑みで わたくしに手招きする。

「カタリナ様だ!」

「聖女様!」

「我らが救世主!」

領民たちの 熱狂的な『聖女』コール。
わたくしは ついに 堪忍袋の緒が切れた。

わたくしは(除幕式のために用意されていた)壇上に駆け上がり
集まった領民たち(と叔父上)に向かって
マイク(拡声器の魔法具)をひったくり 叫んだ。

「い い い い い い い い加減になさーーーーい!!」

広場が シン と静まり返る。

「(ゼエ…ゼエ…)」

わたくしは肩で息をしながら
領民たちを(悪役令嬢として 最高の顔で)睨みつけた。

「い いつまで わたくしを『聖女』と呼ぶつもりですの!?」

「え…?」

領民たちがキョトンとしている。

「わたくしは!
お前たちから『嘆き』を奪い!
『デビル』で暴利を貪り!
『悪魔の涙』で 舌を麻痺させ!
お前たちを 支配しようとしている!」

「悪役令嬢!カタリナ・フォン・ヴォルフなのよ!」

わたくしは胸を張り 高らかに宣言した。
これぞ わたくしのアイデンティティ!

「わたくしは!断じて!
聖女などでは ありませんわ!」

わたくしが言い切ると
広場は 数秒の静寂に包まれた。
そして。

「「「(クスクス…)」」」

「「「ワハハハハハハ!」」」

広場は 爆笑の渦に包まれた。

「え…?」

わたくしは 呆然とした。

「さすがカタリナ様!」

「ご冗談が お上手だ!」

「そうだそうだ!
そんな『悪役令嬢()』を自称なさるから
俺たちは お嬢様が 大好きなんだ!」

「(は…?)」

(わたくしの渾身の告白(カミングアウト)が…
『冗談』で片付けられた…!?)

「カタリナ様!
お嬢様が『悪役令嬢』なら
俺たちは 一生涯 お嬢様に支配される『奴隷()』で結構ですぜ!」

「そうだそうだ!」

「聖女様!万歳!」

「悪役令嬢(聖女)様!万歳!」

「(……)」

(もう…ダメだわ この領民たち…)

わたくしが 壇上で 燃え尽きたように真っ白になっていると
いつの間にか 隣に立っていたセシリオが
わたくしの耳元で 静かに囁いた。

「お嬢様」

「…なによ もう…」

「(微笑)」

(わ…!また笑ったわね この朴念仁!)

「ええ。
存じておりますよ」

セシリオは わたくしにしか聞こえない声で
(しかし 心からの愛しさを込めて)
そう言った。

「あなたが
世界で一番 ズレていて
世界で一番 人々を幸せにしてしまう」

「…世界で一番 愛(いと)おしい
『悪役令嬢』だ ということを」

「(なっ…!)」

わたくしは 顔が(銅像除幕式の花火のように)真っ赤になるのを感じた。

「(ばっ…!ばか!
誰が愛しいですって!?)」

「(フフ…)さあ 除幕式が始まります。
ボス()」

「(キーーーッ!)」
「わたくしは悪役令嬢ですってばーーーー!!」

わたくしの(もはや誰にも届かない)絶叫は
今日も 辺境の青い空に
高らかに 響き渡るのだった。
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