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8.不調の原因
しおりを挟む僕は夕飯の時間になると、母さんに相談してみることにした。
「母さん、僕は病気かもしれない」
「あら、熱でもあるの?」
母さんはすぐに体温計を持ってきた。熱がないってことを証明するためにも、僕は母さんが差し出した体温計を脇に挟んだ。
「そうじゃなくて、アドレナリンが異常分泌する病気かもしれないんだ」
「アドレナリン? 聞いたことあるけどなんだったかしら?」
母さんはよく分からないと首を傾げながら僕を見た。
「動悸とか、発汗とか、血圧が上がるとか、興奮してる状態って感じ」
「そう、晴は高血圧なの? おかしいわね、うちの家系に高血圧なんていたかしら?」
母さんはまだ首を傾げて考えている。そうじゃないんだ。高血圧かは分からないけど、そうじゃなくて……
「動悸がして顔に熱が集まる」
「ドキドキして顔が赤くなるってこと?」
そうだけど、そんな風に表現されると大したことないように思えてきた。これって本当に病気なんだろうか?
「うん、だいたいそんな感じ」
「今は赤くないわね」
「そうだね。いつでも異常なわけじゃないから……」
僕はどう伝えればいいのか分からなくなった。修二の顔を見るとそうなるなんて言うのは恥ずかしいし、でもとにかく僕はきっと病気だ。
「あら、じゃあ特定の誰かと目が合ったり、近づいたりするとそれは起きるのかしら? なんだか気持ちがモヤモヤしたり」
なぜか急に母さんは興味津々という感じで僕の顔をじっと見てきた。でもなんでそんなこと分かるんだろう。もしかして母さんもこの病気にかかったことがあって、そして息子の僕に遺伝したんだろうか。それなら納得できる。
「そ、そうだね」
途端に緊張が走る。母さんが生きてるってことは死に至る病気ではないのかもしれないけど、遺伝なら完治も難しいんじゃないかと思った。
「あら、そうなの。それは病気じゃないわ」
「……え?」
母さんの言葉は意外なものだった。しかもなんでそんなに嬉しそうに笑みを浮かべてるの?
意味が分からない。だってこんなに異常で、苦しいんだ。病気じゃなかったら、この症状をどう説明するっていうのか。
母さん曰く、恋だと言われた。
ちょっと待ってよ。恋?
恋ってあの恋?
僕はしばらく固まっていたと思う。だって信じられない。だって相手は修二で、しかも僕は男で修二も男だ。
僕は階段を駆け上がって、部屋に行き、さっきの解剖学の本を調べた。でも恋なんて病気じゃないから載ってるわけなかった。
──恋?
これは恋なのか?
もし仮にそうだとして、こんなこと誰にも明かせない。
僕は禁忌を犯してしまったような気持ちになった。
男が男を好きになることを否定はしないが、僕が修二に恋するなんてダメだ。
だいたい恋って一体なんなんだ?
僕は分からないまま、分子模型セットを机に出して、ひたすら組み立てた。
病気でもないのにアドレナリンが異常に出るとか、それは本当に健康だと言えるのか?
僕は頭をフル回転させて考えてみたけど、何一つとして解決することはなかった。
この気持ちは絶対に誰にも知られてはいけない。僕は修二の幼馴染で友達だ。それ以上なんて望んじゃいけない。
絶対にダメなんだ。これ以上修二に迷惑をかけるなんて、困らせるなんて、そんなことできるわけない。
恋ってどうやったら終わらせられるんだろう?
僕はスマホでひたすら検索してみたけど、恋心を終わらせる方法は見つからなかった。
終わってくれることを静かに待ちつつ、僕はこの気持ちを墓場まで持っていくと決めた。
恋、まだ全てが解明されていない宇宙よりももっと複雑で理解できないものだ。
そんなものに支配されるくらいなら、まだ重病の方が良かった。
だって、苦しくても症状を緩和してくれる薬はないんだから。
翌日、僕は学校を休んだ。
仮病だ。頭が痛くて死にそうだと嘘をついて休んだ。
修二が迎えにきてくれたけど、僕は出なかった。すぐに体調を心配するメッセージが届いたけど、僕は通知だけチラッと確認すると、メッセージアプリを開くこともできなかった。
ずっと考え込んでいたせいか、僕は本当に頭が痛くなって、夕方までずっと寝ていた。
夜中まで分子模型を組み立てながら考えていたせいもあるかもしれない。
カーテンの外がオレンジ色になって、明日も晴れそうだなんて考えながら、のそのそと起きる。
いいかげん修二にメッセージを返さないと、本気で心配してうちに来るかもしれない。
スマホを操作してメッセージを確認すると、僕は修二に「しっかり寝たからもう大丈夫」と返信した。
明日は学校に行かなきゃいけない。当たり前だけど修二と顔を合わせることになる。
せめてクラスが違ったらよかったのに……
嫌じゃないけど、僕に起きた現象が恋だと知ってしまったせいで、どんな顔をして会えばいいのか分からない。
僕はまた眠れない夜を過ごすことになった。
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