【完結】初恋は君にあげない

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12.不機嫌な幼馴染

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「ハル、宇乃と付き合うの?」
 月曜の朝、僕のうちに迎えにきた修二はえらく不機嫌だった。顔を見ることができなくても、鋭い視線は感じている。きっと修二はモブの僕に先越されるのが嫌なんだろう。
 でも安心して。僕も宇乃さんも、全然そんなんじゃないし。宇乃さんは僕のことを好きになったりしない。僕たちは友達だ。

「付き合わないよ。僕たちは友達」
「そうか」
「修二より先に恋人作ったりしないから安心して」
 僕に彼女ができることなんてないけどね。僕は、もし修二に彼女ができたら喜んであげられるんだろうか?
 よし、今から練習しておこう。口角を上げて、おめでとうって言ってあげるんだ。
 修二が幸せなら僕は嬉しいし、幼馴染として一緒に喜んであげるべきだ。それができないなら、友達なんて続けられない。

「絶対だからな。絶対先に恋人作るなよ?」
 そんなに念押ししなくても、僕だよ? 冴えない見た目、成績もよくないし、どう考えたってモテる修二の方が先に恋人ができると思う。もしかしたら僕なんて、一生恋人ができないかもしれない。
 修二は僕に念押しすると、僕に背を向けていつもより早足で歩いていった。

 長い足の修二と僕は歩幅が違うんだ。早く歩いたせいで、学校に着く頃には僕は汗だくだった。もしかして、いつもは僕に合わせてくれてたの?
「トイレ行くから先行ってて」
 修二にそう告げて、僕はトイレの個室に向かった。こんなに汗だくになって、汗臭いとか言われたら最悪だ。しっかりタオルで汗を拭いて、デオドラントスプレーをシューっとかけた。かけすぎたのか、ちょっと寒いくらいだ。
 デオドラントスプレーも無香料のやつを使っている。修二の香水の香りを邪魔したくないからだ。一体いつまで僕はこんなことを続けるんだろう? 叶わないくせに諦めることもできないなんて……
 不毛な恋って笑われるかな? 誰にも言ってないんだから笑われることもないか。

 トイレを出たら、宇乃さんと偶然会った。
「宇乃さん、おはよう」
「おはよう」
 宇乃さんはハッとして、俯いてしまった。微妙に気まずい空気なのは、僕が宇乃さんのカミングアウトを聞いてしまったからだろうか?
 心配しないで。僕は誰にも言ったりしない。僕だって、勘違いして宇乃さんに断りの返事をしたことをバラされたら、教室にはいられない。
「言わないから」
「うん、ありがとう」

 教室に入ったら、修二に睨まれた。
 宇乃さんと付き合ってないって言ったそばから、一緒に教室に入ってきたこと怒ってるの?
 でも友達なんだから、廊下で会ったら一緒に来るくらいいいよね?

「ハル、朝の約束」
「うん、覚えてるよ。宇乃さんとは本当にただの友達だから」
「そうか。なんかごめん。俺、ハルが取られると思って……」
 取られる? 修二みたいな人気者なら、独占したいって思う人がいるかもしれないけど、僕にそんな人が現れるわけないよ。修二は面白いことを言う。

「僕を独占したい人なんているわけないよ」
「そんなことない」
 顔は見れないけど、修二はムッとした表情を浮かべている気がする。怒っている時の声のトーンだ。約束破ってないし、破る予定もないのになんで? まだ宇乃さんのこと疑ってるの?
 宇乃さんは男を好きになれないみたいだし、僕と宇乃さんが付き合うとかあり得ない。だけどそれはいくら修二にだって、宇乃さんの許可なく話すことはできない。

 
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