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13.プラネタリウムの思い出:修二視点
しおりを挟むハルと初めて会ったのは、俺がこの街に引っ越してきた時。
途中から保育園に入った俺は、みんなの輪に入れなかった。当時は人見知りが激しく、保育園まで送ってもらって母親が帰って行く時にも「置いていかないで」と泣いていたほどだ。
そんな時に手を差し伸べてくれたのがハルだった。お日様みたいに眩しい笑顔で、俺のことを仲間に入れてくれた。
それからも家が近所ということで、ハルとはよく遊ぶようになった。
小学校でハルの漢字を習った時、ハルの名前の意味を知った。『晴』こんなに名前がピッタリと合う人は他にいないと思って感動したことを覚えている。
ハルが手を繋いでくれると子どもながらに安心して、この手を握っていれば何も怖くなかった。
だけど……成長するにつれて手を繋ぐことはなくなった。
最後に手を繋いだのは、ハルが夏休みの自由研究で作ったプラネタリウムを天井に映して見た時だ。
「ハル、本物の星みたいだね」
「うん。ちゃんと星座とか調べて形になるようにしたんだ」
俺はハルの隣に寝転んで天井を眺めた。無数の星は、手を伸ばしたら届きそうで、それなのに気軽に触れることはできない。ハルみたいだと思った。
静かな部屋にはエアコンの風の音だけが響いて、時々風が吹いてくる。本当にハルと二人で夜空を眺めているみたいだった。
「ハル、寝た?」
「んー? まだー」
語尾が伸びて、欠伸を噛み殺すハル。もう眠いんだろう。今にも眠ってしまいそうなハルの声に、俺はハルの手を握った。
久しぶりに握った手は温かくて、やっぱり安心した。
暑いし嫌がられるかと思ったら、特に反応はなかった。ハルは寝たのかもしれない。
「ハル、また天井の星、一緒に見たい」
「んー、いいよー」
ハルからは、起きているのか寝ているのか分からないような返事をした。
約束だからな。
いつの間にか俺も寝ていて、朝目が覚める頃には、繋いだ手は離れていた。
当時は恋なんて感情は知らなかったし、恋なのか友情なのか、それ以外かは今となっては分からない。ただ──ハルが俺にとって大切で特別な存在だったことは間違いない。
その後、触れられない距離を縮めたくて、太陽みたいなハルと釣り合う男になりたくて、自分磨きを始めた。
ハルの後ろに隠れているだけではダメだと、俺は一歩を踏み出した。ハル以外の人と話すのはまだ怖かったけど、ぎこちない笑顔を浮かべて他の人に話しかけたり、話のネタもわざわざ勉強したりした。雑誌を買って髪型を整えたりもした。
中学に入ってしばらくすると、俺はモテ始めた。女子に告白されたこともあったが全部断った。
お前らに好きになってほしくて努力したわけじゃない。俺はハルの隣に立つに相応しい男になりたいんだ。ハルに見てほしい。ハルの隣に堂々と立ちたい。他の誰かじゃ意味がない。この時にはもう俺は──
しかしその頃から、ハルは眼鏡をするようになった。ダサい黒縁眼鏡は全然ハルに似合わない。前髪まで伸ばして、何かから隠れるように目元は髪で覆われた。
そして目立たないよう控えめに行動するようになった。
ハルはみんなの中心で輝いている太陽だったのに、なぜそんな隅で俯いているんだ?
俺がハルの場所を作ればいいと思った。もし何か不安があるのなら、俺がハルの盾になってやる。ハルが手を差し伸べてくれたみたいに、今度は俺がハルの場所を作ってやろうと思った。
でもハルは、高校に進学した辺りから、俺と目を合わさなくなった。
理由が気になったが、怖くて聞けなかった。ハルに嫌いだと言われたら、もう生きていける気がしない。
俺が誘うとちゃんとついてきてくれるハルは、まだ俺のことを嫌ってはいないのだと信じた。
ハルが離れて行くのが怖い。理由は聞けないままだ。
クラスの中心はハルの場所だ。俺はそんなハルの隣に居られればいい。
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