【完結】初恋は君にあげない

cyan

文字の大きさ
17 / 46

17.揺れる気持ち:修二視点

しおりを挟む
 
 ハルは優しい。
 俺はハルみたいになりたくて、ハルを真似ているに過ぎない。
 ハル、どこを見てるんだ? こっち見てよ。

「なあ朝比奈、風間って優しいよな」
「当たり前だ」
 早野だっていつもハルのことを見ているはずなのに、改まってなんだ?

「さっき宇乃のこと助けてんの見たぞ」
「さすがハルだ」
 ハルが褒められると誇らしい気持ちになる。ハルは優しいんだ。困った人には手を差し伸べる奴だ。俺はハルの手に何度も助けられた。他の奴だってきっとそうだ。
 クラスの中心からは退いたが、変わっていないところを見つけると嬉しくなる。

 だがハルに手を差し伸べられてその温もりに触れた者は、ハルという光を見つけてしまった。
 ハルが助けたという宇乃という女子だ。眼鏡と長い前髪で顔を隠した冴えない見た目、俺が前に立つとオドオドと小動物のように挙動不審になる。大昔の俺みたいな奴。
 俺が話しかけると慌てて逃げていくことにも腹が立つ。

 宇乃とかいう女子は一緒に勉強をした時から、ハルの周りをうろちょろするようになった。
 みんなが気を遣って話しかけても声を出さず、ハルにだけコソコソと何か伝える態度が癇に障った。

「宇乃ってさ、絶対風間に気があるよな?」
 早野は他人の恋の話題が好きなのか、嬉しそうに俺に聞いてきた。そんなもん俺が知るわけない。確かめたいなら宇乃とかいう女子に直接聞けばいいだろ。

「知らん」
「大人しそうな顔して、積極的だよね~」
 早野が揶揄うようにそんなことを言うと、ムカムカとはらわたが煮え繰り返りそうになる。
 ハルは俺の特別だ。ポッと出てきたような冴えない女子に横から掻っ攫われてたまるか。

「でもさ、あの二人案外お似合いかもね」
「そんなわけ…………」
 早野の言葉に、俺は続く言葉を失った。

 お似合い?
 ハルが? 女子とお似合い?
 やっぱりハルは女子が好きなのか?
 いや、ハルが男が好きかもしれないと思う方がおかしいのかもしれない。
 きっとおかしいのは俺だ。
 もしハルが望むのであれば、俺が邪魔をするわけにはいかない。だが宇乃がハルを利用しようとするなら許さない。

 俺は少し離れてハルを見守ることにした。
 そうしたらハルは宇乃とかいう女子と過ごす時間を増やしていった。
 あんな冴えない女でも、女は女だ。俺には越えられない壁もあの女は簡単に乗り越えていく。

 ──悔しい。だって俺の方がハルのことを知っているのに。
 ハルが俺のじいちゃんが作ったきゅうりが好きだとか、科学の話をするときに口角が上がることとか、困っている人を放って置けずに助けに向かうところとか。他にも色々知ってるんだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

陽キャと陰キャの恋の育て方

金色葵
BL
クラスの人気者と朝日陽太とお付き合いを開始した、地味男子白石結月。 溺愛が加速する陽太と、だんだん素直に陽太に甘えられるようになっていく結月の、甘キュンラブストーリー。 文化祭編。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

処理中です...