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27.反則
しおりを挟む修二はその後、何度か夕飯をうちに食べにきた。本当はもう一度一緒にプラネタリウムを見たかったけど、勇気がなくて誘えなかった。
プラネタリウムを見た日、修二は楽しかったんだろうか? 僕はそんなことすらも聞けない。
今日は隣町の花火大会だ。駅に集まると、みんなで電車に乗っての移動。僕はちゃんと前回の花火大会で買ったお面を持ってきた。今日は宇乃さんがいないから修二が不機嫌になることもないだろう。──たぶん。
もし修二が不機嫌になる原因が宇乃さんと僕が仲良くしているのと関係なければ、どうなるかは分からない。僕はチラッと隣に立つ修二を見た。
相変わらず整った顔だ。今日は髪のサイドをヘアピンで留めている。暑いからかもしれない。僕にはそんなお洒落な髪型、似合う気がしないけど、修二には似合ってしまう。今日も修二は直視できないくらい格好いい。
ちゃんと見られないから、たまに窓の外を見るふりしてチラッと見る。何考えてるのかな?
「こっちの花火大会は出店が多いな」
「前回さ、かき氷しか甘いもん買ってなかったから、もっと色々買いたいよな」
「賛成! あたしチョコバナナとかクレープ買いたい! ミカぴは?」
「ん~あたしはいちご飴がいい。映えじゃない?」
みんな何を買うか並んでいる出店を見ながら進んでいる。
吉野さんと相田さんは、可愛いいちご飴を買って一緒に自撮りしてる。早野くんも修二と一緒に自撮りしてる。せっかく浴衣を着たんだから、明るいうちに撮っておきたいそうだ。
「マジ、前回撮り損ねたよな」
「あ、すいませーん、写真撮ってもらっていいっすか?」
近くを歩いていた家族連れに早野くんが声をかけて、まさか僕まで写真に加わることになるとは……
「風間たんウケる~、お面つけたままじゃん。取っちゃいなよ」
「でも……」
吉野さんにお面をとるよう言われて、パッと取られてカシャッと音がした。
僕みたいなモブがキラキラなみんなのところに入ってて大丈夫かな?
気に入らなければ加工して消してくれるだろう。そう信じて、僕はお面を被り直した。
「後でみんなに送信するから次行こうぜ」
僕には送ってくれなくていいよ。なんか自分が惨めになりそうだし……
でも、修二の浴衣姿の写真はちょっとだけ欲しい。早野くんが送ってくれたら、僕のところだけ切り取って消して保存しておこう。
「ハルこれ食ってみ! 上手いからさ!」
修二にピックに刺さった唐揚げを口の前に差し出された時はどうしようかと思った。
「どうした? ハル唐揚げ好きだろ? ほら、あーん」
僕が修二が持っていたピックを受け取ろうとすると、あーんと言って口元に突きつけられて、ちょっとパニックになった。
アドレナリンの異常分泌が始まって、どんどん顔に熱が集まっていく。
「あ、うん、あーん」
修二にあーんされてしまった……
迷った挙句、僕は口を開けてしまったけど、大丈夫だっただろうか?
僕はその日、あーんされたことが頭から離れなくて、大好きなはずの花火のことも見ていたはずなのに全然覚えていなかった。
帰り道の会話も全然覚えてない。変なこと言ったりしてないよね?
家に帰って部屋に戻っても、アドレナリンもドーパミンも止まらない。ずっと心臓は鼓動が早いままだし、顔も熱い。それなのに嫌じゃないっていう謎の感情はきっとドーパミンのせいだ。
幸福を司ると言われるドーパミン……
もうそんなに出なくていいよ。
静かな場所で一人になると、思い出されるのは「あーん」と笑顔を向けてくれた修二の顔。
ヤバイ、ヤバイ、もう無理だ!
心の中で叫びながら、ベッドの上をゴロゴロ転がりまくった。
あっ……
ドサッ
「晴? 何してるの? 夜遅いんだから静かにしなさい」
母さんの声が一階から聞こえてきた。
分かってる。分かってるからこうして声を押し殺して音を立てないようにゴロゴロしてたのに。ベッドから落ちてしまったのは、なんていうか、引力が……
だからこれは地球のせいなんだ。訳の分からない言い訳をしながら、僕は枕に顔を埋めた。
あんなの反則だよ。僕の気持ちなんて知らないから仕方ないんだけどさ、本当に反則。
あんなの何度もされたら僕は心臓が破裂して死ぬと思う。
吉野さんと相田さんは女子同士だからか、いつも普通に食べさせ合ったりしてるけど、修二も同じ感覚なんだろうか?
僕だけがこんなにおかしくなって、本当に困る。
ブブッと枕元に置いていたスマホが震えて、見てみると早野くんから今日の写真が送られてきていた。
メッセージ付きだ。
『風間コンタクトにしたら?』
送られてきた二枚の写真は、片方は僕がお面を被ってるもので、片方はお面を被っていない。いつも前髪とサイドの髪で顔をできるだけ隠しているのに、今日は不意打ちで吉野さんにお面を取られたせいで顔が隠れていなかった。前髪は後ろに流れて、おでこまで見えているし、サイドの髪もお面のゴムを耳にかけるときに邪魔で耳にかけたんだった。
これは失敗だ……
白鳥の群れに僕のようなアヒルが紛れ込んですみません。
早野くんからのコンタクトにしたらいいってアドバイスは、お面の時は眼鏡をかけられないことを気にしてくれたんだろう。モブの僕に対しても優しくしてくれてありがとうございます。
僕は色々と申し訳ない気持ちになりながら、スマホを伏せて目を閉じた。
今は写真であっても修二のことが見られる気がしない。
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