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28.将来の夢:修二視点
しおりを挟む可愛かった。俺が唐揚げをあーんしてやると、ハルは親鳥から餌をもらう雛みたいに口を開けて待っていた。
あまりに可愛いから、しっかりと目に焼き付けました。
なんでそんなに可愛いことするんだよ。自分が可愛いこと自覚してんのか?
自分がさせたくせに、可愛すぎて俺は平静を保てなくなりそうだった。
帰って部屋で花火の写真を眺めていると、早野から写真が送られてきた。
写真は二枚。みんなで撮ったやつだった。そのうちの片方が問題だったんだ。
ハルの美少年がバレた。
慌てて立ち上がると、早野から着信がきた。
「なんだ?」
「なあ、朝比奈が必死に風間のこと守ってんのやっと理解できた」
「は?」
「風間ってこんな美少年だったんだな。家帰って写真見て、誰か別の奴が写り込んでんのかと思った。これは過保護になる気持ちが分かる」
「学校の他の奴らに写真回すなよ」
「オッケー、みんなにも言っとく」
通話はそれだけだった。早野のやつ、そんなことを言うためにわざわざ通話してきたのかよ。
いつかはバレると思っていたが、まさかこんなに早いとは……
俺だって知らないまま何年も過ごしていたのに。
正直、ハルがお面を買いたいと言った時、なんでそんなものと思ったが、ハルの顔が隠れるのならちょうどいいと思った。
まさか宇乃はハルの素顔を知ってるんじゃないよな?
お盆になると、俺はじいちゃんの家に行ってきゅうりの畑を見せてもらった。
「修二が畑に興味を持つとはな」
「俺の友達が、じいちゃんのきゅうり好きだって言ってんだ。スーパーのより美味いって。だから秘訣教えてくれよ」
「その友達いい子じゃな。いっぱい持っていけ」
じいちゃんは色々と肥料のこととか、支柱がどうのとか、水のこととかを教えてくれたが、農業のことなんて今まで興味を持ったこともなかった俺には、全然理解できなかった。
俺が育てたことがあるのなんか、小学校低学年の頃に学校で育てた朝顔くらいだ。
農業か。将来農業に携わるかどうかは分からない。だが、ハルが俺が作ったきゅうりを喜んで食べてくれるなら、農学部に進むという進路もありだと思った。
ハルは理系に進むだろうが、俺はそんなに理系が得意ではない。ハルが話してくれる宇宙の話は面白いし、プラネタリウムを見るのも好きだが、宇宙関連は物理が得意でないと難しいだろう。
それならまだ理解できる生物を勉強して、農学部という道はありだ。
連日、じいちゃんと畑に行っていたせいで俺の肌はこんがりと焼けた。
日焼け止めクリームを塗っていたはずなのに、汗を拭いた時などに流れたのかもしれない。
ハルの白い肌を思い出す。こんな日に焼けて、将来シミとかできてハルに嫌われたら嫌だな。
「きゅうり顔に貼っておきなさい」
ばあちゃんが、成長しすぎた巨大きゅうりを薄切りにして顔に乗せてくれた。
こんなんで効くのかよ……
半信半疑だったが、ハルにきゅうりパックしている写真を送ったら、「すごい! 農家の知恵だね。きゅうりはビタミンCも含まれているし、水分も豊富だから日焼けした肌にいいと思う」とテンション高めの返事が返ってきた。
ハルが喜んでくれるなら、俺はきゅうりパックでもなんでもやってやる。
でもやっぱり、ハルには格好いいと言われたい。
お盆が明けると、俺はじいちゃんに大量のきゅうりやらトマトやら茄子やらを持たされて帰ることになった。
家に戻った俺は、ハルに家に行っていいか連絡をしたらいつでもいいと返事があった。
「ハル、久しぶりだな。じいちゃんが色々野菜くれたから持ってきた」
「修二、日に焼けたね。海とか行ったの?」
そんな夏をエンジョイするようなイベントはなかったな……
「いや、じいちゃんの畑を手伝ってた」
「そっか、そんなに日焼けするなんて、野菜食べる時は農家の人に感謝しないとね。修二もお疲れ様。もらった野菜はありがたくいただきます」
その言葉を聞けただけで、じいちゃんについて畑の手伝いを頑張った甲斐があったと思った。
「ソーダで星のゼリー作ったんだけど食べる?」
「ハルが作ったのか? 食べたい!」
ハルが料理をするという話は聞いたことがない。小学生や中学生の頃は野菜の皮剥きをしているのは見たことがあるが、家庭科で包丁を握った時も危なっかしかった記憶がある。
星の抜き型で、色々な果物を抜いて、それをブルーハワイのかき氷シロップで色をつけたソーダのゼリーの中に浮かべたのだとか。
星座の形に配置したはずだったが、ゼリーの液を入れるとズレたり浮いたりして、星座は崩れてしまったらしい。残念そうに話してくれた。
しかし楽しかったようで、夏の星座の話を色々と聞かせてくれた。
「あ、ごめん。僕ばっかり色々話して……こんな話聞いてもつまらないよね……」
ハルが科学の話をしているのを聞いているのは、俺にとって楽しいし嬉しい。ハルが楽しそうなのが一番嬉しいんだが、ハルは時々ふと我に返ったようにこんなことを言う。
「つまらないなんてことない。俺はもっと聞きたい」
「そう?」
ハルは不安そうにチラッと俺の顔色を窺って、少しだけ続きを話すと、ゼリーを黙々と食べ始めた。
もっと聞きたかった。もっとハルの楽しそうな顔を見ていたかった。
ハルはすごいのに、もっと堂々としていればいいのに、いつ自信をなくすようなことが起きたんだろう?
俺が救ってやることはできないんだろうか?
ハルが作った星のゼリーは、甘くてシュワシュワ弾けて、夏にぴったりだと思った。
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