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16.ハルからの返事:修二視点
しおりを挟む「朝比奈~、ってお前機嫌悪そうだな」
「別に……」
早野に声をかけられたが、素っ気ない返事しかできなかった。今日はハルに会えない。
本当はお見舞いに行きたいし、病状だって気になる。だけど昨日の俺の態度を考えると会いに行っていいのか分からなかった。
ハルに送ったメッセージは昼を過ぎても既読にすらならない。そんなに病気は重いのか?
昨夜変えたスマホの壁紙。スマホを見る度に表示される誰もいない砂浜。まるで俺への戒めみたいだと思った。
「朝比奈、バーガー食いたくね?」
「いや……」
放課後になると俺は了承していないのに、早野と久賀にファーストフード店に拉致られた。
「で? 朝比奈はなんでそんなに不機嫌なんだ?」
早野は興味津々という感じで身を乗り出して聞いてくる。久賀は黙って座ってコーヒーを一口飲んだ。
「風間が休んでるのと関係あるのか?」
久賀はたまに鋭い。俺がハルのことを特別に思っていることがバレるのはいいんだが、ハルの立場がおかしくなるかもしれないと思うと言えなかった。
「ハルから返事がない」
俺はジュースのストローを眺めながら言った。それも嘘じゃない。実際、まだハルへ送ったメッセージは既読にもなっていないし、返事もない。
「あ~だからムカついてんのか」
早野は単純で助かる。ムカついてなどいないが、そう勘違いしてくれた方がいい。だが久賀の視線が気になった。久賀は何に気づいた?
俺がクラスの中心にいる違和感か? それともハルに特別な想いを抱いていることか?
緊張で手に汗が滲んだ。
「病欠なんだから寝てるんだろ」
久賀はポーカーフェイスで感情を読み取ることが難しい。何を考えているのかは分からないが、真っ当な返しをしてきた。
「だよね~、寝てるんじゃない? 明日には来るといいよね。風間って体弱いの?」
「いや、そんなことはないと思う」
むしろ小さい頃は俺の方が体が弱かった。いつも先に風邪を引くのは俺で、休むとプリントなどを持ってハルが学校帰りに寄ってくれた。あの頃はスマホなんて持ってなかったし、何か用があれば気軽に家に行っていた。今は目も合わせてくれないのに、気軽に行けない。
ハルとどんどん距離が離れていくようで不安だ。
スマホが震えて通知を確認すると、ハルからのメッセージだった。慌てて見ると「しっかり寝たからもう大丈夫」とのことだった。
俺は焦っていたんだ。もうハルからメッセージが来ないんじゃないかと、もう隣に居させてもらえないんじゃないかと。
だからこのメッセージを見て、とても安堵した。
「風間からか? よかったな」
久賀に言われた。なんでハルからの連絡だと分かった?
「修二って分かりやすいよね。どんだけ風間のこと好きなんだって感じ。女の子が風間に嫉妬するわけだ」
早野に揶揄われても今は何とも思わない。何を失っても俺にはハルがいればいい。
「うるさい」
「でもさー、もし風間に彼女でもできたら姑みたいになりそうだよね~」
「姑じゃなくて娘を取られた父親だろ」
「え~、じゃあ『風間くんを私にください』『絶対やらん!』みたいな? ヤバイじゃん」
「朝比奈は過保護だからな」
久賀まで早野と一緒になって俺を揶揄いだした。
「どっちも違う。俺はハルの幸せを見守るんだ」
本当にそんなことができるかは分からないが、俺はハルが幸せならそれでいい。
スマホの画面に視線を落とし、ハルからきたメッセージをもう一度読む。きっと寝ていたんだ。だから既読にもならず、返事も遅かった。だから大丈夫だ。まだ俺はハルの隣に居られる。
この時は、そう信じて疑わなかった。
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