【完結】初恋は君にあげない

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39.お別れ

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 文化祭の頃だと思う。一体何がきっかけだったのかは分からない。
 そもそもきっかけはあったんだろうか?
 僕と修二の関係は、あの頃から微妙に気まずいままだ。

 そして修復もできないまま、僕たちは三年になった。
 今年は暖かくなるのが早くて、桜の開花が早まるかもしれないと言っていたのに、そんなことはなかった。
 僕は一人、校庭の中でも一番大きな桜の木を見上げた。

「とうとう、修二とお別れみたいだ」
 別に修二が引っ越したとか退学したとかそんなんじゃない。クラス替えで別のクラスになったんだ。しかも一番端と端。もう関わるなと言われているみたいだと思った。
 でもちょうどよかったのかもしれない。

「修二、登下校別にしようよ。僕は今月から受験に向けて塾に通うし、修二もそうでしょ?」
 僕は修二がどこの大学を目指しているのか知らない。あえて聞かなかった。
 そんなのを聞いてしまったら追いかけたくなるかもしれない。迷惑はかけたくないんだ。
 今まで気まずくて目を合わせられなかったのに、登下校を別々にしようと伝える時は、真っ直ぐに修二の目を見て言うことができた。
 こんな時だけずるいって思う?
 しかも今日はとても冷静だった。淡々と告げることができた。アドレナリンも出なかったし、僕はいつになく堂々としていたと思う。

 修二を僕から解放してあげたかったのかもしれない。
 だって気まずくなってから、修二はずっと辛そうだった。その間に僕も少しは冷静に考えられるようになったみたいだ。
 いいんだ。初恋は叶わないものだって言うし、このまま物理的距離が離れれば、僕が修二に抱く想いも薄れていくと思う。
 僕はそれを期待している。

 そしていつか、何年も経っておじさんになってから、街でばったり出会っちゃったりしてさ、お互いおじさんになったねなんて言いながら、友達に戻るんだ。
 そんな未来が来るのなら、僕がここで失恋することにも意味はある。

 プラネタリウムを一緒に見ようって約束は、守れそうにない。
 だって小学生の僕が作ったプラネタリウムを、おじさんになる頃まで壊れずに保つなんて無理でしょ?
 でもできるだけ長く……
 そんなの意味ないか。

 僕が堂々と言ったのに、目の前にいる修二は何も言わなかった。いいとも嫌だとも言わなかった。
 ダメだって言わないんだから、肯定ってことでいいんだろう。
 全く引き止められないってのも少し寂しい気はしたけど、予測できた反応とも言える。

 僕は修二に背を向けて、今年一年間使うことになる教室へ向かった。
 教室に入ると知っている顔を見つけた。
「あれ? 宇乃さんも同じクラスなんだね」
「そうみたい。よかった、他に知り合い全然いなくて。風間くんがいるなら安心」
「うん、僕も。二年の時同じクラスだった人、ほとんどいないよね。いても話したことない人しかいない」
 辺りを見渡すと、三年にもなれば見たことある人はいるけど、言葉を交わしたことがある人は宇乃さんくらいだった。早野くんや久賀くんも、吉野さんも相田さんもいない。
 早野くんや久賀くんがいたところで、修二がいないなら僕がキラキラグループに入るなんて無理なんだけど、せめて話したことがある人がもう少しいればよかったのに。

 今年はみんなで集まってわいわい騒ぐより、受験勉強をしなければならない。
 だからよかったのかもしれない。マイナスになんていくらでも考えられる。逆にプラスにだっていくらでも考えられる。

 きっと先生たちは、勉強の妨げになるようなグループは全部バラバラにして各クラスに分けたんだ。友達と切磋琢磨するのもいいけど、目指す場所が違うのに同じ勉強をしていてはいけない。きっとそうだ。きっと受験が成功するために先生たちがあえてしたことだ。
 僕はそう思うことにした。

 僕は受験だけに集中する。誰かと仲良くなんてしなくていい。
 今の僕がしなきゃいけないことは、勉強だ。
 そう決めると、急に頭の中がスッキリとクリアになって、やる気が湧いてきた。
 きっと思考回路の大半を恋という病みたいなものに侵されてたんだ。だから決別することで思考伝達がスムーズになって……

 要するに重い荷物を持ってゆっくりしか歩けなかったのが、荷物を下ろして軽快に歩けるようになった感じ。修二を好きになったことは余計な荷物なんかじゃなかったけど、それでも苦しくて辛かった。冬の間は、見えない氷の壁が二人の間にあるみたいで、冷たくて寒くて、孤独だった。

 サァーと強い風が吹いて校庭の桜が舞った。僕は教室の窓から眺めた。
 これからは、庇ってくれる修二がいない。僕は強く生きていかなければいけない。

 
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