42 / 46
42.ハルの影:修二視点
しおりを挟む「朝比奈、サッカー部が試合するけど人数足りないんだってさ、一緒に行こうぜ」
早野に誘われて、あまり乗り気しないまま向かった校庭。梅雨の合間の晴れた空は日差しが強くてジリジリと焼けるように暑い。
だが校庭からはハルの教室が見えた。
会いたいなら教室に会いにいけばいいのに、拒絶されるかもしれないと思うと行けなかった。
そうか校庭からなら堂々と眺めることができるんだ。
サッカーの試合はそこそこ楽しかったが、俺はハルの教室が気になって試合中に何度も見ていた。
もう帰ってしまったかもしれないが、いるなら一目でいいから見たいと思った。
っ!!
その願いが届いたのかは分からない。偶然かもしれないが、ハルがボーッと物憂げに校庭を眺めていたんだ。
手を振りたかったが、たぶん俺には気づいていないんだろう。しばらくすると、カーテンが閉められてしまった。
だがあそこにハルがいたのだと思ったら、視線を送らずにはいられなかった。
ピピー
試合終了の笛の音が鳴ると、みんなで真ん中に集まって試合の振り返りをした。そしてハルの教室を見ると、人影が見えたんだ。ハル、だよな?
俺のこと見ていたのか?
まだ俺たちは友達に戻れるか?
俺は挨拶を終えると、三年Aクラスの教室に向かった。まだいるかは分からないし、最後に見た人影は本当にハルだったのかは分からない。だがどうしても会いたかった。
さっきまで走り続けてへとへとなのに、更に廊下を走って向かう。教室の前に着くと、深呼吸を繰り返して呼吸を整えた。
こういうのは勢いが大事なんだ。そう自分に言い聞かせてドアに手をかける。
ガラガラ
「ハル!」
勢いよく開いたドアの向こうはシンと静まり返って、誰もいなかった。
あれは幻だったんだろうか?
俺はハルの幻を見たんだろうか?
走って疲れたからじゃない。急に足の力が抜けて、俺は冷たい廊下にヘナヘナとしゃがみ込んだ。
手を伸ばせば届きそうな距離が、もう決して触れられない距離になってしまった。
しばらく放心していたが、いつまでもこんなところで座り込んでいるわけにはいかないと、ゆっくり立ち上がり、教室に向かった。
鞄を抱えて帰る帰り道は、いつも以上に足も体も気分も重い。
ふと気づくと、自分の家を通り過ぎてハルの家の前まで来ていた。ハルの部屋はカーテンの隙間から明かりが漏れている。きっとカーテンの向こうにはハルがいる。教室と違って幻じゃない。
カーテンが開かないかとしばらく見ていたが、夜にカーテンをわざわざ開ける用事なんてない。残念ながら俺は諦めて家に引き返すしかなかった。
まさかあの時、ハルが必死にDNAの分子模型を作っていたなんて、俺は全然知らなかった。
93
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
陽キャと陰キャの恋の育て方
金色葵
BL
クラスの人気者と朝日陽太とお付き合いを開始した、地味男子白石結月。
溺愛が加速する陽太と、だんだん素直に陽太に甘えられるようになっていく結月の、甘キュンラブストーリー。
文化祭編。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる