【完結】初恋は君にあげない

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42.ハルの影:修二視点

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「朝比奈、サッカー部が試合するけど人数足りないんだってさ、一緒に行こうぜ」
 早野に誘われて、あまり乗り気しないまま向かった校庭。梅雨の合間の晴れた空は日差しが強くてジリジリと焼けるように暑い。
 だが校庭からはハルの教室が見えた。
 会いたいなら教室に会いにいけばいいのに、拒絶されるかもしれないと思うと行けなかった。
 そうか校庭からなら堂々と眺めることができるんだ。

 サッカーの試合はそこそこ楽しかったが、俺はハルの教室が気になって試合中に何度も見ていた。
 もう帰ってしまったかもしれないが、いるなら一目でいいから見たいと思った。

 っ!!
 その願いが届いたのかは分からない。偶然かもしれないが、ハルがボーッと物憂げに校庭を眺めていたんだ。
 手を振りたかったが、たぶん俺には気づいていないんだろう。しばらくすると、カーテンが閉められてしまった。
 だがあそこにハルがいたのだと思ったら、視線を送らずにはいられなかった。

 ピピー
 試合終了の笛の音が鳴ると、みんなで真ん中に集まって試合の振り返りをした。そしてハルの教室を見ると、人影が見えたんだ。ハル、だよな?
 俺のこと見ていたのか?
 まだ俺たちは友達に戻れるか?

 俺は挨拶を終えると、三年Aクラスの教室に向かった。まだいるかは分からないし、最後に見た人影は本当にハルだったのかは分からない。だがどうしても会いたかった。
 さっきまで走り続けてへとへとなのに、更に廊下を走って向かう。教室の前に着くと、深呼吸を繰り返して呼吸を整えた。
 こういうのは勢いが大事なんだ。そう自分に言い聞かせてドアに手をかける。

 ガラガラ
「ハル!」

 勢いよく開いたドアの向こうはシンと静まり返って、誰もいなかった。
 あれは幻だったんだろうか?
 俺はハルの幻を見たんだろうか?
 走って疲れたからじゃない。急に足の力が抜けて、俺は冷たい廊下にヘナヘナとしゃがみ込んだ。
 手を伸ばせば届きそうな距離が、もう決して触れられない距離になってしまった。

 しばらく放心していたが、いつまでもこんなところで座り込んでいるわけにはいかないと、ゆっくり立ち上がり、教室に向かった。
 鞄を抱えて帰る帰り道は、いつも以上に足も体も気分も重い。

 ふと気づくと、自分の家を通り過ぎてハルの家の前まで来ていた。ハルの部屋はカーテンの隙間から明かりが漏れている。きっとカーテンの向こうにはハルがいる。教室と違って幻じゃない。
 カーテンが開かないかとしばらく見ていたが、夜にカーテンをわざわざ開ける用事なんてない。残念ながら俺は諦めて家に引き返すしかなかった。

 まさかあの時、ハルが必死にDNAの分子模型を作っていたなんて、俺は全然知らなかった。

 
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