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43.星空の下で見つけた君
しおりを挟む修二のことは諦めたはずなのに、夢にまで出てきて、僕に向かって「ハル、おはよう」って微笑んできた。
また僕は修二に心を掴まれて、思い悩む日々を過ごすことになりそうだ。
一度は消そうと思って、でも消せなかった去年の花火大会の写真。
もうすぐ夏休みだと思うと嫌でも思い出してしまう。
あの時は楽しかった。
僕は毎日、寝る前にこの写真を眺めるようになった。
同じ学校だし近所なんだから会いに行けばいいのに、そんな勇気はないから夢の中に出てきてくださいと願う。
もし僕が会いたいって言ったら、修二は困るんだろうか?
それとも修二は優しいから、「久しぶり」と言って会ってくれるんだろうか?
人の思いは数学や科学みたいに計算すれば答えが出るわけじゃない。
もっと簡単な構造だったらいいのに。
太陽系の星みたいに、決まったルートしか辿れない仕組みだったらよかったのに。
勉強が一段落して、椅子に座ったまま両手を上にあげて伸びをする。
んんー
星を最近見ていない。
プラネタリウムを見ようかと思ったけど、また修二に「なんで一人で見るんだ」って怒られる気がして見れなかった。
じゃあ本物の星でも見てみようか。僕は電気を消して、エアコンがブォーっと音を立てている横の窓を開けた。
モワッと湿気を帯びた生温い風が入ってきて、温度差がすごい。
今日は満月か。じゃあ他の星はほとんど見えないな。そう思って窓を閉めようとした僕の視界にあり得ないものが飛び込んできた。
え!?
僕は慌ててカーテンを閉めて、でも気になったからもう一度そっと開けて見てみた。間違いない。あれは修二だ。
ピロン
スマホが鳴って画面を開くと、修二からメッセージが届いていた。
『会いたい』
僕は慌てて階段を駆け下りた。
会ってしまったら、また修二への想いに囚われてしまうのに、足を止めることができなかった。僕も会いたかった。
なんで? いつから? 疑問は次々と湧き上がってくるんだけど、さっきのメッセージの破壊力が強すぎて、疑問はすぐに消えてしまう。
玄関のドアノブに手をかけた時はほんの一瞬だけ躊躇った。ドアを開けたら、引き返せない気がしたんだ。必死に忘れようと努力した日々も、やっと慣れてきた修二がいない日々にも……
でも僕も会いたかった。写真の中の修二じゃなくて、本物の修二に会いたかったんだ。
ガチャッ
本物? 幻じゃないよね? いつからここにいたの? なんでここにいるの? 僕が気づかなかったらどうしたの?
言いたいことも聞きたいことも色々あるのに、言葉は出てこなかった。
情けない顔をして立っている修二。なんでそんな顔してるのか全然分からない。
「こ、こんばんは」
僕の口から出た言葉は、挨拶だけだった。なんだそれ。久しぶりに会った友達に、他に言うことはなかったのか。
「こんばんは」
修二も同じ挨拶を返してきた。
何それ。修二だってもっと他に言うことはあったでしょ?
訪れる沈黙。夏の虫たちの声が沈黙を紛らせてくれる。でも何か話さなきゃ。次いつ会えるか分からないんだから。どんどん焦る気持ちが湧き上がって、余計言葉が出てこなくなる。
「いつから?」
やっと口に出せた言葉は主語もなく、何に対しての質問か分からないような呟きだった。
「塾から帰る時だから、そんなに経ってない」
修二は言葉足らずな僕の言葉でも察してくれた。もっと上手く伝えたいのに、なんで上手く言葉が出てこないんだろう? なんでこんなにドキドキして苦しいんだろう?
「なんで?」
「会いたかったから」
そりゃあそうだ。会いたくないのに人の家の前で待ってるわけがない。妙に納得してしまい、違うそういう意味じゃないと頭の中で自分にツッコミを入れた。
なんで会いたかったんだろう?
会いたいって、好意的な理由だけじゃない。よくある復讐の物語では、やっとラスボスに辿り着いた時に、「会いたかったぜ、俺はお前に復讐することだけを考えて生きてきた」みたいなセリフがあるくらいだ。
修二が僕に復讐したいほど恨みを持っているとは思わないけど、僕はなんとなく怖くて、理由を聞くことができなかった。
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