【短編】門番のおじさんイケメン近衛騎士に唇を奪われる

cyan

文字の大きさ
2 / 10

2

しおりを挟む
 
 それから彼はたまに王族の護衛のために、俺が働いている門を通る。その時に小さく会釈してくれるので、それが密かな楽しみになっていた。
 別に恋慕しているわけではない。ただちょっとドキドキするだけだ。

 そして半月ほどいつもと変わらない日々を過ごすと、また彼がやってきた。
「ローマンさん、いいですよね?」
 聞いたことのある台詞、前にもされた質問だ。しかし今度は何だろう?

「それは……何に対してでしょうか?」
 俺はまた壁際にまで追い詰められるも、どうにか質問を返し、彼を見つめた。綺麗な目だ。少し揺れて、急に獲物を狙う猛禽類のような鋭い目になった。
 俺、もしかしてなんかやっちまったか?
 どこかで気付かないうちに不敬を働いたりしたんだろうか?

「その目……誘ってます?」
「はい?」
 何の話だ? 全然分からないんだが。

「キスさせて下さい」
 そう言うと、俺の返答も聞かずに彼にまた唇を奪われた。また罰ゲームか? それとも虐めや、何か弱みを握られて遊ばれているんだろうか? 心配だな。
 俺はまた抵抗せず、彼のキスを受け入れた。今回はチュッチュッと音を立てて唇に吸い付かれた。
 柔らかくて気持ちいい唇だな。俺の唇よりも厚みがあってぷっくりとしている。こんな俺のようなおじさんの、カサついて手入れもされていない唇にキスしなければならないなんて、可哀想に……

 しばらくチュッチュッと唇に吸い付かれると、キスは終わってキツく抱きしめられた。おぅ……今回はそんなサービス付きか。
「なんかすまんな。加齢臭とか……臭くないか?」
 彼から甘く爽やかな香りがして、自分の体臭が気になった。加齢臭とかしたら申し訳なさすぎる。

「全然。芳しいローマンさんの香りならいつまででも嗅いでいられます」
 彼が俺の鎖骨辺りに顔を近づけてスゥーっと息を吸い込むと、本当に申し訳ない気持ちになった。
「いや、それはやめた方がいい。君の美しさに悪影響を及ぼしそうだ」
「そんなことない!」

 もしかして、門番のおっさんを落とせという虐めにあっているのか?
 落ちたフリでもして、早く終わらせてやろう。きっとどこかから主犯の奴が俺たちのことを見ているんだろう。

 俺は彼の背中に腕を回して抱きついて、彼の首筋に口付けた。
「あっ……」
「すまん、首はまずかったか?」
 いきなり見目麗しい彼から艶っぽい声が漏れて、やりすぎたと焦った。俺なんかにそんなことをされてさぞ不快だっただろう。申し訳ない。

「ローマンさん、好きです」
「ああ、俺もだ」
 どこで聞いている? この青年を虐めている奴、もうこれでいいだろ?
 しかし彼は全然腕を解いてくれなかった。

「エリック様? もうそろそろ仕事に戻られた方がいいのでは?」
「そうか……夕方迎えにきます。待っていて下さい」
「はい」
 ん? 思わず「はい」と答えてしまったが、迎えにくると言ったか? どこかへ連行されるということだろうか?

 ああ、仲間に証拠として俺との仲を見せつけて、確認をして終わりという流れだろうか?
 仕方ない。最後まで付き合ってやろう。
 何度もこんなおじさんにキスだのハグだのするのは可哀想だ。

 仕事が終わって着替えてしばらくすると彼がやってきた。私服だ。きっちりとボタンを首元まで留めた真っ白な近衛騎士の制服も似合っていたが、ラフなシャツの襟元をボタン二つ分はだけさせ、しっかりと折り目のついたパンツを履きこなす姿も格好いい。
 俺もこんなに足が長く生まれていれば、この歳まで独り身ではなかったかもしれない。

「それで仲間はどこです?」
「はい? 仲間? 何の話ですか?」
 ああ、仲間などではないよな。虐められているなら、仲間ではなく敵のようなものだろう。しかし彼の同僚であろう人たちを敵と言うのもおかしな話だ。なんと呼んだらいいのか考えていると、不意に手を繋がれた。

「嫌、ですか?」
 嫌なのは君のほうだと思うが……
 おじさんのカサついた手など握って喜ぶような奴はいない。

「嫌ではない」
「そうですか、よかったです」
 そう言いながらさりげなく指と指を絡める恋人繋ぎにされた。若くて美しく、線もまだ細いのに、彼の手は大きかった。ずんぐりとゴツくて丸い俺の手とは違い、手のひらは大きく厚みがあるが、指は細く長い。
 綺麗な人というのは、指先まで綺麗なんだと思い知った。
 手のひらの厚みからして、彼はその見た目だけでなく実力で近衛騎士になったことが分かった。訓練されている手だ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

騎士隊長が結婚間近だと聞いてしまいました【完】

おはぎ
BL
定食屋で働くナイル。よく食べに来るラインバルト騎士隊長に一目惚れし、密かに想っていた。そんな中、騎士隊長が恋人にプロポーズをするらしいと聞いてしまって…。

何故か男の俺が王子の閨係に選ばれてしまった

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男アルザスは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 なぜ男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へ行く。 しかし、殿下はただベッドに横たわり何もしてこない。 殿下には何か思いがあるようで。 《何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました》の攻×受が立場的に逆転したお話です。 登場人物、設定は全く違います。

アルファの双子王子に溺愛されて、蕩けるオメガの僕

めがねあざらし
BL
王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、 その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。 「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。 最初から、選ばされてなどいなかったことを。 αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、 彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。 「愛してるよ」 「君は、僕たちのもの」 ※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)

パン屋の僕の勘違い【完】

おはぎ
BL
パン屋を営むミランは、毎朝、騎士団のためのパンを取りに来る副団長に恋心を抱いていた。だが、自分が空いてにされるはずないと、その気持ちに蓋をする日々。仲良くなった騎士のキトラと祭りに行くことになり、楽しみに出掛けた先で……。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...