伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ

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第9話:貴族学校の門と新たな一歩

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「ミア様、おはようございます。入学式の日ですね。朝食をお持ちしました。どうぞ召し上がってください」

「ありがとう、リナ。おはよう。やっと入学式だね、ドキドキするよ」

私はベッドから降りて、机に置かれたトレイを見た。焼きたての丸パンにリンゴのジャム、ミントが香るハーブティーが湯気を立てている。リナが椅子を引いて、私に微笑んだ。

「ミア様、緊張なさってるんですか? 大丈夫ですよ、貴族学校はミア様にぴったりの場所です。」

「うん、リナがいてくれるから安心だよ。入学式、どんなかな」

「私、噂で聞いたんですけど、王都の貴族学校は入学試験がない代わりに、進級や卒業の試験がとても厳しいそうです。ミア様ならきっと大丈夫ですよ」

「へえ、そうなんだ。試験が厳しいなら、ちゃんと勉強しないとね。ありがとう、リナ」

私はパンをちぎってジャムを塗り、口に運んだ。甘酸っぱい味が朝の眠気を吹き飛ばす。リナが私の制服を手に持って近づいてきた。白いブラウスに青いスカート、金の刺繍が入った紺色のローブ。貴族学校の初等部の制服だ。

「ミア様、制服をお預かりしてました。着替えのお手伝いをいたしますね」

「うん、お願い、リナ」

リナの手際よい動きで、私は制服に着替えた。鏡に映る自分を見て、少し背筋が伸びる。王都での新しい生活が、いよいよ始まるんだ。

---

朝食後、私とリナは馬車に乗り込んだ。別邸の門を出て、王都の石畳の道を進む。馬車の窓から見える街並みは賑やかで、石造りの建物や色鮮やかな屋台が並んでいる。貴族学校までは馬車で20分ほど。リナが扇子を手に持って、私に話しかけた。

「ミア様、王都の街って大きいですね。あそこに貴族学校の塔が見えますよ」

「本当だ! すごい立派だね。あの塔、学校の一部なのかな」

遠くに、白い石でできた高い塔がそびえている。尖った屋根に金の装飾が輝き、周囲には広い庭園が広がっている。馬車が近づくと、正門の鉄柵が見えてきた。門には「グランディア貴族学院」と刻まれた石板が掲げられ、衛兵が両脇に立っている。

馬車が止まり、私はリナと一緒に降りた。門の前には同じ制服を着た子供たちが集まっていて、馬車や徒歩で次々と到着している。8歳から10歳くらいの初等部の新入生だろう。貴族の子女らしい華やかな服を着た親たちも一緒だ。私はリナに小声で聞いた。

「リナ、みんな貴族の子だよね。ちょっと緊張するな」

「ミア様、皆さん貴族の方々ですけど、ミア様はルナリス伯爵家のご令嬢です。堂々となさって大丈夫ですよ。」

「うん、ありがとう、リナ」

門をくぐると、広い中庭が広がっていた。石畳の道が校舎へと続き、左右には噴水や花壇が配置されている。校舎は3階建てで、白い石壁に大きな窓が並び、屋根には青い瓦が葺かれている。中庭には新入生たちが集まり、ざわめきが響いている。

---

入学式は校舎内の大講堂で行われた。高い天井にはシャンデリアが吊り下げられ、壁には歴代の卒業生の肖像画が飾られている。長い木製のベンチが並び、新入生が座る。私はリナに案内され、前から3列目の席に座った。リナは従者として後ろの壁際に立っている。

壇上に、白髪の男性が上がった。青いローブに金の刺繍が入り、手には杖を持っている。貴族学校の校長だろう。彼が咳払いをして、深みのある声で話し始めた。

「新入生諸君、グランディア貴族学院へようこそ。私は校長のアルフレッド・ヴェルディスだ。この学校は入学試験を設けていない。その代わり、進級試験と卒業試験が極めて厳しい。ここで学ぶ者は、貴族としての誇りと責任を胸に刻み、努力を怠らぬよう心がけなさい」

講堂が静まり返り、新入生たちが息を呑む。私は隣の席の女の子に小声で聞いた。

「ねえ、試験ってそんなに厳しいのかな?」

女の子は赤い髪をポニーテールにしていて、少し緊張した顔で答えた。

「うん、噂だと進級試験で半分くらい落ちるって。私の兄が中等部にいるけど、勉強が大変だって言ってたよ。私はエマ・フィオーレ、よろしくね」

「私はミア・ルナリス。よろしく、エマ。試験、頑張らないとね」

エマが小さく笑って頷いた。校長の話が続き、教師たちが壇上に並んだ。魔法、歴史、礼儀作法、魔道具学——多彩な科目を教えるらしい。私は心の中でワクワクしていた。

---

入学式が終わり、新入生たちは中庭に戻った。保護者は帰り始め、リナが私のそばに寄ってきた。

「ミア様、入学式お疲れさまでした。校長様のお話、厳しそうでしたね」

「うん、リナ。試験が厳しいって聞いて、少し緊張したよ。でも、楽しそうでもあるよね」

その時、中庭の向こうから聞き慣れた声がした。

「ミア様!」

振り返ると、レオンが走ってくる。青と金の制服に身を包み、中等部のバッジが胸についている。私は笑顔で手を振った。

「レオン! 会えた! 中等部ってこっちにいるんだね」

「はい、ミア様。僕、中等部の2年生です。ミア様が入学されたって聞いて、挨拶に来ました。おめでとうございます」

「ありがとう、レオン。」

レオンがにこっと笑うと、私は少し照れた。

「レオン。ちょうど相談したい事があるんだけど…」

「もちろん構いませんよ。どの様な事でしょうか?」

「実は王都への道で盗賊に襲われたことがあって、その話、秘密にしててくれる?」

レオンが目を丸くして、小声で答えた。

「ミア様、盗賊ですか!? ご無事で何よりです。秘密にしてくださいと言われれば、僕、絶対に誰にも話しません。」

「ありがとう、レオン。盗賊達は私が風魔法で撃退したんだけど、護衛が倒したことにしてるんだ。でも魔法が使える事は家には秘密にしてるの。だから学校で習ったことにして、本当の事はタイミングをみて話すつもり」

「風魔法……ミア様、素晴らしいです。大丈夫。僕、秘密を守りますよ。」

「うん、レオン。よろしくね。」

---

その日の夕方、私は別邸に戻った。馬車の中で、リナが興奮気味に話しかけてきた。

「ミア様、レオン様と再会できて良かったですね。貴族学校、良い場所ですね。私、ミア様があの中で輝く姿が目に浮かびますよ」

「ありがとう、リナ。レオンがいてくれると心強いよ。試験が厳しいって聞いて、少し緊張するけど」

部屋に戻り、私は制服を脱いで机に座った。窓から見える王都の夕陽が、街をオレンジ色に染めている。貴族学校での生活が始まった。入学試験はないけど、進級と卒業の壁が厳しいらしい。エマやレオンと一緒に、これからどんな学びが待ってるのかな。
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