伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ

文字の大きさ
12 / 55

第12話:火の魔法と制御の試練

しおりを挟む
「リナ、おはよう。今日、火の魔法の授業なんだ。少し緊張するよ」

私は机に座り、トレイを見た。焼きたての丸パンに野菜のスープ、レモングラスの香りが漂うハーブティーが並んでいる。リナが私の髪を櫛で整えながら、優しく言った。

「ミア様、火の魔法ですか? 風魔法で素晴らしい成果を上げてらっしゃるミア様なら、きっとお上手ですよ。応援しております」

「うん、リナ。でも、火って加減が難しそうでさ。風は慣れてるけど、火はほとんど使ったことないんだ」

「そうですね、ミア様。火は扱いが難しいと聞きます。でも、ミア様ならきっと大丈夫です。」

「ありがとう、リナ。頑張ってみるね」

私はパンをちぎってスープに浸し、口に運んだ。温かい味が緊張を少し和らげる。リナが制服の襟を整えて、私に笑いかけた。

「ミア様、準備が整いましたので、馬車でお送りいたしますね」

「うん、お願い、リナ」

---

馬車で学校に着き、中庭を抜けて初等部1年A組の教室へ向かった。教室に入ると、エマがいつもの席で私に手を振った。

「おはよう、ミア! 今日、火の魔法だって。楽しみだね」

「おはよう、エマ。うん、楽しみだけど、少しドキドキするよ。火って扱ったことないんだ」

「私もだよ。風は少しできたけど、火は熱そうだし緊張するよね」

その時、リアナ・シルヴァス先生が教室に入ってきた。黒いローブに金の縁取り、杖を手に持つ姿はいつも通り穏やかだ。彼女が黒板に杖を向けると、「火の灯火」とチョークで書き上がった。

「皆さん、おはようございます。今日は火魔法の基礎、『火の灯火』を学びます。風魔法に続き、貴族として有用な魔法の一つです。」

先生が杖を軽く振ると、杖の先から小さな火球が現れ、ふわっと浮かんだ。生徒たちが「おおっ」と声を上げ、私は目を凝らした。火魔法は風と違って初めてだから、加減が分からない。少し不安だ。

---

授業が進み、実演の時間が来た。リアナ先生が教室の中央に鉄製の台を置き、説明を始めた。

「『火の灯火』は小さな火を点ける魔法です。呪文は『火よ、灯れ』。杖を前に出し、魔力を込めてください。火は大きくしすぎないよう注意しましょう。では、志願者を募ります」

教室が静まり、エマが私に小声で囁いた。

「ミア、やってみてよ。風ですごかったんだから、火もできるよね?」

「うん、でも火は初めてだから、少し怖いな。試してみるよ」

私は手を挙げ、前へ出た。杖を手に持つと、風魔法の時と同じように魔力を集めた。でも、火は風と違って制御が難しい気がする。先生が頷いて言った。

「ミア・ルナリス、準備はいいですね。どうぞ」

私は深呼吸し、杖を前に出して呪文を唱えた。

「火よ、灯れ」

魔力を込めた瞬間、杖の先から小さな火花が飛び出し——次の瞬間、ドーンと大きな火柱が鉄の台を包んだ。オレンジの炎が天井近くまで上がり、熱風が教室を揺らした。生徒たちが「うわっ!」と叫び、エマが机に飛び乗った。

「ミア! 熱いよ!」

「え!? ご、ごめん!」

私は慌てて杖を下げ、魔力を切った。火柱が消え、鉄の台が赤く熱を持っている。教室がざわつき、リアナ先生が目を丸くして近づいてきた。

「ミア、これは……驚くべき火力です。初等部でこんな規模は見たことがありません。怪我はありませんね?」

「はい、先生。大丈夫です。ちょっと驚いただけです。加減が難しくて……」

生徒たちがざわざわと囁き合い、私は内心で焦った。風魔法は慣れてるけど、火は初めてで、「魔法適性:全属性」の力が強すぎたみたいだ。なんとか誤魔化さないと。

「ミア、すごいよ! 火柱なんて見たことない!」

エマが興奮して言う中、私は笑顔で誤魔化した。

「うん、エマ。初めてだったから、びっくりしちゃって。先生の教え方が上手で、つい力が入ったのかな」

リアナ先生が少し首を傾げて、私を見た。

「私の教え方……そうですね。しかし、ミア、制御が課題です。火魔法は危険ですから、次は小さくしてください。素晴らしい才能ですが、安全が第一ですよ」

「はい、先生。気をつけます」

私は席に戻り、エマが目を輝かせた。

「ミア、才能だって!凄い! 私なんか、火がちょっとしか出なかったのに」

「エマもすぐ上手くなるよ。私、加減間違えただけだから」

内心、私は冷や汗ものだった。火魔法の加減がこんなに難しいなんて。秘密の力を隠すには、もっと練習が必要だ。

---

昼休み、私は中庭でエマとパンを食べていた。噴水の水音が心地よく、風が髪を揺らす。すると、レオンが中等部の制服で近づいてきた。

「ミア様、お疲れさまでした。火魔法の授業で大きな火が出たって聞きました。大丈夫ですか?」

「レオン、ありがとう。うん、大丈夫だよ。火の加減が難しくて、つい大きくなっちゃった」

「ミア様、すごいです。僕、初等部の授業では小さな火しか出せませんでした。進級試験でも火は苦手で。中等部で練習してますけど、ミア様の火力は驚きです」

「レオン、そんなこともあったんだ。私、びっくりして誤魔化したよ。家には秘密にしててね?」

「はい、ミア様。」

「ありがとう、レオン。火魔法、次は小さくしなきゃ」

レオンがにこっと笑い、私は少し安心した。レオンがいてくれると、心強い。

---

放課後、私は教室に残ってリアナ先生に質問した。生徒たちが帰り、静かな教室で先生が私を見た。

「ミア、何か用ですか?」

「先生、火魔法の加減ってどうすればいいですか? 今日、大きくなりすぎてしまって」

「良い質問ですね、ミア。火魔法は魔力の量と集中が鍵です。あなたの場合、魔力が強いので、少しだけ込めるイメージを。たとえば、烛の火を灯す程度にしてください」

「烛の火……分かりました、先生。ありがとうございます」

私は教室を出て、馬車で別邸に戻った。リナが夕食を用意して待っていた。魚のグリルとスープがテーブルに並んでいる。

「ミア様、お帰りなさい。火魔法の授業で驚くことがあったって聞きました。大丈夫ですか?」

「ありがとう、リナ。うん、火が大きくなっちゃってびっくりしたけど、大丈夫だよ」

「ミア様、素晴らしいです! 私、火魔法なんて想像しただけでドキドキします。」

「うん。加減が難しいけど、次は上手くやるよ」

火魔法の授業で大きな火を出してしまったけど、誤魔化して秘密を守れた。みんな驚いていたけど、「才能」で納得してくれたみたいだ。私は、貴族学院での学びに新たな挑戦を見つけ、夜の静寂にそっと未来を託した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

領主にならないとダメかなぁ。冒険者が良いんです本当は。

さっちさん
ファンタジー
アズベリー領のミーナはとある事情により両親と旅をしてきた。 しかし、事故で両親を亡くし、実は領主だった両親の意志を幼いながらに受け継ぐため、一人旅を続ける事に。 7歳になると同時に叔父様を通して王都を拠点に領地の事ととある事情の為に学園に通い、知識と情報を得る様に言われた。 ミーナも仕方なく、王都に向かい、コレからの事を叔父と話をしようと動き出したところから始まります。 ★作品を読んでくださった方ありがとうございます。不定期投稿とはなりますが一生懸命進めていく予定です。 皆様応援よろしくお願いします

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...