伯爵令嬢の秘密の知識

第23話：収穫祭と歌姫の誕生

ルナリス領での夏季休暇が始まり、ミアは穏やかな日々を過ごしていた。
グランディア王国南部のこの地は、豊作に恵まれ、田畑が黄金色に輝いていた。
農作物の収穫が終わる頃、領民たちが待ち望んだ収穫祭が近づいてきた。
ミアはティアやリナと過ごしつつ、エマとルカの到着を心待ちにしていた。
そして、祭りをさらに盛り上げるため、密かに魔道具の改良に取り掛かっていた。

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収穫祭の数日前、ミアは屋敷の作業小屋にこもっていた。木の棚には工具や魔石が並び、机の上には羊皮紙と改良中の魔道具—花火の設計図が広げられている。ミアは以前、王都の祭りで見た花火にヒントを得て、魔力を込めた魔道具で再現しようとしていた。彼女が手に持つのは、小さな筒に詰めた火薬と魔石だ。

「普通の花火じゃなくて、魔力で色と形を変えられるようにしたいな」

ミアは火薬に魔石を埋め込み、軟化スティックを取り出した。木の筒に魔力を流し、呟いた。

「軟らかくなれ」

筒が柔らかくなり、ミアは魔石を押し込んだ。硬化すると、魔石が筒に固定され、次に魔法陣を刻む。細い彫刻刀で筒に円形と星形の魔法陣を描き、魔力を込めるタイミングで光と色を放つ設計だ。赤、青、金——領民が驚くような花火を目指した。

「これで火薬が燃えると同時に、魔力が反応して光るはず」

ミアは試作用の小さな花火を手に持つと、庭の隅で試した。火をつけると、シュッと音がして飛んでいき、小さな金色の光が夜空に広がった。満足げに頷き、作業小屋に戻って本番用の本数を増やした。収穫祭の夜に打ち上げるため、密かに準備を進めた。

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収穫祭の前日、ルナリス領の屋敷に馬車が到着した。ミアが庭に出ると、エマとルカが降りてきた。エマは赤毛のポニーテールを揺らし、目を輝かせて叫んだ。

「ミア、着いたよ！ ルナリス領、きれいだね！」

ルカが荷物を手に持つと、穏やかに微笑んだ。

「ミア、こんにちは。やっと会えた。旅は長かったけど、楽しみにしてたよ」

ミアが笑顔で迎えた。

「エマ、ルカ、よく来たね！ ちょうど明日が収穫祭だよ。一緒に楽しもう」

ティアがミアの後ろから顔を出し、エマに手を振った。

「エマお姉ちゃん、ルカお兄ちゃん、こんにちは。ティアだよ」

エマがティアに駆け寄り、抱きついた。

「ティアちゃん、会いたかったよ！ 可愛いい！」

ルカがティアに微笑み、ミアに言った。

「ティアちゃん、元気そうで良かった。ミア、収穫祭ってどんなの？」

「今年、豊作で復活したんだ。水が豊富になって、領民が喜んでるよ。明日の夜、広場でやるから楽しみにしてて」

リナが荷物を運びながら、笑顔で言った。

「エマ様、ルカ様、お疲れでしょう。お部屋にご案内しますね」

一行は屋敷に入り、エマとルカが到着した喜びに屋敷が賑わった。

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収穫祭当日、ルナリス領の広場は人で溢れていた。木のテーブルにはリンゴやパン、焼き菓子が並び、子供たちが花の冠をかぶって走り回る。農夫たちが収穫した稲穂を飾り、音楽が流れる中、領民が笑い合っていた。ミア、エマ、ルカ、ティアは広場の中心に立ち、ガイルが護衛として近くにいた。

エマがリンゴを手に持つと、目を輝かせた。

「ミア、このリンゴ、すごい大きい！ 豊作ってほんとだね！」

ルカが広場を見渡し、穏やかに言った。

「賑やかだね。領民が楽しそうで、僕も嬉しいよ」

ティアがミアの手を握り、囁いた。

「ミアお姉ちゃん、みんな笑ってるね。私、嬉しい」

「うん、ティア。私もだよ。エマ、ルカ、楽しんでね」

祭りが進み、夕陽が沈むと、広場に篝火が灯った。領民が輪になって踊り、歌声が響く中、新しい出し物が始まった。ガイルがミアに近づき、小声で言った。

「ミア様、今年は歌のコンテストもやるそうです。豊作のお祝いに、領民が提案したとか」

「歌のコンテスト？ 面白そうだね。みんな、見てみよう」

広場の端に即席の舞台が作られ、司会の農夫が叫んだ。

「皆さん、今年の収穫祭で歌のコンテストをやります！ 豊作を祝う歌でも、好きな歌でもいい。参加したい人は手を上げて！」

領民がざわつき、若者が手を上げて歌い始めた。素朴な農作業の歌や恋の歌が続き、拍手が響く。エマが目を輝かせ、ミアに囁いた。

「ミア、楽しそうだね。私、歌うの好きだよ。出てみようかな？」

ルカが驚きつつ、微笑んだ。

「エマ、歌えるの？ 僕、知らなかった。出てみてよ」

ミアが笑って、エマを後押しした。

「いいね！ 出てみて。私たち、応援するよ」

エマが少し緊張しながら手を上げ、舞台に上がった。領民が静まり、篝火の光が彼女を照らす。エマは深呼吸し、フィオーレ領で聞いた海の歌を歌い始めた。透き通った声が広場に響き、優しい旋律が夜風に溶ける。誰もが息を呑み、聞き入った。

「海の波が寄せては返す……月の光が水面に揺れて……」

歌が終わり、静寂が一瞬広がった後、領民が一斉に拍手を始めた。農夫が叫び、老婆が涙ぐんだ。

「すごい歌だ！ お嬢様の友達、素晴らしい！」

「こんなきれいな声、初めて聞いたよ！」

司会がエマに近づき、笑顔で宣言した。

「今年の歌のコンテスト、優勝はエマ様だ！ 豊作にふさわしい歌だった！」

エマが目を丸くし、ミアとルカに目をやった。ミアが手を叩き、ルカが微笑んだ。

「エマ、すごいよ！ 優勝だ！」

「エマ、歌が上手いなんて知らなかった。びっくりしたよ」

ティアがエマに駆け寄り、抱きついた。

「エマお姉ちゃん、きれいだった！」

領民がエマを囲み、「歌姫だ！」「ルナリスの歌姫！」と囃し立てた。エマが照れ笑いし、ミアに言った。

「ミア、優勝しちゃったよ。歌姫って呼ばれちゃった」

「エマ、すごい才能だよ！ほんと歌姫だね！」

祭りはさらに盛り上がり、エマの歌で一体感が生まれた。

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夜が深まり、収穫祭が最高に盛り上がるタイミング。領民が篝火を囲み、歌と笑い声がピークに達した。ミアがエマとルカに囁いた。

「エマ、ルカ、ちょっと見ててね。サプライズだよ」

エマが首を傾げ、ルカが静かに頷いた。ミアがガイルと一緒に花火に近づき、魔力を込めて呟いた。

「光れ」

最初の花火がシュッと音を立てて夜空に飛び、赤い光が星形に広がった。領民が一斉に空を見上げ、「おおっ！」と歓声が上がる。次に青い花火が円形に咲き、金色の光が尾を引いて落ちた。ティアが目を輝かせ、エマが叫んだ。

「花火！？ すごい！」

「きれい！ 歌の次に、花火なんて最高！」

ルカが驚きつつ、微笑んだ。

「ミア、こんなの作ったの？ エマの歌と花火、信じられないくらい素敵だ」

ガイルが感心して呟いた。

「ミア様、魔道具でここまで！……領民が喜びますよ！」

花火が次々と打ち上がり、夜空を赤、青、金で埋め尽くした。領民が手を叩き、子供たちが跳ね回る。農夫が叫んだ。

「水が豊富なおかげで豊作だ！ 歌姫と花火、最高の祭りだ！」

老婆が涙ぐみ、呟いた。

「こんなきれいな光、見たことねえ。お嬢様と歌姫のおかげだね」

ミアは密かに微笑み、誰にも魔道具の秘密を明かさなかった。収穫祭の夜は、エマの歌と花火で最高潮に達し、領民の笑顔が広がった。

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祭りが終わり、屋敷に戻った一行。庭でミア、エマ、ルカ、ティアが座り、夜風に当たっていた。エマが興奮気味に言った。

「ミア、花火、ほんとすごかった！ 私の歌と一緒に、忘れられない夜だよ！」

「エマ、歌姫だね。歌が上手いなんて知らなかったよ。花火も楽しんでくれて良かった」

ルカが穏やかに言った。

「ミア、エマ、二人ともすごいね。領民が喜んでた。僕もこんな祭り、初めてで嬉しいよ」

ティアがミアに寄り添い、呟いた。

「ミアお姉ちゃん、エマお姉ちゃん、花火と歌、きれいだった。私、幸せだよ」

「うん、ティア。私もだよ。エマ、ルカ、来てくれてありがとう」

夜空には星が瞬き、ルナリス領の収穫祭は忘れられない夜となった。夏季休暇は、まだまだ続く。