伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ

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第26話:剣とクラインの絆

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ルナリス領での夏季休暇も終盤に差し掛かり、ミア達は穏やかな日々を過ごしていた。収穫祭の華やかな夜が終わり、領内は豊作の余韻に浸っていた。そんなある日、クライン男爵家がルナリス領を訪れるとの知らせが入った。カボチャ魔獣騒動の報告の様だ。

---

そんな日の朝、ミアは屋敷の作業小屋で準備を始めた。机には羊皮紙と道具が並び、彼女は設計図を描いていた。レオンにふさわしい美しいロングソードを作ろうと決意したのだ。そこへ、ガイルが革鎧姿で入ってきた。

「ミア様、何かお手伝いできることがあればおっしゃってください」

「ガイル、ちょうど良かった。レオンがクライン領で木剣で戦ってたって聞いててさ、来る時に新しい剣をプレゼントしたいんだ。協力してくれる?」

ガイルが目を輝かせ、頷いた。

「ミア様、それは良いアイデアです。レオン様なら喜びますよ。私が力になります」

「ありがとう、ガイル。じゃあ、まずは鉱石を集めよう。近くの山に鉱石探知の魔道具を作って、持って行くよ」

二人は馬車に乗り、ルナリス領の北にある山へ向かった。山の斜面には岩がゴロゴロと転がり、木々が風に揺れている。ミアが鞄から小さな魔道具——鉱石探知機を取り出した。魔石が嵌まった棒状の道具で、鉱石に近づくと、お互い反応して光る仕組みだ。

「ガイル、これで鉱石を見つけるよ。協力お願いね」

ミアが魔力を流すと、魔石が青く光り、ピピッと音を立てた。ガイルが岩の間を覗き、指さした。

「ミア様、あそこ、光が強くなってます!」

岩をどかすと、銀色の鉱石が現れた。鉄と魔力を帯びた希少な鉱石だ。ミアが笑顔で拾い上げ、鞄に詰めた。

「良い鉱石だね。ガイル、十分な量だよ。帰って精錬しよう」

ガイルは無言のまま、驚いていた。

---

屋敷に戻り、作業小屋で精錬が始まった。ミアは精錬用の魔道具——小さな炉に魔石を嵌めた装置を用意した。鉱石を炉に入れ、魔力を込めると炎が燃え上がり、鉱石が溶け始めた。ガイルが炉を覗き、驚いた。

「ミア様、こんな簡単に溶けるんですか?」

「うん、魔道具のおかげだよ。ガイル、手伝ってね」

溶けた金属が炉の底に溜まり、ミアが型に流し込んだ。冷えると、銀色のインゴットが完成した。次に、軟化スティックを取り出し、インゴットを手に持った。

「軟らかくなれ」

インゴットが柔らかくなり、ミアは指と工具で美しいロングソードの形に整えた。刃は長く細く、柄に優雅な曲線をつけ、バランスを重視した。硬化すると、ロングソードの原型ができた。ガイルが感心して呟いた。

「ミア様、素晴らしく、美しい剣ですね」

「ありがとう、ガイル。でも、まだ装飾と切れ味が足りない。次はこれ」

ミアは前世の記憶にある、包丁シャープナーを参考にして作った魔道具をセットした。魔石を嵌めた小さな板がカスタネットの様な形に重なっている。刃を挟んで滑らせると魔力が切れ味を高める仕組みだ。剣の刃を数回通すと、鋭い光沢が生まれた。最後に、柄に青い魔石を嵌め、クライン家の紋章を彫り込んだ。完成したロングソードは、軽く鋭く、優美な輝きを放っていた。

「できた! レオンにぴったりだよ。ガイル、ありがとう」

「ミア様、私は少しお手伝いしただけですよ。レオン様の驚く顔が楽しみですね」

---

翌日、クライン男爵家の馬車がルナリス領に到着した。ミア達4人が庭で迎えると、レオンとクライン男爵が降りてきた。レオンは軽い革鎧に木剣を下げ、男爵は灰色のローブをまとっている。ミアが笑顔で近づいた。

「レオン、男爵様、ようこそ! 何日か滞在してくれるんだよね」

レオンが微笑み、頭を下げた。

「ミア様、エマ様、ルカ様、ティアちゃん、こんにちは。収穫祭に行けなくてすみませんでした。数日お邪魔します」

男爵が手を挙げ、豪快に笑った。

「ミア様久しぶりですな! カボチャ騒動の報告に来ましたぞ。数日滞在する予定ですので、花火と歌姫の話も聞かせて頂きましょうかな!」

一行が応接室に移動すると、伯爵リチャードがソファに座って待っていた。隣にはエリシアで微笑んでいる。リチャードが低い声で言った。

「クライン男爵、よく来た。カボチャ騒動の報告を聞かせてくれ」

男爵がティーカップを手に持ち、話し始めた。

「リチャード様、実は、カボチャ魔獣の原因はまだ分からんのです。森の奥で巣を見つけたが、なぜ発生したのかは謎。農夫の噂じゃ、黒ローブをまとった老人を森で見かけたそうで…」

エリシアが目を丸くし、尋ねた。

「黒ローブの老人? それは怪しいわね。どんな人物かしら?」

レオンが穏やかに補足した。

「エリシア様、目撃は一回だけですが、魔獣と関係あるかもしれません。父と私で森の調査を始めるつもりです」

リチャードが頷き、言った。

「ふむ、妙な話だな。クライン領の平和のため、調査を頼む。レオン、木剣で戦ったと聞いたが、大したものだ。…それはそうと、なぜ護衛も連れず2人で行った?」

男爵は困った様子で答えた。

「実は、困った事に、我が領には腕のたつものが少ないのです。カボチャ程度と噂話を鵜呑みにして2人で向かったのですが、予想以上に厄介で、肝を冷やしました」

男爵が笑い、レオンに肩を叩いた。

「リチャード様、レオンに助けられましたよ。巨大カボチャを仕留めたんですから!」

「これからは護衛らの育成に力を入れようと考えさせられました」

報告が終わり、ミアが立ち上がった。

「レオン、木剣で戦ってたって聞いてたよ。実は、プレゼントがあるんだ」

ミアが布に包まれた剣を手に持つと、布を解いた。銀色の刃と青い魔石が輝く美しいロングソードが現れた。レオンが目を丸くし、男爵が息を呑んだ。

「ミア様、これ……私にですか?」

「うん、レオンにプレゼントだよ。ガイルと一緒に作ったんだ。軽くて切れ味が良いロングソードで、クラインの平和に役立ててほしい」

ミアは前世の知識と魔道具の秘密を隠し、ガイルとの共同作業として伝えた。レオンが剣を受け取り、柄を握った。軽く振ると、刃が空気を切り、鋭い音が響いた。リチャードが感嘆し、エリシアが微笑んだ。

「ミア、素晴らしいロングソードだ。レオン、これなら調査も安心だな」

「ミア、素敵な贈り物ね。レオン君にぴったりよ」

レオンがミアに深く頭を下げ、言った。

「ミア様、ありがとうございます。こんな美しい剣、僕にはもったいない。でも、クライン領のために大切に使います」

エマが手を叩き、ルカが微笑んだ。

「ミア、すごいよ! レオン、かっこいいロングソードだね!」

「うん、レオンなら似合うよ。クライン領も安心だね」

ティアがレオンに近づき、呟いた。

「レオンお兄ちゃん、きれいな剣だね。カボチャをやっつけてね」

レオンがティアに微笑み、ロングソードを手に持った。

「ティアちゃん、ありがとう。ミア様、クライン領を守るために頑張ります」

---

数日、クライン男爵家はルナリス領で過ごした。エマが歌を披露し、ルカがレオンと剣の話を語り合った。ミアはティアと庭で遊びつつ、レオンのロングソードがクライン領で活躍する姿を想像した。滞在最終日、男爵がリチャードに近づき、言った。

「リチャード様、黒ローブの老人について、何かわかったら報告します。」

レオンがロングソードを腰に下げ、ミアに感謝を述べる。

「ミア様、この数日間、とても楽しかったです。この剣でクライン領を守ります。ありがとうございました」

ミアが笑顔で頷いた。

「レオン、男爵様、気をつけてね。また会いましょう」

馬車が去り、夜空を見上げた。エマが歌を口ずさみ、ルカがティアと星を眺める。ミアが呟いた。

「レオン、クライン領を守ってね」
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