【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ

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第六十二話:紅蓮の山道と切り開く活路

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ミストラル村の希望をその双肩に担い、アレンたち決死の一行は、不気味な紫電が渦巻く「始まりの山脈」へと再び足を踏み入れた。

以前の調査行とは比較にならないほどの緊張感が、彼ら全員を包み込んでいる。
一歩進むごとに、空の禍々しい渦は勢いを増し、周囲の自然は明らかにその影響を受け始めていた。

木々は生気を失い枯れ木のように立ち並び、地面を覆う草花は毒々しい赤黒い色へと変色し、時折、正気を失ったかのように凶暴化した小動物が、一行に襲いかかってくる。

「チッ、キリがねえな!」

カイトが、奇声を発して飛びかかってきた巨大な蝙蝠(こうもり)のような魔物を一刀のもとに斬り捨て、悪態をつく。

彼の剣は、以前にも増して鋭さと速さを増しており、その動きには一切の無駄がない。
ガストン隊長率いる兵士たちも、熟練の槍捌きと盾の連携で、次々と現れる小型の魔物を的確に処理していく。

しかし、その数はあまりにも多く、彼らの体力はじりじりと削られていった。

「アレン! アレを使ってみろ!」

ギデオン(今回の決死行には、彼も護衛兼アドバイザーとして再び参加していた)が、背後で指示を出すアレンに叫んだ。

アレンは頷くと、腰のポーチから取り出した、彼が「音響爆雷」と名付けた装置の一つを、魔物が密集している地点へと力任せに投げ込む。

それは、着弾と同時に、人間の耳にはほとんど聞こえないが、魔物にとっては耐え難い不快な高周波音と、強烈な閃光を発生させるように設計されていた。

カァンッ!という甲高い炸裂音と共に、閃光が迸る。

すると、それまで凶暴に襲いかかってきていた魔物たちが、一斉に混乱したように動きを止め、苦しそうに頭を振りながら四方八方へと逃げ惑い始めたではないか。

「効いたぞ! アレン、すごいじゃないか!」

トム(彼もまた、ミストラル村の若者代表として、そしてアレンの助手としてこの危険な旅に志願していた)が、興奮した声を上げる。

「まだだ、油断するな! これは一時的な攪乱に過ぎない! 先を急ぐぞ!」

レグルスが冷静に状況を判断し、一行に前進を促す。
アレンの音響爆雷は確かに効果的であったが、その数には限りがある。
彼らの目的は、あくまで「厄災」の源泉へとたどり着き、それを阻止することなのだから。

「始まりの山脈」の奥深く、「眠れる巨人の祭壇」へと続く道は、以前にも増して険しく、そして危険に満ちていた。

「黒曜の爪」の残党たちは、アレンたちが再びこの地を訪れることを予期していたかのように、道中の至る所に巧妙な罠を仕掛け、そして今度は、より組織的で強力な部隊を配置して待ち構えていたのだ。

「前方、左右の岩陰に伏兵多数! 敵の数は……三十を下らないぞ!」

斥候に出ていたカイトが、血相を変えて戻ってきた。
その言葉に、一行の顔に緊張が走る。
前回、遺跡の奥で遭遇した敵よりも、明らかに数が多く、そして殺気が濃い。

「レグルス殿、ガストン隊長、左右の岩場は崖になっており、挟み撃ちにされると危険です。
ここは、私が開発した『指向性発煙筒』で敵の視界を奪い、その隙にカイト殿と兵士の方々で一気に中央突破を図るのはどうでしょう!」

アレンが、即座に作戦を提案する。
彼の発煙筒は、単に煙を出すだけでなく、風向きを計算し、特定の範囲に濃密な煙の壁を作り出すことができるように改良されていた。

「よし、それでいこう! アレン、合図を頼む!」

ガストン隊長が力強く頷く。
アレンが合図と共に発煙筒を投擲すると、計算通り、敵の伏兵がいる左右の岩場が瞬く間に濃い煙に包まれた。
敵の陣形に一瞬の乱れが生じる。

「今だ! 全員、俺に続け!」

カイトが雄叫びを上げ、その黒曜石の刃を持つ長剣を閃かせながら、敵陣の中央へと突貫する。

ギデオン、トム、ティム、そして兵士たちが、雄叫びを上げてそれに続いた。
狭い山道での乱戦。

剣と剣がぶつかり合う甲高い音、怒号、そして悲鳴。
それは、まさに死闘であった。

カイトの剣技は凄まじく、次々と黒装束の敵を薙ぎ払っていくが、敵もまた巧みな連携で反撃してくる。

中には、毒を塗った暗器を使う者や、呪文のようなものを唱えて味方の動きを強化する術者らしき者も混じっており、戦闘は熾烈を極めた。

兵士の一人が、敵の不意打ちを受けて肩を負傷し、苦痛の声を上げる。

「くっ……!」

リナが、すぐに駆け寄り応急手当を施そうとするが、敵の攻撃は止まない。

アレンは、腰の仕掛け杖を構え、柄頭から麻痺針を射出し、リナを狙う敵の動きを封じる。
さらに、石突から閃光を発し、敵の目を眩ませて味方の撤退を援護した。

「このままではジリ貧だ! アレン、何か手はないのか!」

レグルスが、苦戦する味方を庇いながら叫ぶ。
アレンは、周囲の地形と敵の配置を瞬時に分析し、一つの可能性に賭けることにした。

「あの崖の上! あそこからなら、敵の側面を突ける! ティム、あの『小型投石器』の準備を! カイト君、僕が合図をしたら、崖の上から敵の指揮官らしき奴を狙ってくれ!」

アレンが指示したのは、彼が以前、工房で試作していた、手持ち式の小型投石器(スリングショットの改良型で、特殊な炸裂弾を投射できる)であった。

そして、カイトの類稀な動体視力と剣の腕ならば、揺れる崖の上からでも、的確に敵の指揮官を狙撃できるかもしれない。

ティムが、震える手で小型投石器に炸裂弾を装填する。

アレンとカイトは、兵士たちの援護を受けながら、決死の覚悟で崖を駆け上がった。

眼下には、乱戦を繰り広げる敵味方の姿。
そして、その中でひときわ目立つ、銀色の仮面をつけた敵の指揮官。

「カイト君、今だ!」

アレンの合図と共に、カイトが投石器を構え、鋭く息を吸い込む。

放たれた炸裂弾は、正確に銀仮面の指揮官の足元で炸裂し、爆音と衝撃波が彼を怯ませた。
その一瞬の隙を突き、崖の上からカイトが奇襲をかける!

彼の剣が銀仮面の指揮官の剣を力強く弾き飛ばし、さらに追撃の一閃が指揮官の肩口を浅く切り裂いた。

「ぐおおっ……! き、貴様ら……!」

銀仮面の指揮官は、負傷した肩を押さえ、憎悪に満ちた目でカイトとアレンを睨みつける。
アレンは、すかさず仕掛け杖から刺激臭の煙幕を放ち、周囲の敵兵の戦意を削いだ。

「退け! 一旦退くぞ! 体勢を立て直す!」

深手を負い、もはや指揮を執れる状態ではないと悟ったのか、銀仮面の指揮官は苦渋の表情で撤退を命じた。

「黒曜の爪」の残党たちは、負傷した仲間を抱えながら、森の奥へと蜘蛛の子を散らすように消えていく。

「……勝った……のか?」

トムが、ぜいぜいと肩で息をしながら呟いた。
一行は、辛くもこの前哨戦を乗り越えた。
しかし、その代償は小さくなかった。

数名の兵士が深手を負い、リナは休む間もなくその治療に追われる。
そして何よりも、敵の戦力と組織力は、アレンたちの予想を遥かに上回っていた。

「急ごう。
『厄災の目覚め』は、もう間近に迫っているのかもしれない」

アレンは、負傷した仲間たちを気遣いながらも、先を急ぐ決意を固める。

銀仮面の指揮官が撤退際に残していった、「お前たちが何をしようと、もはや運命は変えられぬ……『星の器』は満たされようとしているのだ……」という不気味な言葉が、アレンの脳裏に焼き付いて離れなかった。
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