【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ

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第六十六話:夜明けの凱旋と工房に灯る新たな日常

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「始まりの山脈」の奥深く、太古の巨人たちが見守る祭壇での死闘は、アレンたちの辛うじての勝利によって幕を閉じた。

「厄災の主」の顕現は阻止され、その尖兵であった「黒曜の爪」の野望もまた、ここに潰え去ったのである。

夜明けの光が、傷つき疲れ果てた英雄たちを優しく照らし出し、彼らが成し遂げた偉業を静かに祝福しているかのようであった。

アレンの意識がはっきりと覚醒したのは、それから丸一日が経過した頃。

彼は、仲間たちが設営した簡素ながらも安全な野営地で、リナの献身的な看病を受けていた。
極度の消耗状態からは脱したものの、全身にはまだ鉛のような倦怠感が残っている。

「……みんなは? 怪我は……」

掠れた声で尋ねるアレンに、リナは安堵の涙を浮かべながら微笑んだ。

「大丈夫よ、アレン君。
兵士の方々もティムも、傷は浅くないけれど、エルナおばあちゃんが調合してくれた特製の傷薬と、私が持ってきた薬草で、命に別状はないわ。
みんな、アレン君が目を覚ますのを待っていたのよ」

その言葉通り、アレンが目覚めたことを知ったカイトやティム、レグルス、そしてギデオンやガストン隊長たちが、次々と彼の元へ集まってきた。

彼らの顔には疲労の色は濃いが、それ以上に、強大な敵を打ち破ったという達成感と、仲間への信頼に満ちた輝きがある。

「アレン、よくやった。
お前がいなければ、我々は今頃……いや、このアルトリア領全体がどうなっていたことか」

レグルスが、心からの敬意を込めてアレンの手を握る。
カイトも、ぶっきらぼうながら「ま、今回はお前の発明が役に立ったってことだな」と、彼なりの称賛の言葉を口にした。

アレンたちは、まず「眠れる巨人の祭 đàn」の後処理について話し合った。

崩壊した地下遺跡は、もはや立ち入ることも危険であり、また、「黒曜の爪」が執り行っていた儀式の詳細や、「厄災の主」の正体については、依然として多くの謎が残されている。

アレンが戦闘中に偶然手に入れた「黒曜の書」の新たな断片と、あの不思議な黒曜石の欠片は、それらを解き明かすための唯一の手がかりと言えるだろう。

祭壇の底で淡い光を放っていた結晶体についても、レグルスが部下に命じて詳細なスケッチと記録を取らせたが、直接的な回収は危険と判断し、その場に残置することとなった。
捕虜とした「黒曜の爪」の残党は、厳重に拘束され、領主アルトリアの元へ引き渡されることになった。

数日間の休息と準備の後、アレンたち一行は、ついに「始まりの山脈」を後にし、ミストラル村への帰路についた。
その足取りは、行きとは比べ物にならないほど軽く、そして誇らしげであった。
彼らは、世界の危機を救った英雄なのだから。

ミストラル村では、彼らの凱旋を、村総出で、まさに熱狂的に迎えた。
バルガス村長は、アレンを肩車し、村中を練り歩き、リリアとギデオンは、息子の無事な姿にただただ涙を流して喜び合う。

エルナは、リナの成長した姿に目を細め、トムやサラ、そして学び舎の子供たちは、アレン先生やカイト兄ちゃんに憧れの眼差しを向けた。
工房の仲間たちも、自分たちの技術が世界の危機を救う一助となったことを知り、大きな誇りを感じていた。

その夜、ミストラル村では、これまでにないほど盛大な祝宴が開かれた。
領主アルトリア辺境伯も、この吉報に急遽駆けつけ、アレンたちの功績を領民全体の前で称賛し、彼らにアルトリア領最高の栄誉である「金獅子勲章」を授与した。

それは、アレンという一個人の、そしてミストラル村という小さな共同体の努力と勇気が、公式に認められた瞬間であった。
ヴェネリア商人ギルドのロレンツォからも、祝辞と共に大量の祝いの品が届けられ、二つの地域の友好関係は、より一層強固なものとなる。

祝宴の喧騒が一段落した数日後、ミストラル村には、久しぶりに穏やかな日常が戻ってきた。
アレンは、工房での活動を再開し、リナやカイト、ティムたちも、それぞれの持ち場へと戻る。
しかし、その日常は、以前とはどこか違っていた。
彼らの心の中には、あの「始まりの山脈」での経験と、そして「黒曜の書」の謎が、常に存在し続けている。

アレンは、工房の一角に特別な研究スペースを設け、持ち帰った羊皮紙の断片と黒曜石の欠片の本格的な分析を開始した。

領主から派遣された数名の学者や、ヴェネリアから協力を申し出てくれた古代文字の専門家なども加わり、国際的な研究チームが形成されつつあった。
アレンが開発した透光式作業台や情報カードシステム、そして高性能な拡大鏡が、その研究を大いに助ける。

「この黒曜石の欠片……やはり、ただの石ではない。
特定の条件下で、周囲のエネルギーを吸収し、そして放出する性質があるようだ。
あの『エネルギー照射装置』は、偶然にもその性質を上手く引き出していたのかもしれない」

アレンは、様々な実験を繰り返しながら、その石の持つ未知の可能性に魅了されていく。
それは、平和利用すれば人々の生活を飛躍的に向上させるかもしれないが、一歩間違えば、再び「厄災」を引き起こしかねない危険な力でもあった。

リナもまた、羊皮紙に描かれた古代文字の解読に、エルナと共に取り組み続けていた。
「星の血脈を受け継ぐ者の魂」という言葉の意味。
そして、「厄災」の真の姿と、その完全な封印方法。
それらが解き明かされる日は、まだ遠いのかもしれない。
しかし、彼女の瞳には、諦めるという選択肢はない。

カイトは、ミストラル村の若者たちへの剣術指導に、より一層熱が入っていた。
「黒曜の爪」との戦いで、彼は個人の武勇だけでなく、仲間と連携し、村全体で脅威に立ち向かうことの重要性を学んだのだ。
彼の指導のもと、ミストラル村の自警団は、確実にその練度を高めていく。

シルバ川の治水プロジェクトや、新型水車の普及、セドナ村への技術支援といった、中断していた事業も再び本格的に動き出した。

「黒曜の爪」という大きな脅威が去ったことで、アルトリア領全体が、新たな発展の時代へと力強く歩みを進めようとしている。
その中心には、いつもアレンの工房から生まれる新しい知恵と技術があった。

ミストラル村の小さな工房の灯は、今日もまた、アルトリア領の未来を明るく照らしている。
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