【完結】召喚されたけど役立たず? いいえ、隣国の貴族様とハッピーエンドです!

シマセイ

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第二十二話:共鳴する光、迫る試練

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日記帳の裏に隠された、あの微細な刻印。
それが、ほんの一瞬だけれど、光を放った。
あの現象が、私の頭から離れなかった。
あれは、一体何だったのだろうか。

(私の魔力に反応した……?)

あの時、私は訓練で魔力を高めた直後だった。
もしかしたら、近くにある魔力に、あの刻印が共鳴したのかもしれない。
だとしたら、それは何を意味するのだろう。

私は、自分の部屋で、こっそりと試してみることにした。
日記帳を開き、刻印のあるページに意識を集中させる。
そして、訓練の時のように、ゆっくりと自分の魔力を引き出し、そのページに近づけてみる。

すると――。

(……光った……!)

前回よりも、はっきりと。
刻印が、淡い銀色の光を放っている。
そして、それだけではない。
刻印が光ると同時に、私の体の中にある魔力も、まるで呼びかけに応えるかのように、微かに震え、温かさを増すのを感じるのだ。

(……共鳴……してる……?)

信じられない現象だった。
この刻印……『星詠みの民』の紋章の一部とされるものが、私の魔力と反応し合っている。
それは、まさか……私が、あの一族と、何か関係があるということ……?

(そんなはず……ないよね……?)

私は、日本の、ごく普通の家庭で育った。
異世界の古代民族の血なんて、流れているはずがない。
だとしたら、あの本の記述にあった、もう一つの可能性。

『……特定の血筋や、あるいは『星の巡り』の下に生まれた者……』

星の巡り……。
私が生まれた時の星の配置が、たまたま、『星詠みの民』と同じだった、ということ……?
そんな偶然が、本当にあるのだろうか。
どちらにしても、この事実は、私にとって、大きな意味を持つのかもしれない。
もしかしたら、『制御の腕輪』の適合者である可能性が……?

(……カイ様に、話すべきだ……)

この現象を、私一人で抱え込んでいても、何も分からない。
それに、もしこれが本当なら、月の祭壇へ行くことの意味も、危険性も、大きく変わってくるかもしれない。
私は、次の訓練の時に、カイ様に全てを打ち明ける決意をした。

その決意を胸に臨んだ訓練は、より実践的なものへと移行していた。

「今日は、動く的を狙ってもらう」

カイさんが用意したのは、彼が魔力で作った、不規則に動く小さな光の的だった。
静止している的に当てるのとは、訳が違う。

「くっ……!」

何度、魔力弾を放っても、光の的はひらりひらりとかわしてしまう。
目で追うだけでも大変なのに、それに合わせて魔力弾を放つなんて、至難の業だ。

「動きを予測しろ。そして、魔力弾の速度も意識しろ。ただ放つだけでは当たらん」

カイさんの厳しい声が飛ぶ。
さらに、彼は「今度は、これを防いでみろ」と言って、私に向かって、ごく軽い魔力の衝撃波のようなものを放ってきた。

「きゃっ!?」

慌てて『魔力障壁』を展開する。
なんとか防ぐことはできたけれど、障壁は大きく揺らぎ、すぐに消えてしまった。

「……反応速度も、障壁の強度も、まだまだだな」

模擬戦闘のような訓練。
それは、これまで以上に、私の体力と精神力を削っていった。
実戦の難しさを、身をもって痛感する。
月の祭壇へ行くには、忘却の森を抜けなければならないのだ。
こんなレベルでは、魔物に出会ったら、ひとたまりもないだろう。

一方、城の中では、宰相親子が失脚した後始末が進んでいた。
新たな宰相が任命され、エルンストが関わっていた不正の調査も本格化しているらしい。
しかし、聖女不在による瘴気の増加は、依然として深刻な問題となっていた。

「神官たちが、代わりの浄化の儀式を試みているらしいが、あまり効果がないそうだ」

「そりゃあ、聖女様の力には敵わないだろう……」

「これから、どうなるんだろうな……」

兵士たちの不安げな会話が聞こえてくる。
国全体が、見えない脅威に晒され始めているのかもしれない。

そんな中で、私の存在が、少しずつ、城の一部の人々の間で注目され始めている、という気配も感じていた。
カイ様が保護し、直々に訓練をつけている、謎の異世界人の娘。
特に、聖女がいなくなった今、私が何らかの力を持っているのではないか、と期待するような、あるいは、警戒するような視線を感じることが、時々あった。

(……私の立場も、変わっていくのかな……)

それは、少しだけ不安なことでもあった。
今はまだ、カイさんの庇護の下で、比較的静かに過ごせているけれど、いつまでもそうではいられないのかもしれない。

その日の訓練が終わった後、私は意を決して、カイさんに切り出した。

「あの、カイ様。ご報告したいことが……いえ、ご相談したいことがあります」

私の真剣な表情に、カイさんも何かを感じ取ったのか、黙って頷いた。
私は、日記帳の裏に隠されていた刻印のこと、それが『星詠みの民』の紋章の一部である可能性、そして、私の魔力に反応して光ること、共鳴するような感覚があることを、全て正直に話した。

カイさんは、黙って私の話を聞いていた。
その表情は、驚いているようでもあり、何かを納得しているようでもあった。

私が話し終えると、彼はしばらくの間、何かを考えるように沈黙していた。
そして、やがて、重々しく口を開いた。

「……やはり、そうか……」

「え……?」

「君が、最初にこの城に来た時、そして、魔力を感知した時……僅かだが、感じていた。
君の魔力には、普通の人間とは違う、何か……古代の、あるいは星々の響きのようなものが混じっている、と」

「!」

カイさんは、気づいていたんだ……!

「その刻印が、君の魔力と共鳴するというのなら……君が『星詠みの民』の血を引いているか、あるいは、極めて稀な『星の巡り』の下に生まれた、特別な存在である可能性は、高いだろうな」

「……特別な、存在……」

「そうだ。そして、それは……君が『制御の腕輪』の適合者である可能性をも、示唆している」

カイさんの言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。
適合者……私が?

「だが、ユキ。それは、決して喜ばしいことばかりではない」

彼の声が、厳しくなる。

「『制御の腕輪』は、強大な力を持つが故に、危険な遺物だ。
そして、『星詠みの民』もまた、その力故に、歴史から姿を消したと言われている。
君がその力に目覚めれば……あるいは、その力を手にすれば、計り知れない危険が、君の身に降りかかることになるだろう」

カイさんの紫色の瞳が、強い光を帯びて、私を見据える。

「それでも、君は、月の祭壇へ行くと言うのか?」

試すような、問いかけ。
私は、迷わなかった。

「はい。行きます。
危険なのは、覚悟の上です。
私には、確かめなければならないことがあるから」

私の決意を聞くと、カイさんは、ふっと息を吐き、そして、覚悟を決めたような顔つきになった。

「……分かった。ならば、俺も、覚悟を決めよう」

「え?」

「双月食まで、残り一ヶ月と十日。
それまでに、君に、最低限、忘却の森で生き残るための戦闘技術を叩き込む。
これまでの訓練とは、比べ物にならんほど、厳しくなるぞ」

「……!」

「それが、君を月の祭壇へ送り出すための、俺なりの……いや、俺自身の、覚悟だ」

カイさんの言葉は、重く、そして、熱かった。
彼は、私の無謀な挑戦を、ただ見ているだけではなく、共に戦ってくれるつもりなのかもしれない。

「……はい! よろしくお願いします!」

私は、背筋を伸ばし、力強く答えた。
目の前に立ちはだかる試練は、大きい。
でも、今の私には、信頼できる師匠と、そして、共に歩んでくれるかもしれない存在がいる。
そして、私自身の内に秘められた、未知の可能性も。

双月食の夜まで、あと、わずか。
私の運命が、大きく動き出そうとしていた。
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