【完結】召喚されたけど役立たず? いいえ、隣国の貴族様とハッピーエンドです!

シマセイ

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第二十九話:試される魂、星屑の奇跡

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『……試練を、乗り越えてみせよ』

守り人の重々しい声が、広間に響き渡ると同時だった。
ゴゴゴゴ……!
巨大な石のゴーレムが、その巨体を震わせ、両腕に刻まれた『星詠みの民』の紋章が、眩いほどの青白い光を放ち始める!

「来るぞ、ユキ!」

カイさんの鋭い声が飛ぶ!
次の瞬間、ゴーレムの腕から、凄まじい勢いで光の奔流――強力な魔力砲――が放たれた!

「きゃあっ!?」

咄嗟に『魔力障壁』を展開する!
しかし、これまで受けたどんな攻撃とも比較にならないほどの、圧倒的な質量とエネルギー!
障壁は、一瞬で砕け散り、私は衝撃で後ろへ吹き飛ばされる!

「ぐっ……!」

受け身を取り損ね、地面に背中を強く打ち付ける。
息が詰まる。
なんて、力……!

「ユキ! 大丈夫か!?」

カイさんが、私の元へ駆け寄ろうとするが、ゴーレムはそれを許さない。
今度は、その巨大な石の拳を、カイさん目掛けて振り下ろす!

ドゴォォン!!

カイさんは、間一髪でそれをかわすが、拳が叩きつけられた床には、大きな亀裂が入っている。
掠っただけでも、ただでは済まないだろう。

「くそっ……!」

カイさんは、素早く体勢を立て直し、剣を構え直す。
そして、ゴーレムの足元へ、目にも留まらぬ速さで駆け込み、その硬い装甲目掛けて、渾身の剣撃を叩き込む!

キンッ! キィィン!

しかし、甲高い金属音のような音が響くだけで、ゴーレムの体には、傷一つついていないように見える。

「……硬い……!」

カイさんの剣ですら、通用しないというのか……!?

ゴーレムは、意に介した様子もなく、再び腕を振り上げ、今度は無数の光の矢のようなものを、雨のように降らせてきた!

「ユキ! 伏せろ!」

カイさんが叫び、私を庇うように覆いかぶさる!
彼の背中に、光の矢が何本も突き刺さるのが見えた。

「カイ様っ!?」

「……問題ない! この程度の魔法、俺の鎧には通じん!」

彼はそう言ったけれど、その顔は苦痛に歪んでいる。
大丈夫なはずがない。

(私が……私が、もっとしっかりしないと……!)

カイさんに守られてばかりではいられない。
私は、彼の背後から、ゴーレムに向かって『魔力弾』を放つ!
しかし、光の弾は、ゴーレムの体に当たる前に、その周囲に展開されているらしい、見えない力場のようなものに阻まれて、霧散してしまう。

(ダメだ……普通の攻撃じゃ、届かない……!)

どうすれば……?
何か、方法はないの……?
焦りが、心を蝕む。
その時だった。

(……落ち着いて……感じるの……)

頭の中に、誰かの声が響いたような気がした。
リリアさんの声……? いや、違う……もっと、古く、優しい……。

(……力の流れを……その、中心を……)

言われるままに、私は目を閉じ、意識を集中させる。
ゴーレムから放たれる、圧倒的な魔力の奔流。
その中に、ほんの一瞬だけ、流れが淀むような、あるいは、エネルギーが集中しているような「核」のようなものが見えた気がした!

(……あそこ……!?)

同時に、ゴーレムが、再び腕を振り上げ、強力な魔力砲を放とうとしているのが、予知のように感じられた!

「カイ様! 次は右腕です! 腕の付け根の紋章……そこが、たぶん……!」

私は、ほとんど叫ぶように、カイさんに伝えた!

カイさんは、一瞬、驚いたように私を見たが、すぐに私の言葉を信じたのか、大きく頷いた!

「……分かった! 行くぞ!」

ゴーレムが魔力砲を放つのと、カイさんが地を蹴って駆け出すのは、ほぼ同時だった!
カイさんは、放たれた光線を紙一重で避けながら、驚異的な速度でゴーレムの懐に潜り込む!
そして、私が示した、右腕の付け根――そこにある紋章目掛けて、剣を突き立てる!

グォォォン!!

これまでとは違う、鈍い破壊音!
カイさんの剣は、確かに、紋章が刻まれた部分の装甲を貫いていた!

『……ヌゥ……!?』

ゴーレムから、苦悶の声のようなものが響く!
動きが、一瞬、鈍った!

(今だ!)

私は、ありったけの魔力を、手のひらに集中させる。
ただの魔力弾じゃない。
もっと、強く……!
あの時、訓練中に感じた、星屑のような光……あの力を、今……!

(お願い……!)

祈るような気持ちで、魔力を練り上げる。
すると、私の手のひらに集まった光は、普段の青白い光だけでなく、銀色や金色、様々な色の、星屑のような輝きを帯び始めた!
魔力の量も、密度も、これまでとは比較にならないほど、増大しているのを感じる!

『……星の娘よ……その力……!』

ゴーレムの声に、焦りのような響きが混じる。

私は、その輝く魔力弾を、カイさんが破壊した、右腕の付け根の紋章目掛けて、全力で放った!

「いっけぇぇぇーーー!!」

閃光が、広間を包む!
私の放った星屑の魔力弾は、吸い込まれるように、破壊された紋章の中へと突き刺さり――

ドゴォォォォォォン!!!

凄まじい爆発音と共に、ゴーレムの右腕が、根元から吹き飛んだ!
バランスを崩し、巨大な石の体が、大きく揺らぐ。

「やった……!」

しかし、喜んだのも束の間、右腕を失ったゴーレムの怒りは、頂点に達したようだった。

『……小娘が……! 我の試練を……邪魔立てするか……!!』

残った左腕の紋章が、先ほどとは比較にならないほど、禍々しい光を放ち始める!
空間全体が、ビリビリと震えるほどの、強大な魔力!
まずい……! あれを受けたら、今度こそ……!

だが、その時。

『……待て、古き石よ。……その娘は、資格を示した……』

広間に、また別の、静かで、どこまでも澄み切った声が響き渡った。
その声が響くと、ゴーレムの放っていた禍々しい光は、嘘のように収まり、動きを完全に停止させた。

『……声は……祭壇の……?』

ゴーレムが、戸惑うように呟く。

声は、続けた。

『……星の巡りに導かれし娘よ。そして、その傍らに立つ、強き魂を持つ者よ。
よくぞ、試練を乗り越えた……。
祭壇へ至る道を、開こう……』

その声と共に、広間の奥、月の祭壇へと続くと思われる壁の一部が、静かに、光の粒子となって消え始め、新たな通路が現れた。

「……道が……開いた……?」

私は、呆然とその光景を見つめていた。
戦いは……終わったの……?

「……ユキ!」

カイさんが、私の元へ駆け寄ってくる。
彼は、私の肩を掴み、心配そうに顔を覗き込んだ。

「……無事か!? あの力は……!?」

「は、はい……大丈夫、です……。でも、体が……」

急激な魔力の消耗と、先ほど受けた衝撃で、立っているのがやっとだった。
視界が、ぐにゃりと歪む。

「……よく、やった」

カイさんが、私の体を、力強く支えてくれた。
彼の腕の中で、私は、安堵と、そして、言いようのない疲労感に包まれながら、意識を手放しかけた。

「……しっかりしろ! 祭壇は、もう目の前だ!」

カイさんの声が、遠くに聞こえる。
そうだ……まだ、終わりじゃない……。
私は、最後の力を振り絞り、彼に支えられながら、光り輝く、祭壇への道へと、一歩を踏み出した。
双月食の夜は、もう、始まろうとしていた……
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