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第三十二話:光差す場所へ
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忘却の森を抜け、朝日を浴びながら王城へと向かう道のりは、来た時とはまるで違うものに感じられた。
私の心は、疲労の中にも、確かな決意と、そして未来への希望で満たされていたからだ。
隣を歩くカイ様の横顔も、心なしか、いつもより穏やかに見える。
城門が近づくと、馬に乗ったフィンさんが、私たちを出迎えに来てくれた。
彼は、私とカイ様の無事な姿を見ると、驚いたように目を見開き、そして深々と頭を下げた。
「カイ様、ユキ様……! ご無事で、何よりでございます……!」
彼の声には、安堵の色が滲んでいる。
おそらく、あの森の危険性を、誰よりもよく知っているのだろう。
城門をくぐり、中庭を抜けて、居住区へと向かう。
すると、見慣れた人影が、柱の陰から飛び出してきた。
「ユキ様っ……!」
リリアさんだった。
彼女は、私の姿を認めると、わっと泣きそうな顔になり、駆け寄ってきて、私の体を強く、強く抱きしめた。
「……! リリアさん……!」
「よかった……本当によかった……! ご無事で……!」
彼女の肩が、小刻みに震えている。
いつも冷静沈着な彼女が、これほど感情を露わにするのは、初めてだった。
私の腕に輝く『星読みの腕輪』に気づくと、彼女はさらに感極まったように、嗚咽を漏らした。
「その腕輪……。やはり、あなたは……」
彼女は、何かを言いかけて、やめた。
でも、その瞳には、深い安堵と、そして、まるで自分のことのような喜びが浮かんでいる。
私も、彼女の温かい腕の中で、無事に帰ってこられたことへの感謝と安堵で、胸がいっぱいになった。
その後、私はカイ様と共に、国王陛下の元へと赴き、事の顛末を報告した。
月の祭壇のこと、守り人の試練、祭壇の声、そして、私が帰還を選ばず、この世界で生きていくことを決意したこと、『星読みの腕輪』を託されたこと……。
国王陛下は、カイ様の報告を、驚きと、そして深い関心をもって聞いておられた。
特に、私が『星詠みの民』の適性を持つ可能性や、腕輪を扱えることに関しては、側近の神官たちと共に、非常に大きな衝撃を受けている様子だった。
「……そうか。異界の娘、ユキよ。君は、我々の想像を遥かに超える、大きな宿命を背負っておるのかもしれんな……」
陛下は、私に温かい眼差しを向け、言った。
「君の決断に、心から感謝する。そして、君を、エルドラ王国の正式な客人として、最大限の敬意をもって遇することを、ここに約束しよう」
その言葉通り、私の処遇は、劇的に改善されることになった。
与えられたのは、以前の質素な部屋とは比べ物にならない、陽当たりの良い、広々とした美しい部屋。
衣服も、動きやすく、それでいて品のある、上質なものがいくつか用意された。
そして、世話係には、もちろんリリアさんが、今度は正式な侍女として付いてくれることになった。
城内での行動も、カイ様の付き添いがあれば、かなり自由に認められるようになったのだ。
もう、私は『外れ』でも『迷い人』でもない。
この国の、大切な一員として、認められたのだ。
祭壇で受けた祝福と、『星読みの腕輪』の力は、私の魔力にも、大きな変化をもたらしていた。
以前よりも、ずっとスムーズに、そして力強く、魔力を制御できるようになったのだ。
不安定だった『星詠みの力』も、腕輪を通じて、より安定し、その感覚を、少しずつ理解できるようになってきている。
カイさんとの訓練は、もちろん続けられた。
でも、その内容は、以前のような生存のための戦闘訓練というよりは、私の力をさらに伸ばし、そして、この世界のために役立てるためのものへと、変わっていった。
高度な魔法理論、精霊との交感の方法、そして、『星詠みの力』を正しく理解し、制御するための訓練。
「……君の力は、あるいは、この国が抱える瘴気の問題を、解決する鍵になるかもしれん」
ある日の訓練中、カイさんが、そんなことを呟いた。
聖女様がいなくなった後、王都の瘴気は依然として、人々の生活を脅かしている。
神官たちの儀式も、根本的な解決には至っていないらしい。
(私に、できることがある……?)
それは、私がこの世界に残ると決めた、理由の一つでもあった。
この力で、誰かの役に立てるのなら……。
私の胸に、新たな目標が、確かな光として灯った。
城内の人々も、私の変化に気づき始めていた。
特に、神官たちの中には、私の力を詳しく知ろうと、接触してくる者も現れた。
中には、純粋に国の未来を案じ、協力を求めてくる者もいれば、私の力を利用しようという、下心が見え隠れする者もいたけれど、カイ様が常に私のそばにいて、うまく対応してくれた。
ちなみに、聖女様を陥れたエルンスト様と宰相閣下は、全ての罪が白日の下に晒され、厳罰に処されたと聞いた。
二度と、日の目を見ることはないだろう。
まさに、自業自得の結末だった。
そして、カイ様との関係も、少しずつ、でも確実に、変化していた。
私たちは、師弟であり、保護者と被保護者であり……そして、それ以上の、特別な感情で結ばれ始めていることを、お互いに感じていた。
訓練中の、ふとした瞬間に目が合って、ドキッとしたり。
休憩中に、他愛もない話をして、笑い合ったり。
彼が見せる、不器用な優しさの一つ一つが、私の心を温かくする。
まだ、「好き」という言葉を交わしたわけではない。
でも、私たちの間には、言葉にしなくても伝わる、確かな想いが、存在している気がした。
ある晴れた日の午後。
私は、新しい部屋のバルコニーに出て、眼下に広がる王都の景色を眺めていた。
活気はあるけれど、どこかまだ、瘴気の淀んだ空気が漂っているのを感じる。
「……これから、大変なことも、たくさんあるんだろうな……」
私が小さく呟くと、いつの間にか隣に来ていたカイ様が、静かに言った。
「……一人で、背負う必要はない」
彼は、私の方に向き直り、真っ直ぐに私の目を見つめた。
その紫色の瞳には、強い意志と、そして、深い優しさが宿っている。
「……俺も、そばにいる。
何があっても、君を、守る」
その力強い言葉に、私の胸は、熱いもので満たされた。
不安がないわけじゃない。
でも、彼がそばにいてくれるなら、きっと、どんな困難も乗り越えていける。
私は、彼に向かって、心からの笑顔で頷いた。
「……はい。私も、カイ様と一緒に、ここで生きていきます」
私たちの未来は、まだ始まったばかりだ。
この異世界で、どんな物語が待っているのか、今はまだ分からない。
でも、確かなことは、もう私は一人ではない、ということ。
そして、私の手の中には、未来を切り開くための、小さな、けれど確かな光がある、ということだ。
私の心は、疲労の中にも、確かな決意と、そして未来への希望で満たされていたからだ。
隣を歩くカイ様の横顔も、心なしか、いつもより穏やかに見える。
城門が近づくと、馬に乗ったフィンさんが、私たちを出迎えに来てくれた。
彼は、私とカイ様の無事な姿を見ると、驚いたように目を見開き、そして深々と頭を下げた。
「カイ様、ユキ様……! ご無事で、何よりでございます……!」
彼の声には、安堵の色が滲んでいる。
おそらく、あの森の危険性を、誰よりもよく知っているのだろう。
城門をくぐり、中庭を抜けて、居住区へと向かう。
すると、見慣れた人影が、柱の陰から飛び出してきた。
「ユキ様っ……!」
リリアさんだった。
彼女は、私の姿を認めると、わっと泣きそうな顔になり、駆け寄ってきて、私の体を強く、強く抱きしめた。
「……! リリアさん……!」
「よかった……本当によかった……! ご無事で……!」
彼女の肩が、小刻みに震えている。
いつも冷静沈着な彼女が、これほど感情を露わにするのは、初めてだった。
私の腕に輝く『星読みの腕輪』に気づくと、彼女はさらに感極まったように、嗚咽を漏らした。
「その腕輪……。やはり、あなたは……」
彼女は、何かを言いかけて、やめた。
でも、その瞳には、深い安堵と、そして、まるで自分のことのような喜びが浮かんでいる。
私も、彼女の温かい腕の中で、無事に帰ってこられたことへの感謝と安堵で、胸がいっぱいになった。
その後、私はカイ様と共に、国王陛下の元へと赴き、事の顛末を報告した。
月の祭壇のこと、守り人の試練、祭壇の声、そして、私が帰還を選ばず、この世界で生きていくことを決意したこと、『星読みの腕輪』を託されたこと……。
国王陛下は、カイ様の報告を、驚きと、そして深い関心をもって聞いておられた。
特に、私が『星詠みの民』の適性を持つ可能性や、腕輪を扱えることに関しては、側近の神官たちと共に、非常に大きな衝撃を受けている様子だった。
「……そうか。異界の娘、ユキよ。君は、我々の想像を遥かに超える、大きな宿命を背負っておるのかもしれんな……」
陛下は、私に温かい眼差しを向け、言った。
「君の決断に、心から感謝する。そして、君を、エルドラ王国の正式な客人として、最大限の敬意をもって遇することを、ここに約束しよう」
その言葉通り、私の処遇は、劇的に改善されることになった。
与えられたのは、以前の質素な部屋とは比べ物にならない、陽当たりの良い、広々とした美しい部屋。
衣服も、動きやすく、それでいて品のある、上質なものがいくつか用意された。
そして、世話係には、もちろんリリアさんが、今度は正式な侍女として付いてくれることになった。
城内での行動も、カイ様の付き添いがあれば、かなり自由に認められるようになったのだ。
もう、私は『外れ』でも『迷い人』でもない。
この国の、大切な一員として、認められたのだ。
祭壇で受けた祝福と、『星読みの腕輪』の力は、私の魔力にも、大きな変化をもたらしていた。
以前よりも、ずっとスムーズに、そして力強く、魔力を制御できるようになったのだ。
不安定だった『星詠みの力』も、腕輪を通じて、より安定し、その感覚を、少しずつ理解できるようになってきている。
カイさんとの訓練は、もちろん続けられた。
でも、その内容は、以前のような生存のための戦闘訓練というよりは、私の力をさらに伸ばし、そして、この世界のために役立てるためのものへと、変わっていった。
高度な魔法理論、精霊との交感の方法、そして、『星詠みの力』を正しく理解し、制御するための訓練。
「……君の力は、あるいは、この国が抱える瘴気の問題を、解決する鍵になるかもしれん」
ある日の訓練中、カイさんが、そんなことを呟いた。
聖女様がいなくなった後、王都の瘴気は依然として、人々の生活を脅かしている。
神官たちの儀式も、根本的な解決には至っていないらしい。
(私に、できることがある……?)
それは、私がこの世界に残ると決めた、理由の一つでもあった。
この力で、誰かの役に立てるのなら……。
私の胸に、新たな目標が、確かな光として灯った。
城内の人々も、私の変化に気づき始めていた。
特に、神官たちの中には、私の力を詳しく知ろうと、接触してくる者も現れた。
中には、純粋に国の未来を案じ、協力を求めてくる者もいれば、私の力を利用しようという、下心が見え隠れする者もいたけれど、カイ様が常に私のそばにいて、うまく対応してくれた。
ちなみに、聖女様を陥れたエルンスト様と宰相閣下は、全ての罪が白日の下に晒され、厳罰に処されたと聞いた。
二度と、日の目を見ることはないだろう。
まさに、自業自得の結末だった。
そして、カイ様との関係も、少しずつ、でも確実に、変化していた。
私たちは、師弟であり、保護者と被保護者であり……そして、それ以上の、特別な感情で結ばれ始めていることを、お互いに感じていた。
訓練中の、ふとした瞬間に目が合って、ドキッとしたり。
休憩中に、他愛もない話をして、笑い合ったり。
彼が見せる、不器用な優しさの一つ一つが、私の心を温かくする。
まだ、「好き」という言葉を交わしたわけではない。
でも、私たちの間には、言葉にしなくても伝わる、確かな想いが、存在している気がした。
ある晴れた日の午後。
私は、新しい部屋のバルコニーに出て、眼下に広がる王都の景色を眺めていた。
活気はあるけれど、どこかまだ、瘴気の淀んだ空気が漂っているのを感じる。
「……これから、大変なことも、たくさんあるんだろうな……」
私が小さく呟くと、いつの間にか隣に来ていたカイ様が、静かに言った。
「……一人で、背負う必要はない」
彼は、私の方に向き直り、真っ直ぐに私の目を見つめた。
その紫色の瞳には、強い意志と、そして、深い優しさが宿っている。
「……俺も、そばにいる。
何があっても、君を、守る」
その力強い言葉に、私の胸は、熱いもので満たされた。
不安がないわけじゃない。
でも、彼がそばにいてくれるなら、きっと、どんな困難も乗り越えていける。
私は、彼に向かって、心からの笑顔で頷いた。
「……はい。私も、カイ様と一緒に、ここで生きていきます」
私たちの未来は、まだ始まったばかりだ。
この異世界で、どんな物語が待っているのか、今はまだ分からない。
でも、確かなことは、もう私は一人ではない、ということ。
そして、私の手の中には、未来を切り開くための、小さな、けれど確かな光がある、ということだ。
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