婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里

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24話

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それは、王都の朝に突然現れた。

「——空が、……光ってる?」

市場で野菜を並べていた老婆が、空を仰いでぽつりと呟いた。

人々が見上げたその空には、太陽とは異なる光が――  
まるで“神の輪”のような白金の円が、王宮上空に浮かんでいた。

「これは……奇跡だ! 聖女様の……新たなる顕現だ!」

「神は、我らを見捨てていなかった!」

たちまち、ざわめきと祈りが広がる。  
光に照らされた市場は、崇拝にも似た興奮で満ちていた。

——そして、それを密かに見つめる者たちがいた。

「見よ。人々の心はまだ“奇跡”を望んでいる」

廃礼拝堂の奥で、祭壇に手をかざす男の瞳が淡く輝く。

「次は、“声”を与えるとしよう。我らが新たなる神託を――女の声で、導くのだ」



王宮。

「……この現象、“空に浮かぶ光輪”は、魔導検出にかかりませんでした」

ユスティンの報告に、会議室内が一瞬静まる。

「つまり、魔法ではなく……“神術”?」

「……正確には、“神術に似せた構造物”です。発光と浮遊、拡声装置による演出の可能性が高い」

アンネリーゼは机に置かれた銀製の観測板を見下ろす。

「神のふりをした者たちが、また動き出した……」

「ええ。ですが、今の王都には“過去の熱狂”に戻りたい者が少なくありません。すでに市内では、聖女再臨を信じる者たちが路上で祈りを始めています」

ライナルトが静かに言葉を足す。

「このままでは、“信仰の暴走”が再び起こる。火種は、すでに王都にばらまかれている」

「ならば私は、“火”を消すのではなく、“光”を照らします」

アンネリーゼは、立ち上がった。



同日夕刻、王都中央広場。

急遽設営された演説台の上に立つアンネリーゼの姿に、群衆の視線が集まる。

「皆様にお伝えしたいことがございます」

その声は拡声器なしでも、静かに、だがはっきりと届いていた。

「本日、王宮上空に現れた光輪について、専門家の調査を行いました。……あれは“神の力”ではありません」

ざわつく群衆。

「我々はかつて、“神の名”にすがりすぎました。そして、そこに隠れた“嘘”を信じてしまった」

「けれど今、我々には自らの目で真実を見極める力があります。私はその“目”を、皆様に信じてほしいのです」

一部の民が、拳を握りしめていた。

「貴女は……“神”を否定するのか?」

「いいえ。“神の名に隠れた暴力”を拒絶するのです」

沈黙。

そして、一人の若者が叫んだ。

「……それでも俺は、貴女を信じる! 貴女は俺たちの声を聞いてくれたから!」

「俺の村にも学校ができた! 奇跡より、そっちの方がずっと、ずっと……!」

拍手が広がる。

やがてそれは波のように広がり、祈りよりも確かな“共鳴”へと変わっていった。

アンネリーゼは微笑み、心の中で静かに呟く。

——偽りの神に、私は屈しない。  
そして本物の希望を、私は創り出してみせる。

その決意が、新たな夜明けへの火を灯したのだった。
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