45 / 67
45★《過去》と風呂。
しおりを挟む
.
「最年長組は俺らだけなんだろう?」
じゃあ、俺らでガキを見るしかないだろう。
険しかった目線を悪戯に細めながら、彼はそう言った。
そうやって彼は、気が付けばいつも自分の負担を半分肩代わりしてくれていた。
だから、周りは全く性質の異なる自分たち二人の事を、《兄弟》ではなく《熟年夫婦》のようだとよく例えていた。
「……凄い、そしたら僕ら本当に夫婦みたいだね」
「実際《夫婦》みたいもんだろ」
何を今更、と。
年頃のはずなのに、照れもせず当然だと言わんばかりの顔でこちらをみる男に、逆に笑いが込み上げてくる。
「僕、男なんだけどね」
「当たり前だ。女だったらとっくに俺の子を産ませている」
「……君ってたまにすっごいこと平気で言うよね」
「文句あるのか?」
俺はそういう男だ、と真顔で言われて戦慄する。
出会ったばかりの頃は、無理やり孤児院に連れてきた自分に対して「お前は偽善者だ」「考えなしだ」なんだと言われ、同じ空間にいても一方的に《一年以上》も無駄に距離を置かれていたというのに。
「人って変わるもんだよね~」
「なんか言ったか?」
「いや?」
「言っておくが、ガキ見るときは俺もお前の部屋で寝るからな」
「え! なんで!?」
「同じ部屋でないと、なんかあった時わからんだろ。俺だってあんな小せえガキなんかみたことねぇ」
ダンテの至極まっとうな意見に、「でもそれは困る!!」と叫びたくなるのを、寸でのところで堪えた。
孤児院では《最年長組の特権》という名目で、自分とダンテだけは個室を使わせてもらっていた。
あとの小さい子供たちは大部屋で過ごしてもらっていたのだが、それは幼い子供たちが寂しがってみんなと一緒に寝たがったからで、他にも空き個室はあった。
なので、自分は《自室》といいつつも、夜泣きの激しい子がいたら他の子を起こさないために一緒に寝る用の《避難部屋》という使い方をしていた。
つまり、基本は誰かと一緒に寝ることがほとんどだったのだが、当然それは《小さい子供限定》。
幼い子供達には、自分の胸に巻いてある《さらし》の意味を知る由はないだろうし、深く考えないだろうが、察しのいい彼と同室で夜を過ごすとなると、不安しかない。
下手すると、《さらし》を見られただけで、悟られるかもしれない。
そうでなくても、彼は稽古後に自分が子供達と一緒の温かい大浴場に入らず、夜中に一人で水浴びしている事に疑念を抱いているようなのだ。
一人で水浴びする理由としては、『小さい頃の事故で胸に大きな傷があって、子供たちを怖がらせたくないから裸になりたくない』といい、月に一度の月経時も『傷口が痛んで出血する時があるから、みんなが入る湯を汚したくない』と言い、なんとか誤魔化してこれている。
近所に医者も薬師もいない辺境の地だからこそ貫ける嘘だ。
「――それとも、俺に何か隠していることでもあるのか?」
ダンテは当初からその事に懐疑的だったが、一応は信じてくれている素振りを示している―――が、年齢をかさね、距離が近づくにつれ、どんどん突っ込んだ話をするようになってきた。
そして、嫌がる自分を少し愉しんでいるようでもあった。
案の定、自分より少し高い位置から、愉し気に顔をのぞき込まれて「ぎぎぎぎ」と歯ぎしりする。
自室で寝るときだけさらしを外せるのが開放的で好きだったのに。しばらくは、それすら厳しそうだ。
「わかったよ……でもあの子がまとまって寝られるようになったら、自分の部屋で寝てくれよ」
「それはどうかな。お前は秘密主義だからな。部屋に一人にしておいたらちゃんと寝るかあやしいしな」
「…………」
「そうだな。お前が一緒に風呂に入るなら」
「いいから剣術教えろよ!!!!!!」
あと風呂には絶対に一緒に入らない!! いつもいってるだろ!!!
そう、つっぱねた懐かしい記憶が蘇る。
なぜ、よみがえるかというと。今、絶賛風呂に入れられているからだ。
「どうしてこうなりましたの……?」
ぴちゃーーーん、と絵画が描かれた豪華な天井から垂れたらしい水滴が床に落ち、浴室内に水音が響く。
「最年長組は俺らだけなんだろう?」
じゃあ、俺らでガキを見るしかないだろう。
険しかった目線を悪戯に細めながら、彼はそう言った。
そうやって彼は、気が付けばいつも自分の負担を半分肩代わりしてくれていた。
だから、周りは全く性質の異なる自分たち二人の事を、《兄弟》ではなく《熟年夫婦》のようだとよく例えていた。
「……凄い、そしたら僕ら本当に夫婦みたいだね」
「実際《夫婦》みたいもんだろ」
何を今更、と。
年頃のはずなのに、照れもせず当然だと言わんばかりの顔でこちらをみる男に、逆に笑いが込み上げてくる。
「僕、男なんだけどね」
「当たり前だ。女だったらとっくに俺の子を産ませている」
「……君ってたまにすっごいこと平気で言うよね」
「文句あるのか?」
俺はそういう男だ、と真顔で言われて戦慄する。
出会ったばかりの頃は、無理やり孤児院に連れてきた自分に対して「お前は偽善者だ」「考えなしだ」なんだと言われ、同じ空間にいても一方的に《一年以上》も無駄に距離を置かれていたというのに。
「人って変わるもんだよね~」
「なんか言ったか?」
「いや?」
「言っておくが、ガキ見るときは俺もお前の部屋で寝るからな」
「え! なんで!?」
「同じ部屋でないと、なんかあった時わからんだろ。俺だってあんな小せえガキなんかみたことねぇ」
ダンテの至極まっとうな意見に、「でもそれは困る!!」と叫びたくなるのを、寸でのところで堪えた。
孤児院では《最年長組の特権》という名目で、自分とダンテだけは個室を使わせてもらっていた。
あとの小さい子供たちは大部屋で過ごしてもらっていたのだが、それは幼い子供たちが寂しがってみんなと一緒に寝たがったからで、他にも空き個室はあった。
なので、自分は《自室》といいつつも、夜泣きの激しい子がいたら他の子を起こさないために一緒に寝る用の《避難部屋》という使い方をしていた。
つまり、基本は誰かと一緒に寝ることがほとんどだったのだが、当然それは《小さい子供限定》。
幼い子供達には、自分の胸に巻いてある《さらし》の意味を知る由はないだろうし、深く考えないだろうが、察しのいい彼と同室で夜を過ごすとなると、不安しかない。
下手すると、《さらし》を見られただけで、悟られるかもしれない。
そうでなくても、彼は稽古後に自分が子供達と一緒の温かい大浴場に入らず、夜中に一人で水浴びしている事に疑念を抱いているようなのだ。
一人で水浴びする理由としては、『小さい頃の事故で胸に大きな傷があって、子供たちを怖がらせたくないから裸になりたくない』といい、月に一度の月経時も『傷口が痛んで出血する時があるから、みんなが入る湯を汚したくない』と言い、なんとか誤魔化してこれている。
近所に医者も薬師もいない辺境の地だからこそ貫ける嘘だ。
「――それとも、俺に何か隠していることでもあるのか?」
ダンテは当初からその事に懐疑的だったが、一応は信じてくれている素振りを示している―――が、年齢をかさね、距離が近づくにつれ、どんどん突っ込んだ話をするようになってきた。
そして、嫌がる自分を少し愉しんでいるようでもあった。
案の定、自分より少し高い位置から、愉し気に顔をのぞき込まれて「ぎぎぎぎ」と歯ぎしりする。
自室で寝るときだけさらしを外せるのが開放的で好きだったのに。しばらくは、それすら厳しそうだ。
「わかったよ……でもあの子がまとまって寝られるようになったら、自分の部屋で寝てくれよ」
「それはどうかな。お前は秘密主義だからな。部屋に一人にしておいたらちゃんと寝るかあやしいしな」
「…………」
「そうだな。お前が一緒に風呂に入るなら」
「いいから剣術教えろよ!!!!!!」
あと風呂には絶対に一緒に入らない!! いつもいってるだろ!!!
そう、つっぱねた懐かしい記憶が蘇る。
なぜ、よみがえるかというと。今、絶賛風呂に入れられているからだ。
「どうしてこうなりましたの……?」
ぴちゃーーーん、と絵画が描かれた豪華な天井から垂れたらしい水滴が床に落ち、浴室内に水音が響く。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
一般人になりたい成り行き聖女と一枚上手な腹黒王弟殿下の攻防につき
tanuTa
恋愛
よく通っている図書館にいたはずの相楽小春(20)は、気づくと見知らぬ場所に立っていた。
いわゆるよくある『異世界転移もの』とかいうやつだ。聖女やら勇者やらチート的な力を使って世界を救うみたいな。
ただ1つ、よくある召喚ものとは異例な点がそこにはあった。
何故か召喚された聖女は小春を含め3人もいたのだ。
成り行き上取り残された小春は、その場にはいなかった王弟殿下の元へ連れて行かれることになるのだが……。
聖女召喚にはどうも裏があるらしく、小春は巻き込まれる前にさっさと一般人になるべく画策するが、一筋縄では行かなかった。
そして。
「──俺はね、聖女は要らないんだ」
王弟殿下であるリュカは、誰もが魅了されそうな柔和で甘い笑顔を浮かべて、淡々と告げるのだった。
これはめんどくさがりな訳あり聖女(仮)と策士でハイスペック(腹黒気味)な王弟殿下の利害関係から始まる、とある異世界での話。
1章完結。2章不定期更新。
【完結】ヤンデレ乙女ゲームの転生ヒロインは、囮を差し出して攻略対象を回避する。はずが、隣国の王子様にばれてしまいました(詰み)
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
ヤンデレだらけの乙女ゲームに転生してしまったヒロイン、アシュリー。周りには、攻略対象のヤンデレ達が勢ぞろい。
しかし、彼女は、実現したい夢のために、何としても攻略対象を回避したいのだ。
そこで彼女は、ヤンデレ攻略対象を回避する妙案を思いつく。
それは、「ヒロイン養成講座」で攻略対象好みの囮(私のコピー)を養成して、ヤンデレたちに差し出すこと。(もちろん希望者)
しかし、そこへ隣国からきた第五王子様にこの活動がばれてしまった!!
王子は、黙っている代償に、アシュリーに恋人契約を要求してきて!?
全14話です+番外編4話
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる