望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第二章 静かに暮らしたいだけだったのに

32・アルヴェリオ様に会いたいです

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「ほう……だが、損をすることもあるんじゃないか?」

「はい、あります。豊作の年はよそで買った方が安いです。しかし、急に需要が伸びた物に関しても、間違いなく約束の価格で手に入るので、それを高値で転売すれば大儲けができます」

「……なるほど」

 言葉を発するたびに、ライネルの声が少しずつ強くなる。
 その真っ直ぐな瞳に、商会主は気圧され、思わずうなずいた。

「……小僧、この方法は誰が考えた?」

「僕です」

「それは本当か?」

「はい。村おこしをするために。そして村のみんなが安定して暮らせるように考えました」

(……本当は前世の記憶だけど、まあいいよね?)

 ……それにしても仕事の記憶は鮮明に思い出せるのに、家族や友人の記憶はほとんどない。前世の自分も寂しい人間だったんだなと、ライネルは心の中で苦笑した。

「……面白い」

「え?」

 しばらく考え込んだのち、商会主は口を開いた。

「それに損をする可能性に関してもきちんと説明する誠実さに感心した。失礼な態度を謝罪する。早速契約に移りたいんだが、商品の種類を見せてくれるか」

「はい、こちらが一覧になります。あと、商品によって期限が変わります。……収穫時期の早いものは三か月、魚は……」

 商会主は熱心に話を聞き、最終的にいくつかの商品を契約してくれた。
 さらに、他の商会にも紹介状を書いてくれるという。

 良い結果を出せたライネルは、安堵の笑みを浮かべて商会を後にした。






「ライネル、すごいな。見直したよ」

 ブラウンの言葉に、ライネルは恥ずかしそうに笑った。

「いえ、ブラウンさんがいなかったら話も聞いてもらえませんでした。ありがとうございます」

「そんなことないですよ!ライネルさん!その、えっと……すごいです!」

 先ほどの商会主からも宝石をせしめたアノマリーは、ぽりぽりとルビーを齧りながら懸命に言葉を探す。
 ライネルはそんなアノマリーの頭を撫でながら、予定していた宿屋への道のりを歩いた。

「ショーさんたちも上手くいってますかね」

「多分、大丈夫だろう」

 王都の夕暮れは、村とは違いとても明るい。これから営業を始める店もあるくらいだ。
 三人はゆっくりと歩きながら、眠らない街を眺め、会話を楽しんだ。




 ライネルたちが宿屋に着くと、既にショーたち一行は一足先に戻っており、三人の帰りを今か今かと待っていた。
 だが、その場の空気はどこか重く、誰もが俯きがちで、笑顔のひとつもない。
 異様な沈黙に、ライネルは胸の奥がざわめいた。

「……どうしたんですか?ホールで何かあったんですか?」

 問いかけると、宝石工房のゼンバが眉をしかめ、薬工房のナリユキが苦々しげに肩をすくめる。

「そうだな、まあ……やっぱり王室の騎士は横柄だな」

「確かに。あれはちょっと、度が過ぎてた」

 その言葉にブラウンが強張った声で続けた。

「……何かありましたか?」

 ライネルが首をかしげると、ショーが深くため息をつき、重い口を開いた。

「指定された建物に着いた途端だ。王室の紋章をつけた騎士が数人、突然駆け寄ってきて“帰れ”と怒鳴ったんだ。しかも剣まで抜いてな。こっちは許可証を見せようとしたが、聞く耳を持たなかった」

「そんな……! それで、どうなったんですか?」

 ライネルが思わず身を乗り出す。
 ショーの代わりに、ナリユキが憤りを隠せず拳を握った。

「仕方なく引き返そうとしたんだ。でもな、それでも騎士たちは“ここはお前たちのような者が入る場所じゃない”なんて言いながら、まるで犯罪者みたいに囲んできて……!」

「ちゃんと王都の許可を取ってもらっているはずなのに、そんな横暴ありえません!」

 ライネルの声が思わず強くなる。
 だが、横から軽やかな声がそれを遮った。

「……でもね、助けてくれた人がいたのよ!」

「助けてくれた人ですか?」

 先ほどまで眉を吊り上げていたレバレンの顔に、ぱっと花が咲いたような笑みが広がる。

「追い出されそうになった時にバロウズ男爵のご子息が現れたの!」

「えっ?!」

(アルヴェリオ様が……?!)

 ライネルの胸が跳ねた。
 思わず手にしていたカップを落としそうになり、慌てて受け止める。

「そりゃあもう、びっくりするくらいの美男子だったのよ!立ち姿だけで空気が変わったもの。私があと二十歳若かったら、間違いなくデートに誘ってたわ!」

「レバレンさん、問題は年齢だけなんですか?」

「ぶふっ!」

 アノマリーの無邪気なツッコミに、一同が堪えきれず吹き出した。
 笑いの波が広がり、さっきまで張り詰めていた空気がやわらぐ。

「まったくもう!この子ったら生意気ね!夜更かしは美容に悪いから私はもう寝るわよ!」

 ぷんぷん怒りながらレバレンは隣の部屋へと消えていった。
 そのあとも、村の皆は口々にアルヴェリオについて語り出す。

「騎士たちの顔が青ざめてた」「あの凛とした声、国王陛下にも引けを取らない」――と、まるで英雄談のように。

「“王命に背くのか”って、あの人が一言言った瞬間、場の空気が変わったんだぞ」
「目がすごかった。怒鳴るでもなく、ただ見据えるだけで、全員が息を呑んでた」

 そんな話を聞いているうちに、ライネルの胸はざわざわと騒がしくなっていった。
 心の奥が、くすぐったいような、不思議な熱に満たされていく。

(……やっぱり、あの方は特別だ。僕にだってあんなに優しくしてくれたんだから。……明日のお披露目会で会えるかなあ)

 ライネルはアルヴェリオの笑顔を思い出し、ぎゅっと胸が痛くなるのを感じたが、その理由にはまだ気付いていなかった。
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