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第8話 魔道具はアーティファクト
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満腹になったところで、水を飲みつつモレイラに尋ねる。
「ダリオさん、街で魔道具って手に入るんですか?」
「魔道具? どういったものですか?」
まさか、魔道具という単語自体を知らないとは。いや、呼び方が変わっているだけに違いない。
ちょっと待っててください、と断ってから魔道車に戻り、もっとも普及している魔道具をいくつかとって戻る。
「こういうのを見たことありますか?」
細長い直方体で、ホテルのルームキーのキーホルダーのような魔道具をモレイラ父子に見せてみる。
父の方は察したようだったが、ダリオはまだピンときていない様子。
「下の方をもって、裏面にあるスイッチを押し込むと」
直方体の先端からライターのように火が出る。
これに対し目を輝かせるダリオと、「なるほど」と柏を打つモレイラ。
「炎の出るアーティファクトですか! 良いものをお持ちで」
「アーティファクトは街で売っているものなのですか?」
「古物商人やアンティーク店で販売されております。珍しいものは貴族や豪商でもなければ手が出ません」
「交換用の魔石……火の出る元になっている水晶かオパールもおいているのでしょうか」
カチカチと火の出る魔道具の底を開け、ボタン電池に似る魔石を取り出して見せる。
「交換式でしたか! 販売されておりますよ。お持ちのアーティファクトに合うものであればよいのですが」
「これは何と呼んでいるのですか?」
「魔晶石と呼ばれています」
魔石は魔晶石で魔道具はアーティファクトか。
アーティファクトそのものの意味は人工物だけど、意味合いは異なるよな、きっと。
アンティーク店で扱われるという情報から、古代の人工物とか遺物とか、そういった意味合いだと思う。
ここが2000年後の世界だとして、いつ魔道具が消え去ることになったのだろうか。
「アーティファクトはどこで発見されているんですか?」
「土の中や洞窟の中から発見されたり、古代建築物の残骸の中に多量にあるとか。発掘は主に冒険者たちが行うことが多いと聞きます」
魔道具修理屋の俺としては、魔道具そのものが失われた技術となっている世では職にあぶれるな……。
この先、どうやって生活していけばいいものか悩ましい。時代が変わったといっても、金欠であることに変わりないからさ。
むしろ、決まっていた仕事がなくなり収入のアテがない分、状況が悪化しているとも言える。
ううむと口をつぐむ俺と入れ替わるようにペネロペが口を開く。
「街に伝わる聖者の伝説や古代都市の伝説を聞かせていただけないでしょうか?」
お、おお!
いいぞ、ペネロペ! 伝説から2000年の間に何があったのか分かるかもしれない。
今の時代の人なら誰でも知っている話を俺たちが知らない、ってのは彼らにとって引っかかることだろうけど、この際仕方ないよな。
ペネロペのお願いに顔を見合わせる父子であったが、ダリオがはい、と手をあげる。
「聖者様は世捨て人だから……むぐう」
「ダリオ」
「天人物語でいいんだよね」
父に口をふせがれたダリオであったが、気を取り直し天人物語を語り始めた。
遥かな昔、優れた魔術を持つ人々がいた。彼らはその魔術を使って大地を天に浮き上がらせ、暮らしていたのだと言う。
空の大地に住む人々は天人と呼ばれ、下の地で住む人々から敬われるとともに畏れられたそうだ。空の大地では実りが多く、数多くの魔術を使って天人たちは平和で豊な暮らしを謳歌していた。
天人たちは貪欲でより豊かで、より便利な理想を追い求め、魔術を更に研磨していく。とどまることを知らない魔術の強化・改良に伴い、魔術の使用量が天井知らずで増えていった。そんな彼らのありように天人の中でも異を唱える者たちがいて、空の大地と袂を分かち、空から地へ降りる。
たゆまぬ魔術の強化・改良によって天人たちは栄華を極めた。しかし、天人たちの栄華はある日突然、崩壊する。
魔術の使用に大地が耐えられなくなり、空の大地が落ち、天人たちも地に住まう人たちも一切の魔術も魔法も使えなくなってしまった。
空の大地が落ちた際に天人は全滅し、残された人々も魔法の力なく生きていくことになってしまう。
魔法無き世界で暮らす人々には天人たちの残した古代魔法陣魔法が一部を除き継承されることなく失われ、長い時が経過した。
「一部とは空の大地が落ちる前に異を唱え、立ち去った聖者様たち。聖者様たちの子孫はいまもどこかで古代の魔術、魔法を脈々と受け継いでいるんだってさ」
語ってくれたダリオに向けぱちぱちと拍手する。
ところどころ、あれ、と思う点はあるが伝承ってすごい。天の大地が落ちてきたあの日、俺たちの生きてきた王国は崩壊したんだ。
マナ密度がゼロになり、天の大地に住んでいた人は即死、そして、王国内で暮らしていた人たちも一切の魔道具と魔法を使うことができなくなり、魔法文明を維持することができなくなった。クワや剣を作ろうにも製錬技術はすべて魔力を使うため使用不可。原始的な生活を強いられた人々のその後は筆舌に尽くしがたいものだっただろう。
それでも後の世に魔道具の製造技術を記した書なんかは残りそうなものだが、技術力がゼロになってしまった世で資源を取り合い戦争でも起きたのかもしれない。
ともあれ、魔道具と魔法陣魔法の技術全てが失伝し、2000年後には残っていないことは確かである。
ん? 待てよ。
「古代の街とかも残っているんじゃ」
「辺境や秘境にある古代の街や村にはまだアーティファクトが眠っているはずです」
「危険な場所だから冒険者が報奨金目当てに探索に向かっているんですね」
「はい、しかし、あの山は街から見える距離にありながら誰も手をつけていないです」
モレイラの指し示す先にうっすらと影が見える。憶測であるが、山まで距離にして100キロはありそうだ。
手を付けれていないってことは、あの山は彼らの言うところの古代都市で間違いない。
あの山が何かはすぐに想像がついた。おもしろい。あの山なら修理屋だってできそうだぞ。街まで修理品を運べば商売にはなる。いっそ、あの山で暮らしていくのもありかもしれない。憧れの『本物』魔道車を作ることだって夢じゃないかも。
「ダリオさん、街で魔道具って手に入るんですか?」
「魔道具? どういったものですか?」
まさか、魔道具という単語自体を知らないとは。いや、呼び方が変わっているだけに違いない。
ちょっと待っててください、と断ってから魔道車に戻り、もっとも普及している魔道具をいくつかとって戻る。
「こういうのを見たことありますか?」
細長い直方体で、ホテルのルームキーのキーホルダーのような魔道具をモレイラ父子に見せてみる。
父の方は察したようだったが、ダリオはまだピンときていない様子。
「下の方をもって、裏面にあるスイッチを押し込むと」
直方体の先端からライターのように火が出る。
これに対し目を輝かせるダリオと、「なるほど」と柏を打つモレイラ。
「炎の出るアーティファクトですか! 良いものをお持ちで」
「アーティファクトは街で売っているものなのですか?」
「古物商人やアンティーク店で販売されております。珍しいものは貴族や豪商でもなければ手が出ません」
「交換用の魔石……火の出る元になっている水晶かオパールもおいているのでしょうか」
カチカチと火の出る魔道具の底を開け、ボタン電池に似る魔石を取り出して見せる。
「交換式でしたか! 販売されておりますよ。お持ちのアーティファクトに合うものであればよいのですが」
「これは何と呼んでいるのですか?」
「魔晶石と呼ばれています」
魔石は魔晶石で魔道具はアーティファクトか。
アーティファクトそのものの意味は人工物だけど、意味合いは異なるよな、きっと。
アンティーク店で扱われるという情報から、古代の人工物とか遺物とか、そういった意味合いだと思う。
ここが2000年後の世界だとして、いつ魔道具が消え去ることになったのだろうか。
「アーティファクトはどこで発見されているんですか?」
「土の中や洞窟の中から発見されたり、古代建築物の残骸の中に多量にあるとか。発掘は主に冒険者たちが行うことが多いと聞きます」
魔道具修理屋の俺としては、魔道具そのものが失われた技術となっている世では職にあぶれるな……。
この先、どうやって生活していけばいいものか悩ましい。時代が変わったといっても、金欠であることに変わりないからさ。
むしろ、決まっていた仕事がなくなり収入のアテがない分、状況が悪化しているとも言える。
ううむと口をつぐむ俺と入れ替わるようにペネロペが口を開く。
「街に伝わる聖者の伝説や古代都市の伝説を聞かせていただけないでしょうか?」
お、おお!
いいぞ、ペネロペ! 伝説から2000年の間に何があったのか分かるかもしれない。
今の時代の人なら誰でも知っている話を俺たちが知らない、ってのは彼らにとって引っかかることだろうけど、この際仕方ないよな。
ペネロペのお願いに顔を見合わせる父子であったが、ダリオがはい、と手をあげる。
「聖者様は世捨て人だから……むぐう」
「ダリオ」
「天人物語でいいんだよね」
父に口をふせがれたダリオであったが、気を取り直し天人物語を語り始めた。
遥かな昔、優れた魔術を持つ人々がいた。彼らはその魔術を使って大地を天に浮き上がらせ、暮らしていたのだと言う。
空の大地に住む人々は天人と呼ばれ、下の地で住む人々から敬われるとともに畏れられたそうだ。空の大地では実りが多く、数多くの魔術を使って天人たちは平和で豊な暮らしを謳歌していた。
天人たちは貪欲でより豊かで、より便利な理想を追い求め、魔術を更に研磨していく。とどまることを知らない魔術の強化・改良に伴い、魔術の使用量が天井知らずで増えていった。そんな彼らのありように天人の中でも異を唱える者たちがいて、空の大地と袂を分かち、空から地へ降りる。
たゆまぬ魔術の強化・改良によって天人たちは栄華を極めた。しかし、天人たちの栄華はある日突然、崩壊する。
魔術の使用に大地が耐えられなくなり、空の大地が落ち、天人たちも地に住まう人たちも一切の魔術も魔法も使えなくなってしまった。
空の大地が落ちた際に天人は全滅し、残された人々も魔法の力なく生きていくことになってしまう。
魔法無き世界で暮らす人々には天人たちの残した古代魔法陣魔法が一部を除き継承されることなく失われ、長い時が経過した。
「一部とは空の大地が落ちる前に異を唱え、立ち去った聖者様たち。聖者様たちの子孫はいまもどこかで古代の魔術、魔法を脈々と受け継いでいるんだってさ」
語ってくれたダリオに向けぱちぱちと拍手する。
ところどころ、あれ、と思う点はあるが伝承ってすごい。天の大地が落ちてきたあの日、俺たちの生きてきた王国は崩壊したんだ。
マナ密度がゼロになり、天の大地に住んでいた人は即死、そして、王国内で暮らしていた人たちも一切の魔道具と魔法を使うことができなくなり、魔法文明を維持することができなくなった。クワや剣を作ろうにも製錬技術はすべて魔力を使うため使用不可。原始的な生活を強いられた人々のその後は筆舌に尽くしがたいものだっただろう。
それでも後の世に魔道具の製造技術を記した書なんかは残りそうなものだが、技術力がゼロになってしまった世で資源を取り合い戦争でも起きたのかもしれない。
ともあれ、魔道具と魔法陣魔法の技術全てが失伝し、2000年後には残っていないことは確かである。
ん? 待てよ。
「古代の街とかも残っているんじゃ」
「辺境や秘境にある古代の街や村にはまだアーティファクトが眠っているはずです」
「危険な場所だから冒険者が報奨金目当てに探索に向かっているんですね」
「はい、しかし、あの山は街から見える距離にありながら誰も手をつけていないです」
モレイラの指し示す先にうっすらと影が見える。憶測であるが、山まで距離にして100キロはありそうだ。
手を付けれていないってことは、あの山は彼らの言うところの古代都市で間違いない。
あの山が何かはすぐに想像がついた。おもしろい。あの山なら修理屋だってできそうだぞ。街まで修理品を運べば商売にはなる。いっそ、あの山で暮らしていくのもありかもしれない。憧れの『本物』魔道車を作ることだって夢じゃないかも。
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