修理屋の俺は穴掘りとごみ拾いで快適な生活を目指そうと思う~気が付いたら文明崩壊後のファンタジー世界だった件~

うみ

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第15話 魔法陣魔法

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「イデアは魔法陣魔法がどのようなものか知っている?」
「いや、魔法陣魔法は遥か2000年から2500年前にあった空の大地に住む天人たちが作り出した魔法と聞く。今もどこかで天人たちに反発し、地上に降りた聖人の子孫が語り継いでいると聞くが、魔法陣魔法を記した書物はフェンブレンにはない」
 どうしようか。
 じっと俺たちの話を聞いていたペネロペに目を向ける。
「判断はお任せします。イデアさんは研究者のようですし、情報の取り扱いも心得ているのでは?」
「ここで会ったのも何かの縁か」
 彼女は盗賊たちから俺たちを助けてくれた。それにきっと彼女のことだ。俺が魔道具を使っていたことも気が付いているはず。
 魔道具を魔法と認識しており、精霊術を使う彼女なら魔力の流れは見えるわけだし。
 敢えて黙っていたということは、むやみやたらと俺たちと魔法陣魔法のことを触れまわったりはしないだろう。この時代では個人の魔法使用について制限がかかっていないから、使用すること自体も問題ない。
「ポットのお湯を水に入れ替えてもいいかな?」
「ちょうど湯も減っていた。私がやろう」
 そう言ってイデアがポットのお湯を水甕に流し、再び水をすくう。
 彼女とて俺が何をしようとしているのか察しはついているはず。
 両手の手のひらを上にし、魔法陣魔法を発動する。
「術式構築 ウォーム」
 構築を告げる言葉とともに手のひらの上に光で描かれた小さな魔法陣が現れ、ポットに光が注ぎ込まれていく。
 水を温める魔法陣は最も基礎的な魔法陣だけに一瞬で紡ぐことができるから、魔法陣が現れたら既に構築が済んでいるお手軽さだ。
 精霊術と同じくらいの時間でポットの水が湯に変わり、湯気が出てきた。
「こ、これは精霊術とは明らかに異なる! 古代魔法? それとも魔法陣魔法か!?」
「魔法陣魔法だよ。古代魔法はどんなものか分からないからね」
「お、おおおお! まさかこの目で魔法陣魔法を見ることができる日がくるとは。感激したよ!」
「何も聞かずに見せておいてなんだけど……」
 言い終わらぬうちに興奮した様子のイデアが言葉を重ねてきた。
「分かっている。2000年前に途絶えたといわれる魔法陣魔法だ。口外はせぬよ。さっきは感激で観察が不十分だった。もう一度見せてもらえるか?」
「同じ術式でいいのかな」
「術式とは魔法陣魔法の種類か」
「うん、魔法陣魔法は精霊術と異なり、元素を使わない。元素が持つ方向性……というのかな、火とか水とかというのを魔法陣で作り上げて発動するものなんだ」
 と言いながら再度魔法陣魔法「ウォーム」を発動させる。
 イデアはこの説明と再度見た魔法陣だけで、魔法陣魔法の概要を理解してくれたみたいで「ふむ」と形の良い顎に指先を当て深く頷いていた。
 続いて彼女はテーブルの上へ手を動かし、トントンと人差し指で叩く。そして我が意を得たりとばかりに今度はその指を立てる。
「やはり、魔法陣魔術とアーティファクトは繋がっていたのだな」
「その通りだよ。魔道具は魔法陣を固定し、魔石から魔力を供給することによって発動する」
 あ、ついこの時代の表現に言い換えるのを忘れていた。しかし彼女の反応は上々で、頬を紅潮させて感心した様子。
「君の表現ではアーティファクトが魔道具。魔晶石が魔石か。魔道具とは言い得て妙だ。もう一方の魔晶石という表現には私も違和感があった」
「魔石の原料は水晶だけじゃないからね」
「いかにも。もう一つ聞かせて欲しい。魔法陣魔法では難しいことも魔道具で実現できるという認識で合っているだろうか?」
「魔道具を動かす元になる魔法陣は魔法陣魔法からきているけど……」
「すまない。言い方が良くなかった。魔道具は魔石の魔力を長時間供給し発動し続けることができる。対して魔法陣魔法でも同じことができるだろうが人の手によるものだ。寝ている間も魔力を流し続けることはできないのではないかと」
「そう言うことか! その通りだよ。保冷庫のように冷やし続ける機能を持った魔道具なんかはまさに魔道具ならではのものかな」
「保冷庫とは初めて聞く。やはり魔道具にはまだまだ未知のものがあったのだな。素晴らしい」
 右手をぎゅっと握り、狸耳がピクリと動くイデア。狸耳は感情に合わせて動くのかな?ちょっとだけ触れてみたいが、触らせてください、は失礼過ぎるよな。
「さて、前置きが長くなり過ぎたが、店に案内しよう。君たちが満足できるようなものとなると微妙だが」
「いろいろ話をしてくれてありがとう」
「こちらこそだ」
 今度はふさふさの尻尾が動くイデアなのであった。

 店はトレーラーハウスの中だけに狭いのだが、所狭しと商品が並べられていて品数は相当ある。先ほど訪れた大型店では鉄格子の中にあるような魔道具でも無造作に置かれていたり、高価な商品を置いているとは思えない陳列の仕方だ。個人的にはこっちの方が好みかな。なんかこうショーケースって堅苦しくて苦手なんだよね。
「お、ペネロペ、これって冷蔵庫だよな?」
「どうでしょうか。保温庫かもしれないです」
 俺の身長ほどある棚代わりに使われているミスリル合金の箱は冷蔵庫に見える。保温庫だとコンビニにあるレンジくらいの大きさであることが殆どだ。
 ん……気になった俺は店の隅に置かれた背もたれのない椅子に座っているイデアに声をかける。
「この箱、ええと、棚かな、の前面に扉が付いてなかった?」
「発見された時にはなかった。しかし、よく見ているな」
 見ているとは?と思い、箱の前面をよく見たら蝶番の跡があった。俺は完品から想像しただけなのだけど、彼女はつぶさな観察により扉があることを断定していた。
「中の上面とか裏……以外の外側に刻印がないか見てみるか」
「刻印か紋章かは分からぬが」
 いつの間にか俺の背後まできていたイデアがずずいと手を伸ばす。ふわりと彼女の髪から良い香りが漂い、彼女の肩が俺の二の腕に触れる。魔道具に集中しているのは分かるが、もう少し距離感ってものをだな。
「ここだ。底にもあるが、見たければ商品を動かす」
「それはさすがに手間だよ」
 イデアの示した場所は右側面の下の方だった。特定できる何かであればいいのだけど。
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