修理屋の俺は穴掘りとごみ拾いで快適な生活を目指そうと思う~気が付いたら文明崩壊後のファンタジー世界だった件~

うみ

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第26話 魔の儀

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 ラージャがカッと目を見開き勢いよく立ち上がる。
「『魔の儀』は生きている……貴殿ら、一体……」
「ラージャさん、でよかったかな」
「いかにも。マーモ殿に聞いたのだな」
「うん、『箱を開けるモ』と棺の蓋を開けてくれたんだ」
 話が横にそれてしまったが、ラージャの名前を確認したついでに俺たちも自己紹介をすることにした。
 ラージャは大がかりな魔道具を使っていたので、俺たちの素性を語ってもいいか。
「ふむ。まさか1000年ほど前に滅びたという天の大地の末裔がまだ生きていたとは」
 末裔ではなくて……と言いかけて飲み込む。
「天の大地ではなく大地にから降りた民だっけか。俺たちはそっちだ。それで、俺はアーティファクトの修理を専門にしていたから、『魔の儀』を生かしたまま、ラージャを起こしたんだよ」
「アーティファクトの修理とは俄かに信じられぬが、事実ここに成ったわけだ」
 ん。違和感があるな。天の大地が落ちてからずっと『魔の儀』を発動できる魔道具は生きている。ずっと冒険者たちを近づけなかったことから、『魔の儀』自体は遥か昔から動いていたはず。でも、今って天の大地が落ちてから2000年経過してなかったか? 
「代々、棺の中に入っていたのかと思ったけど、ラージャのみなのか?」
「然り。今が幾年過ぎたか私には想像もつかない」
「それほど長い時を生きることができる種族なんだな」
「仮死状態になることができる種族、と言えばいいか。起きていられる時間は人間とそう大差ないさ」
「寝ていても意識をアーティファクトに伝えることができるもんなんだな」
「ずっと伝えていたわけではない。棺の中に入ってから眠るまでの間のみだな」
 一度指定した意識はずっと維持される方式ってことか。
 ここまでの情報でラージャの生きていた時代と俺たち、そして現在に開きがあることが分かったので、彼女に自分の考えを述べる。
 彼女からすると突拍子もない話だったようで、当初驚いている様子だったが最後の方は達観に変わっていた。
 人間、キャパオーバーすると却って冷静になり理解が進む、というのが俺の持論である。彼女もなんのかんので理解が進んだようでなにより。
「貴君らは天の大地が空にあった頃から事故で今の時代に来た。そして、今は私が眠ってから1000年後というわけなのだな」
「そんなところ。マナ密度がゼロになり、その衝撃なのか捻じれなのかで時を飛んでしまった。死なずに生を拾ったことは奇跡的な幸運だったんだ」
「マナ密度、というのは聞いたことがないが、眠った頃より空気が澄んでいる。これがマナ密度というやつだと認識した」
「ラージャの生きていた時代のことを聞かせてもらえるか?」
 次はラージャの時代について聞いてみることに。彼女の時代のことを聞くことで、彼女が棺で眠った事情も分かるはず。
 CA歴420年、マナ密度ゼロ事変により天の大地が落ち、その際の被害で多くの人が亡くなり、マナがないので魔法陣魔法も魔道具も使えなくなったことで僅かに生き残った人々がいたものの、数代、代変わりすることで全て失伝してしまうことに。
 ラージャの生きていた時代、だいたいCA歴1420年ごろだろうか、この時代になると完全に魔法陣魔法と魔道具について仕組みを理解する者はいなくなっている。
 反対にマナ密度については劇的に回復し、魔法文明が栄える以前より豊富なほどだった。
 魔法文明を失った人々に対し、魔法術式が体に刻まれマナを活用する生き物……モンスターとか魔物と呼ばれている生き物たちはかつての力を取り戻す。
 新たにマナを活用できるように進化した生き物もいそうだな。ペネロペが知らないモンスターだったら過去におらず2000年の間に生まれたモンスターの可能性が高い。
 豊富なマナを活用するモンスターと魔法文明を失った人々では圧倒的にモンスター側が優位である。
「精霊術とか古代魔法というものはなかったの?」
「精霊術……は聞いたことがないが、魔力を活用する者は少数ながらいた。ただ、ケンイチ殿の言う魔法陣を使った魔法ではないがね」
「その魔力を活用する術でモンスターを撃退できなかったのかな?」
「それなりのモンスターまでであれば、魔法を使うことで撃退することも可能だった。しかし、それなり、までだ」
 そう言ってラージャは苦虫を嚙み潰したように悔し気な顔になった。
 彼女たちは魔力に頼らず剣と弓でモンスターに対抗していたのだという。熟練者となれば雷獣を倒せるくらいというのだから、俺たちの時代に比べ剣と弓を扱う技術が各段に向上していたと分かる。しかし、ここに来るまでに会ったレベルのモンスターとなると人の力ではどうもこうもできなかった。
 そこで編み出されたのが魔力を活用する術である。アーツと呼ばれるそれは、空気中のマナを取り込み身体能力を強化したり、剣や弓に魔力を乗せ切れ味を鋭くしたり、と精霊術とは全くことなる系統の魔法だった。魔法陣魔術でも身体能力強化や武器へのエンチャントがある。ただ術式を組まないので消費する魔力量に比べて効果の効率は良くない。豊富なマナがあるので、魔力効率の悪さは目をつぶっても問題ないってところか。
 マナを活用する手段を得た人々であったが、活用範囲が限定的であったため強力になったモンスターに苦戦していた。
「そこで発想の転換だ。一か所に強大なモンスターを集めてしまえばいい。それも、向こうから集まってくるように仕掛ければいいとね」
「棺の意思はモンスターにも伝わる、からか」
「いかにも。『魔の儀』は魔物たちに実力勝負の場を提供する意思を込めた。1000年後も人々が暮らせているということはそれなりにうまくいっていたのだろう」
「そうだな、天の山にあるアーティファクトは未だに手がついていないと街で聞いたよ。次々にモンスターが実力を測るために挑んでくるからな」
 棺の魔道具の能力については口伝によって彼女らの村にも伝わっていたのだという。
 協議の結果、ラージャの天の山一帯へ武道大会的な意思を伝えることで、モンスターたちにも実力を測る場として刷り込み、天の山一帯に人々が対抗できないモンスターを集めることを狙った。
 結果、彼女らの計画はうまくいき、1000年後の今には街がいくつもできるほどまで発展している。
「街があるのはよいことだ」
「だな。一部の腕に自信のある奴らがここに挑んで敗走しているみたいだけどね」
「腕試し、はしたくなるものだ。致し方あるまい」
「ははは」
 バトルジャンキーたちの気持ちは一生分からないかもしれない、と思いながら苦笑いを返す。 
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