修理屋の俺は穴掘りとごみ拾いで快適な生活を目指そうと思う~気が付いたら文明崩壊後のファンタジー世界だった件~

うみ

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第30話 大丈夫、はいてます

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 石材を魔法で強化した建物だったからか、落ちた時の衝撃で割れたところ以外は劣化もなく綺麗なものだった。
 これなら魔道具も残っているかもと、室内の物色を始める。タンスの扉を開けてみたら中は泥だらけだった。 
 泥は繊維が腐ったものなのかなあ。長い年月の間に扉の隙間から埃……じゃないか砂粒やらが入って中が泥だらけになっているのかも。
 泥をそっと払ってみたら舞うわ舞うわで、視界が真っ暗になるほどだった。
「うっぷ」
 どういう原理なのか分からないが、ブリージングの魔法は水中でも喋ることができる。声も普通に聞こえるときたものだから不思議なものだ。
 もちろん何故とかは……以下略。何度目だよこれ。
 ふう、ようやく泥がおちついてきたぞ。
「お」
 泥が払われたタンスには形を保ったままの服がいくつもあるではないか。ハンガーにかかっているものや引き出しの中に入っているシャツや下着類。結構残っているな。ひょっとしたら全部無事で外から入った泥を被っていただけなのかも。
「いや、違うか。天然繊維のものは死んでるとみていいか」
 魔法文明由来の繊維のものか、縫製した後の工程で魔法的付与を行った製品――コート類とかも無事っぽい。
 男物のものもあるかなあ。このタンスは全て女性ものだけだった。いくつか持ち帰ってペネロペとラージャに使うか聞いてみよう。
『それ持って行かないのかモ?』
「これはいいかなって」
 女性用下着はさすがにやめておこうと。いや、パンツなら持って帰ってもいいか。ブラはペネロペにツンツンされそうだもの。
 主にサイズで。
 いや、俺はさ。スレンダーの方が好みなんだよ。決してこのようなカップの大きいものがいいわけじゃあない。
 ゾクリと背中に寒いものを感じ、これ以上考えるのをやめた。
「他にもタンスがないか探そう」
 魔道具探しはどこへやら、タンス漁りを始める俺であった。
 あるわあるわ、タンスがよお。
「よおし、見つけたぞ!」
 ついに見つけた。男物の下着と水着を!
 繰り返しになるが、湖に入る前に全裸になった。パンツ一丁で湖に入ってもよかったのだけど、替えの下着が一着しかないもので躊躇しちゃったんだよね。
 魔道車に積み込んだ服なんて最低限だったからなあ。狭い魔道車は積載量が限られている。人のいない場所へ行くつもりじゃなかったし、必要あれば買えばいいだけのつもりだったからね。出稼ぎに来ているからお金も入る想定だったもの。
「この水着……ひどいデザインだな……」
 青地に黄色い星が散りばめられた派手派手なデザインである。ビキニパンツじゃないのがせめてもの救いか。
 裾の長さは膝上くらい。サイズ的には俺に合いそうだ。
 んではさっそく。洗濯していないとかしているとか2000年経過しているし、どっちでもいい。
 今はすっぽんぽんを避けることが先決である。後で洗濯したらいいさ。
 よいせっと派手派手水着を装着する。うん、サイズ感は思った通りばっちりだぞ。
 パンツも持って帰ろうっと。
「洗濯か……洗濯の魔道具はないかなあ」
 我ながら短絡的であるが生活魔道具を探すのは第一目標だったので、軌道修正されたというのが正確なところだ。
 工作機械……じゃない、工作型の魔道具とかもないかな。家を自作するには無手じゃ厳しい。素人施行であっても、せめて大工道具くらいはないとねえ。
 残念ながら、この建物の中には生活系の魔道具が全然なかった。隣の建物を見に行ってみるか。
 探索すること凡そ1時間ほどで、初の生活魔道具を発見した。
 洗濯機、コンロ、冷蔵庫などなど。全て泥をかぶっていて、見つけた時は魔道具なのかどうかも分からなかったのだが、泥をどけてみたらお宝ざっくざくってやつである。
 持って帰るとなれば手で運ぶしかないよな。工作機械なんて持ってないし。手伝ってくれる人は……。
『モ』
 うん、小さなマーモットに頼るのは無理ってもんだ。なんかしらんが、今度は桃のような果実を食べている。
 水中にあんな果物って生えているものなのだっけ? いやいや、絶対にない。
 ……ないよな? マナが豊富になった今なら水の中でも桃が育つのかもしれん。
「なるべく傷をつけないように持って帰りたい」
 障害物に当たらないように持っていくにはもう一人に見ていてもらう方が確実だ。マーモに見ていてもらうのは難しいと判断した。
 いっそ建物の壁やら瓦礫やらを取り除いた後に運ぶってのも手か。
 運ぶ時、重さは問題じゃないんだよね。重量軽減の魔法陣魔法をかけて、自分に筋力強化をすればいい。
 ただ、重量軽減をすると材質変化で鉄のように固くできなくなってしまう。
 といっても、2000年の経年劣化に耐えた魔道具がそうそう壊れそうにはないんだけど、ぶつけたらあっさりってこともあるから慎重なのだ。
「仕方ない、いったん帰るとしよう」
 
 湖から顔を出すと、二人は既に戻ってきているようでペネロペがこちらに手を振っていた。
 腰ほどの深さまで出てきたところでペネロペから待ったが入る。
「それ以上進まないでください」
「何か危険があるの……?」
 とんと予想がつかないぞ。
 首をかしげていると、ペネロペが枝を掴みそれを掲げた。枝の先には俺のはいていたパンツが引っかかっているではないか。
 いくらなんでもその持ち方はひどくねえか。
「大丈夫、はいてます」
「はくものがないじゃないですか」
 往年の名セリフを返すものの、この世界のネタじゃないのでペネロペに通じるわけもなく。
 まあいいや、進もうっと。
「それ以上進むなら、脱ぎますよ」
「なんでそうなるんだよ!」
「いいんですか?」
「俺は構わないけど、い、いや、困る、困るよ、うん。だけど、本当にはいているんだって。こいつを見てくれ」
 ごそごそと拾ったパンツを取り出し、掲げる。
「はいているんですか?」
「そうだよ、分かってくれたか」
「マスターにそのような趣味があったとは」
「え? いや、あ、間違えた。こっち」
 まさかの女性もののパンツを出してしまっていた。
 男用のパンツを出して、再度掲げるとようやくペネロペも納得してくれた様子。
 ふう、まさかのハプニングで 俺に変な趣味があると思われるところだったぜ。
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