修理屋の俺は穴掘りとごみ拾いで快適な生活を目指そうと思う~気が付いたら文明崩壊後のファンタジー世界だった件~

うみ

文字の大きさ
32 / 40

第32話 やはり筋力が全てを解決する

しおりを挟む
 ペネロペの水着はクリーム色に白の花柄で派手派手ではない。普通のデザインがあるなら俺のも派手じゃないのが良かったよ。
「どうされました?」
「可愛いなと思ってね」
「……お世辞はいいですから、はじめましょう」
「待ってブリージングをかけないと」
 ツンとそっぽを向き湖へ踏み入れる彼女に待ったをかける。
 さすがの彼女でも水中で呼吸できるわけじゃないからね。立ち止まった彼女の後ろからブリージングの魔法陣魔法をかけ、ついでに俺にも。

 湖の中に入ってからは俺が先導する。水中って三次元的に動けるから地上より迷いそうだな、と思うかもしれない。俺だけかもしれないが、地上より水中の方が迷い辛いんだよね。水中じゃ空と比べて視界の良さが天と地ほども違うけど、空を飛んで地上を確認できるような、そんな感じだからかも。
 目的地まで迷うこともなく真っすぐ進む。
「こっちだ。瓦礫も多いから気をつけて」
「壁や床材も使えそうですね。運び出しますか?」
「家づくりに使えそうかな?」
「モノによって使えるかもしれません。使えないモノは道の建材にしてもよいのではないでしょうか」
 確かに。大きいものは砕いて敷き詰めれば、石畳の道にできそうだよな。舗装された道の方が物を運ぶにもよいし。最優先というわけではないけど、雨の日にぬかるむこともなく、靴も汚れない。屋外で料理をすることもあるし、家の周りは舗装したいところだ。
「この建物の中に洗濯機がある」
「民家のようですね」
「店には見えないよな」
「そうですね。お店やガレージも時間があれば探したいですね」
「だなあ。昨日はこの辺りまでしかきてないんだ。崖の下辺りは可能性が高いと思ってる」
 崩れ落ちてきたなら、ちょうど斜面の下辺りには建物が積み重なっているんじゃないかと思うんだよね。何層にもなっていると上から瓦礫を取り除かなきゃ探索できないかもしれないけど。
「ここだ」
「浴槽やキッチン周りも運び出したいです」
「使えそうか見るよ。水栓が無事ならそれだけでも」
「その間に私は壁や瓦礫の処理をはじめます」
 昨日は探索メインで魔道具そのものの状態をつぶさに見てはいなかった。例外は冷蔵庫と洗濯機だけ。この二つは修理すればなんとかなりそうと見込みをつけた。
 シンク周りはどうかな? 水を引き込む水栓が無事なら生活がグンと楽になる。魔道車にもついているはついてるのだがアウトドア用の小さなもので、水がちょろちょろしかでないし、お湯もでない。
「お、無事そうだな。次は風呂を」
 風呂場の方はダメだった。浴槽も粉々で修復は無理そう。風呂場なら昨日探索した中にあったので、後で行くか。
 ゴゴゴゴゴ。
 さっきから地響きがあるのだが、水中だから轟音もない。きっとペネロペが派手にやってるんだろうなあ。敢えて言わなかったけど、重量軽減の魔法陣魔法は使っていない。彼女が自分で筋力強化をかけているかも?
 ……使っているって言ってた時も筋力強化なんぞせず素のままだよな、きっと。恐ろしいから突っ込むのは無しで。
「うお」
 天井が無くなった。ペネロペが屋根を掴んで動かしたんだろうな。
 屋根はペネロペが両手で掴み掲げている。ニコリともせずこちらを見下ろす彼女に背筋がぞぞっときた。
「マスター」
「や、屋根を外すのは良いアイデアだよ」
 屋根がなければそのまま上に持ち上げ岸まで持っていくことができる。びっくりしたけど、彼女はちゃんと考えて最も効率のよい方法で道を確保してくれたのだ。
 一方の彼女は無表情で首をかしげた尋ねてくる。
「どこに置きましょうか、これ」
「そっとおろせばいいんじゃ」
「そっと投げてもいいのでは?」
「待て! 湖の外まで飛んでいきそうだから!」
 ペネロペの筋力でそっとでも投げたら、岸まで飛んでものすごい轟音とともに地面に激突するにちがいない。万が一、ラージャに当たったらただじゃあすまんぞ。
 魔道車にぶつかったら粉々になるだろうし、ダメ、絶対。
 俺の説得に彼女は「仕方ないですね」とつぶやき、家の外へぽいっと落とす。
 なんか地面が揺れたが気のせいだ。気のせいだ。
「何か?」
「何でもない。気のせいだからな。運ぼう」
 まずは洗濯機から始めようか。
 使えそうな生活型魔道具をはじめ、家具類に加え、細かいものも忘れず運び出した。
 細かいものというのは魔石とか道具類だな。修理道具なら一式持っているけど、魔線とか細かいパーツは数に限りがある。
 日用品や古来から使われているノコギリなどの大工道具は魔道具でなくとも、使う場面が多いだろうからね。
 
「こんなもんか。明日も運び出しをしたいな」
「繊細なものでなければ私一人でも運び出せます。マスターは修理に取り掛かった方が効率がよいのでは?」
 満足し大きく頷きながら戦利品を眺め悦に浸っていると、ペネロペが分業を申し出てくれた。
 正直なところ、面倒ではあるが魔力が即回復する環境なので魔法陣魔法を使えば生活型魔道具の多くは再現できる。
 といっても、できなくはないが人の手じゃ難しいものだってあるんだ。
 その代表が冷蔵庫である。食材の傍に立って冷やし続けるとか常人には無理だよ。気合と根性で食材の前に張り付いたとしても、他のことができなくなってしまう。
「ありがとう、もし工作型魔道具があれば持ってこれそうなら持ってきてほしい」
「他にございますか?」
「折れたりしないようにしたいから、どこに何があるのか教えて欲しい。他は瓦礫でもついでに」
「畏まりました。ノートを使ってもいいですか?」
「もちろん」
 ノートとかペンもあれば欲しいところだが、ペンはともかくノートは水中じゃあどうしようもないよな。
 魔法的な加工がされていない日用品はボロボロになって使えなくなっている可能性も高い。発掘するなら崖の方にした方がよさそうだ。
 横穴の中なら風雨にさらされていないから保存状態がいいかもしれない。
 その後、採集から戻ってきたラージャに大層驚かれた。戦利品の数が彼女の予想した量の10倍くらいだったそうで……。
 力こそパワーでガンガン運んだからな!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

処理中です...