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一章
⑧
しおりを挟む誰も見ていないのをいいことに、ディアンヌはピーターを抱きしめてすりすりと頬擦りする。
ピーターの涙がピタリと止まった。
嫌がりつつも、嬉しそうなピーターに思わず本音が漏れる。
「や、やめてよ」
「かわいすぎる……!」
デレデレのディアンヌは体を離して、今度は頭を撫でる。
「ピーターは天使みたいね!」
「……っ!」
ピーターはディアンヌの言葉を聞くと、ピタリと大人しくなる。
そのままピーターを愛でていると、遠くから女性の焦った声がした。
「ピーター様っ、ピーターさまぁ!」
侍女服を着ている四十代くらいの女性がこちらにやってくる。
そしてディアンヌに頭を撫でられているピーターを見て、目を見開いた。
「エヴァ……!」
ピーターはディアンヌから離れると、エヴァと呼ばれた女性の元へと走っていく。
どうやら女性はピーターを探していたようだ。
エヴァは心底安心したという様子で、ピーターを抱きしめている。
「よかった……!」
ディアンヌはホッと息を吐き出して、横に置いてあったハイヒールを履いた。
二人にパーティーに戻るために声をかける。
「失礼します!」
「あっ……待ってください。お名前をっ!」
急がなければパーティーが終わってしまう。
エヴァが呼び止める声も聞こえることなく、ディアンヌは走り出す。
今度は転ばないようにとドレスの裾を持ち上げてハイヒールで痛む足を必死に動かしながら会場に戻る。
パーティー会場は先ほどよりも人で溢れている。
ひとまずパーティーが終わっていないことに、ディアンヌは安堵していた。
なんとか会場に戻り、壁の端に移動しようとするが、先ほど転んだ影響かディアンヌはすっかり注目の的になってしまったようだ。
盛大に転んで医務室に運ばれたとなればそうなるのも当然だろう。
それにこのパーティーでは親しげな男女が共に参加しているような気がするが、気のせいだろうか。
居心地の悪い視線を感じながら、会場の端へと移動しようとした時だった。
「あーら、本当に来たのねぇ!」
「……シャーリー?」
シャーリーは豪華なドレスを纏いながら、こちらにやってくる。
もう二組、令嬢と令息が彼女の背後に続いて立っていた。
シャーリーの隣にはライトグリーンの髪にブラウンの瞳を持った端正な顔立ちの令息がいる。
侯爵家の令息、ジェルマン・ラバードだった。
学園では端正な顔立ちをしており、かなりモテていた令息だ。
そんなジェルマンはシャーリーの婚約者のようだ。
そしてディアンヌを取り囲むようにして笑っている。
「素晴らしいパーティーに田舎から出てきた貧乏男爵令嬢が一人でいるなんて信じられない……!」
シャーリーの嫌味にいつもなら笑って誤魔化すディアンヌだが、記憶が戻った後ではそうはできない。
「そんな言い方……ひどいわ」
ディアンヌが反発したことが珍しかったのか、シャーリーのエメラルドグリーンの瞳がわずかに見開かれる。
そして、ディアンヌにグッと顔を近づけて唇を歪めた。
「あら、実際そうじゃない? 貧乏令嬢だもの。この場には分不相応よ!」
そう言った後にシャーリーはディアンヌの耳元であることを告げる。
「このパーティーはね、余程の理由がない限りはパートナーと参加するものなの!」
「……ッ!?」
「こーんなに露出度の高いドレスを着て、必死に結婚相手を探そうとするなんて……最低な女ね」
「…………騙したのね」
「あら、なんのこと? あなたがわたしの招待状を奪って勝手にパーティーに来たんでしょう?」
衝撃の理由にディアンヌは目を見開いた。
つまりシャーリーは始めからディアンヌを貶めるつもりで露出度の高いドレスを貸したのだ。
そして結婚相手を探していることを知りながら、誰かと同伴で参加するべきパーティーに参加させて、ディアンヌに恥をかかせようとしている。
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