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二章
①⑨
しおりを挟む安心感か疲れからか、ディアンヌはホッと息を吐き出す。
扉が開くと豪華な部屋に通されて驚いていた。
「ディアンヌ嬢、すぐに医師がくる。もう少しだけ待っていてくれ」
「……ありがとうございます」
すぐに医師がやってきて、ディアンヌの足の状況を見て顔を歪めている。
消毒と薬を塗って、丁寧に包帯を巻いてくれた。
右足は捻挫してパンパンに腫れ上がっている。
ハイヒールが触れていた部分や足先も擦れて傷が悪化し、ひどいことになっていたそうだ。
そして一週間ほどは安静にするようにと言われてしまう。
それほどまでにハイヒールで無理した代償は大きかったようだ。
包帯が巻かれた痛々しい足を見ながら、ディアンヌは溜め息を吐いていた。
リュドヴィックは手当てをしている間にピーターの様子を見てくると部屋から出ていく。
医師も包帯が足りないからと、部屋から出ていくとカトリーヌと二人きりになってしまう。
気まずいと思う暇もなく、カトリーヌはディアンヌの前に立つ。
「娼婦のくせにリュド様に近づくなんて、なんて身の程知らずなのかしら……!」
こちらを見下しているカトリーヌと、シャーリーの姿が重なったような気がした。
グッと顔を近づけられて、ディアンヌはその勢いに仰け反ってしまう。
「あのクソガキに近づいて、リュド様に擦り寄ろうと考えたのね。なんて卑怯なのかしら……リュド様に相応しいのはわたくししかいないの!」
「……!」
クソガキとはピーターのことではないだろうか。
カトリーヌは早口でディアンヌを責め続ける。
「リュドヴィック様なんて、誰が名前を呼ぶことを許可したのよ! あなたみたいな下賎な女がリュド様の名前を呼ばないでちょうだい」
「あの……」
「こんなズル賢いなんて、さすが娼婦ね。なりふり構っていられないということかしら。最低のクズよ! このクズッ!」
当たり前だが、カトリーヌはディアンヌとリュドヴィックの出会いを知らない。
どうやらピーターに近づいて、ディアンヌはリュドヴィックを狙って屋敷に忍び込んだと思われてしまったらしい。
(すごい言われようだわ。わたしが一応貴族だなんて夢にも思っていないんでしょうね……)
カトリーヌはディアンヌが言い返す間もなく、唾を吐き散らしながら罵っている。
しかし、ディアンヌはポジティブだった。
(娼婦と言われようと、どう思われても、家族を守るためにがんばらないと……!)
医師が帰ってきたことで、カトリーヌは「心配ですわねぇ」と言いながら笑顔でディアンヌから離れた。
どうやらリュドヴィックや男性の前では可愛らしい姿でいるようだ。
医師も親しげにカトリーヌと話している。
「リュドヴィック様にもこのカトリーヌがなんでもお手伝いしますからと、伝えといてください」
目的は医師に好かれてリュドヴィックの好感度を上げることのようだ。
(カトリーヌさんはリュドヴィック様を振り向かせたいのね)
侍女ではあるが、ライトブラウンの髪は艶やかで入念に整えられている。
カトリーヌの外見や態度を見ていると、まるで貴族の令嬢だ。
しかし今はリュドヴィックがディアンヌを気遣っているため何もできないのだろう。
医師の荷物を持ったカトリーヌは「少々お待ちくださいね、ディアンヌ様」と言いつつも、血走った目でこちらを睨みつけて部屋を去っていく。
カトリーヌではない侍女が代わりに入ってきたことで、ディアンヌはホッと息を吐き出した。
(貴族の世界って……大変だわ)
他の侍女たちはディアンヌの体や髪を丁寧に綺麗にしてくれた。
カトリーヌとは違い、ディアンヌに特に敵意はないようだ。
しかし好意もないらしい。
居心地の悪さを感じていると、リュドヴィックが執事と共に部屋に戻ってくる。
ピーターはぐっすりと眠っているそうだ。
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