11 / 24
第二章 白いユリ
①① ごめんなさい
しおりを挟む「誰にも相談できないし、旧校舎に来たのだって、みんなにすごいって言ってもらいたくて……! たくさん話しかけてもらいたかっただけなのにっ」
どうやら凛々ちゃんはクラスが離れてしまい、今のクラスに馴染めないことで悪口を言い始めたみたい。
けれど最初は興味津々だったクラスメイトたちも離れていって結局、一人ぼっちになってしまう。
友達関係がうまくいかずにイライラして周りに冷たくなってしまったのだと泣きながら話している。
旧校舎に行ったのも、みんなに話しかけて欲しかったから……。
凛々ちゃんの本当の気持ちを知ったら胸がズキズキと痛くなった。
『これはあなたの心の色よ……それを捨てていいの?』
「……心の色って、どういうこと?」
『悪いことは自分に返ってきてしまう。それは悪口も同じ。悪口は〝呪い〟のようにあなたの心を蝕んでいくわ』
花子さんの話と黒ユリの花言葉が繋がったような気がした。
悪口を言ったあとはなんだかモヤモヤする。
そのモヤモヤで最初は人が集まったとしても、そのうち離れていってしまう。
『この子と話したら、私も悪口を言われるかもしれない』
そう思うと、本当の自分を出せなくなってしまうのだ。
凛々ちゃんも友だちと離れた寂しさから、そんな状況なのだろう。
わたしが凛々ちゃんのために何ができるだろうか。
そう考えて居ても立っても居られなくなる。
わたしは勢いよく扉を開いた。
「あのっ、凛々ちゃん……!」
「……きゃああ!」
凛々ちゃんはいきなり出てきたわたしに驚いて、壁に張り付くようにして驚いている。
「な、なんであなたがここにいるのよ!?」
「驚かせてごめんね! 凛々ちゃんが今日、ここに来るんじゃないかと思って……」
「今の話、もしかして全部聞いていたの?」
凛々ちゃんの言葉にわたしは静かに頷いた。
「信じられない……! 盗み聞きするなんてっ」
「そんなつもりじゃないの!」
凛々ちゃんは怒っているのか顔を真っ赤にしている。
今のことを聞かれるのが嫌だったみたい。
「盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど……ごめんなさいっ」
わたしは頭を下げて凛々ちゃんに謝った。
けれど凛々ちゃんの気持ちは収まらないみたい。
「ふざけないでっ! わたしのことバカにするつもりなんでしょう?」
「そんなことしないよ!」
「嘘よっ、私だって気付いてた。みんな私に隠れて悪口を言っているんでしょ?」
「そんなことないよ!」
「もう嫌っ、みんな大っ嫌い!」
「……凛々ちゃん、聞いて」
わたしは凛々ちゃんに伝えたいことがあるのに、伝えられないことにもどかしさを感じていた。
すると、今までずっと黙っていた花子さんが凛々ちゃんの前に出る。
『そのうるさい口を今すぐに閉じなさい』
「ひっ……!」
『これ以上、小春を傷つけないで。ワタシが小春にここにいてもらったんだから』
「……花子さん」
花子さんの言葉にじんわりと胸が温かくなる。
『それよりも、あなたはどうなるのかしら』
花子さんの反対側の手には、先ほどよりも明らかに真っ黒になったユリがあった。
それは今にも腐って枯れ落ちそうになっていた。
凛々ちゃんは花子さんの言葉に怯えているように見える。
わたしには花子さんの顔はみえないけれど、凛々ちゃんの顔は、こわばっている。
その後、膝をついて頭を抱えてしまった。
「花子さん、やめて……!」
『……小春っ!』
わたしは思わず花子さんに後ろから抱きついた。
ひんやりと氷みたいに冷たかったけど、わたしは花子さんを止めようと必死だった。
花子さんが黒いユリを離したことで、凛々ちゃんは涙で濡れた顔を上げた。
凛々ちゃんと目が合ったわたしは口を開いた。
わたしは、凛々ちゃんには前を向いて欲しいと思ったからだ。
「凛々ちゃん、わたしと友達になろう!」
「……え?」
「わたしがいたら、凛々ちゃんはもう寂しくないよね?」
「なっ……」
「休み時間、会いにいくからたくさんおしゃべりしよう!」
「……!」
「凛々ちゃんのこと、たくさん教えてね」
凛々ちゃんの目から涙が次々と溢れていく。
そして目の前で枯れかけている黒いユリを拾い上げて抱きしめた。
そして凛々ちゃんは声を絞り出すようにして言った。
「ごめん、なさい……」
「……え?」
「あんなこと言って、ごめんなさいっ!」
凛々ちゃんの涙がポロポロと黒いユリに落ちていく。
すると涙が触れた部分から、どんどんと白色が広がっていく。
あっという間に黒いユリは白いユリに変化してしまった。
「本当はみんなと仲良くしたいっ! 悪口を言って、傷つけてごめんなさい」
「……凛々ちゃん」
「小春ちゃんも……ごめんねっ」
わたしは腕を広げて、背中を丸めている凛々ちゃんを抱きしめた。
気持ちが伝わってよかったと、そう思った。
凛々ちゃんはその後も泣きながら「ごめんなさい」と言っていた。
21
あなたにおすすめの小説
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
稀代の悪女は死してなお
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる