【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
18 / 24
第三章 青紫色のアジサイ(前編)

①⑧ 離れてしまった距離

しおりを挟む

──次の日

雨は止んだけど、空はどんよりと雲に覆われている。
今朝、お母さんが洗濯ものが乾かないと残念そうだった。
わたしもお日様が恋しいと思った。
昨日の大雨のせいで、地面はぬかるんでいつま歩きにくい。
午後からはまた雨が降るみたいで、傘を持っていた。
歩きながら夏希ちゃんに花子さんと冬馬くんのことを話す。

「えっ! 冬馬が花子さんからアジサイをもらったの!?」

夏希ちゃんの大声に驚きつつも、わたしは頷いた。
青紫の綺麗なアジサイは冬馬くんの手に握られている。

「そうなの。願いを叶えるためって言っていたけど……」
「なんか凛々の時と同じだね。でもさ、冬馬の願いってなんだろう」

夏希ちゃんが珍しく考えこんでいる。

「またアジサイの花言葉に関係があるのかな?」
「うーん……でも昨日、小春が言っていたアジサイの花言葉って、あんまりよくなかったよね?」
「……うん」
「また色が変わったりするのかな? 花子さん、何か言ってた?」
「ううん、特には。きっかけをあげるみたい」
「お金も取らないし、願いを叶えるって言うし……花子さんって、一体何をしたいんだろうね」

夏希ちゃんの言葉に頷いた。
花子さんが何をしたいのか、わからないままだ。
もうすぐ小学校に着くという時だった。
門の前にいたのは秋斗くんだ。
いつもなら教室にいるはずなのに、どうしたんだろうと思いつつも、わたしは挨拶をする。

「秋斗くん、おはよう!」
「……はよ」

秋斗くんは、そっけない返事をする。
夏希ちゃんは「挨拶くらい愛想よくしなさいよ!」と言って怒っている。
わたしは苦笑いしながら、夏希ちゃんをなだめていた。
そして秋斗くんの横を通りすぎた時だった。

「待てよ!」
「……わっ!」

いきなり秋斗くんに手首を掴まれて、わたしは驚いてしまう。
振り返ると、なんだか秋斗くんは怒っているみたい。

「ど、どうしたの? 秋斗くん」
「話したいことがある」
「え……?」
「ちょっとこっちに来いよ!」
「まっ、待って!」
「ちょっと待ちなさいよ、秋斗……! 小春が困っているでしょう?」
「うるさい」

秋斗くんに乱暴に腕を引かれて、びっくりしつつも前に進もうとした時だった。

「秋斗、やめろ」

後ろから聞こえたのは、紺色の傘と黒いランドセルを背負った冬馬くんだった。
冬馬くんは秋斗くんの手を掴んで首を横に振る。

「冬馬くん……!」
「秋斗、小春が痛がってる」
「……っ!」

秋斗くんが腕を掴んでいた手を離すと、肌が赤くなっていた。
それを見た秋斗くんは驚いたみたいに目を大きく見開いている。
夏希ちゃんが「うわぁ、痛そう……大丈夫?」と、わたしに声をかけてくれた。
わたしが頷いたのを見て、冬馬くんも心配そうにしている。

「大丈夫だよ」
「……なら、よかった」

そう言った冬馬くんを秋斗くんは思いきり睨みつける。
冬馬くんも秋斗くんの視線に気がついたのか、厳しい視線を送っている。
睨み合う二人をハラハラした気持ちで見ていた。

「秋斗くん、冬馬くん……!」
「こんなところで喧嘩しないでよねっ」

すると、秋斗くんがフンッと顔を背けたことで睨み合いは終わった。
一瞬だけ秋斗くんと目が合ったような気がした。
わたしは、秋斗くんが何か聞きたいことがあったのかもしれないと思った。
結局、何も言わないまま校舎の中に入っていく秋斗くんを見ていた。

「……秋斗」

冬馬くんがぽそりと呟くように言った言葉が気になった。
なんだか寂しそうに思えたからだ。
そのまま三人で教室に向かう。

「小春、大丈夫? アイツ、信じられない!」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、冬馬くん。夏希ちゃん」
「それにしても秋斗、どうしちゃったんだろう」
「……」

夏希ちゃんは秋斗くんの態度に怒っていたし、冬馬くんは何も言わなかった。

教室に入ってしばらくすると、先生が教室に入ってきて朝の会が始まる。
そのあとは国語の授業だ。
先生がパチパチと黒板に漢字を書いている間、わたしは考えていた。

そういえばいつからなんだろうか。
冬馬くんと秋斗くんが一緒に登校しなくなったのは。
あんなに仲良しだった冬馬くんと秋斗くんが、最近一緒にいる姿をまったく見かけなくなった。
放課後も秋斗くんは同じクラスの子と校庭でサッカーをして遊んでいるみたい。
前までは冬馬くんは本を読んでいて、秋斗くんはリフティングしながら楽しそうに話していたんだ。
二人の距離が知らないうちに離れでしまったみたい。
何があったのかわたしにはわからない。
けれどなんだかとても寂しく感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

処理中です...