【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●

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第四章 青紫色のアジサイ(後半)

②③ 色が動く花

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秋斗くんは気まずそうに頭をかいた後に、冬馬くんの言葉に頷いた。
夏希ちゃんはポンと手のひらを叩く。
この時間は秋斗くんたちのパン屋さんは忙しい時間だ。
わたしは冬馬くんが秋斗くんのことをよくわかっているのだと思った。

「それで……何の用だよ」

秋斗くんはじっとりと冬馬くんを見ている。
冬馬くんはアジサイをわたしに渡す。
そして秋斗くんの前へ。

「秋斗、僕は君と仲良くなりたい」
「…………は?」

秋斗くんはポカンと口を開いて冬馬くんを見ている。

「いきなり意味わかんねぇ、何言ってるんだよ!」
「だが秋斗は、僕のことを嫌っているんだろう?」
「何を言ってるんだよ。俺を嫌いなのはお前だろう?」
「そんなわけない。僕は秋斗が好きだ」
「……は? な、なに言って」

二人は混乱しているのか、混乱した様子だ。

「ちょっと待ってくれよ! 冬馬の方が俺が嫌いなんだろ?」
「秋斗こそ何を言っているんだ。嫌いなわけないじゃないか。君こそ僕が嫌いで避けてたんじゃないのか?」
「なっ……! そんなわけないだろうが」

二人の言い争いは激しくなっていく。
夏希ちゃんと目を合わせて戸惑っていた。
わたしが手元にあるアジサイを見る。
手元のアジサイは色が青と紫がグルリと混ざり合っていくのが見えた。

「花子さんにもらったアジサイが……」
「うわぁ……! なんか色が混じっている!」

夏希ちゃんが隣で驚いているように見えた。
冬馬くんと秋斗くんはどちらが先に嫌ったのかと話している。
二人は、どちらが先に嫌ったのかと話している。
しかし話を聞いていると、お互いを好いているように聞こえていた。
どちらが先に嫌ったのか、勘違いしているように見える。
そして互いを好いていることも……。
わたしは二人の間に入って引き離す。

「二人とも、落ち着こう?」
「小春……」
「……小春?」
「とりあえず、ゆっくりと話し合おうよ!」

二人を落ち着かせようとするが、秋斗くんはわたしが持っているアジサイに夢中になっている。
秋斗くんはアジサイに気づいて指をさしていた。

「なっ、なっ……! この花、色が動いてる! 色が変わっているじゃねぇか!?」
「……これは」
「説明しろっ!」

わたしたちはベンチを座った。
そこで秋斗くんは持っていた白い袋からパンを出した。
それから秋斗くんはみんなにパンを配っていく。

「ありがとう、秋斗くん」
「……おう」
「なつかし~! よくみんなで秋斗っちのパン食べたよね」
「ほんと、なつかしいね!」

パンを食べながら、久しぶりに四人で話していた。
秋斗くんはアジサイを見てギョッとしている。
わたしは今はアジサイのことよりも

「秋斗くんと冬馬くん、お互いに勘違いしているみたいまひ話し合おうよ」
「話し合うって……なぁ?」
「秋斗が僕を嫌って……」
「嫌っているわけないだろう? 冬馬こそ、俺を避けてた!」
「避けているわけない」

二人の会話は同じことの繰り返しになっている。
夏希ちゃんがパンを食べ終わってから声を上げた。

「あのさ、二人とも嫌ってないじゃん! なんでそんなこと言ってんの?」
「そうだよ! なんだか二人ともすれ違ってる気がする」
「勘違いしているみたいだし、よく話しなさいよっ」

夏希ちゃんは食べきったパンの袋を白い袋にしまう。
それから腰に手を当てて二人に話し合うように言っている。
互いをチラリと見た二人は、今度は落ち着いて話しはじめた。

冬馬くんは、サッカーしている秋斗くんと友だちとの仲を邪魔したくないのがきっかけだったみたい。
秋斗くんも冬馬くんがあまり自分に話しかけてこなくなり、避けられていると感じた。

つまり、冬馬くんは秋斗くんのことを想って遠慮していた。
秋斗くんは冬馬くんの態度を勘違いして嫌われてしまったと思ってしまったようだ。
そして冬馬くんを避けるようになった秋斗くんを見て、嫌われたと思った冬馬くん。

「つまり、二人で気をつかってすれ違っていただけってこと?」
「うん……夏希ちゃんの言う通りみたいだね」

夏希ちゃんとわたしがそう言うと、冬馬くんと秋斗くんは目を合わせて驚いている。

「嘘だろう……? まさかこんなことが起こるなんて」
「互いになんでもわかると思ってたけど……」

二人は見つめ合っていたけど、次第に肩を揺らし始める。
そのまま笑い出してしまった。

「あははっ、信じられねぇ!」
「おかしいな」

二人は声を上げて笑っている。
夏希ちゃんは「訳がわからない」と、言ってため息を吐いていた。
わたしは秋斗くんと冬馬くんの誤解が解けたことで安心していた。
久しぶりに秋斗くんと話す冬馬くんの顔はとても輝いてみえた。
秋斗くんもとても楽しそうだ。
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