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3.排泄
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それは舞台の上で拘束されてから数時間が経過した頃だった。
既に集められた人たちは解散しているものの、それでも少なくない人影が舞台の周りにあった。
四方から感じる、全身を舐めるような視線。
自分達の街が攻め落とされ、領主の娘が張り付けにされているというのに、好色の笑みを浮かべる男たち。
いったいどうしてそのような振る舞いができるのか、リリーヤには理解できなかった。
しかし、リリーヤが男たちに批判の声を浴びせることはなかった。
そんなことをしたところでなんの意味もない。
時に卑猥な野次を飛ばされながら、それでも黙って晒し者であり続けた。
豊満な乳房をなじり、肉付きの良い臀部を馬鹿にし、可憐な陰裂を言葉で汚そうとも、一切リリーヤは反応しない。
家族を失った恨みをぶつけ、ステークス家を貶めようとも、リリーヤが言葉を発することはない。
ただ、黙して晒されている。
始めのうちは気分良く罵っていた男たちだったが、さすがに何時間も反応がないと興も削がれてくる。
いくら美しい娘の裸体を公然と拝めるとはいえ、いつまでも広場に居続けられる者ばかりではない。
一人、また一人と広場を去っていく男たち。
やがて日が傾き始め、また一人帰ろうとしたそのときだった。
「……すみません」
初め、それが誰の声なのか広場にいた者たちにはわからなかった。
しかし、その声の主がリリーヤだとわかると、しらけていた顔に、喜色が浮かんだ。
なにせ広場に現れてから一度も声を発しなかったリリーヤが、ついに声を出したのだ。
きっと面白いことが起こるに違いない。
男たちは期待に胸を膨らませた。
そしてリリーヤにとっては不幸なことに、男たちの期待は十二分に満たされることとなる。
見張りの兵士が視線でリリーヤに言葉の続きを促した。
その視線を受け、なにか言い淀んだリリーヤだったが、諦めたように口を開いた。
「……どうか一度、厠に連れていっていただけないでしょうか?」
一瞬の静寂。
やがてリリーヤの言葉を理解した男たちは、大きな笑いを上げた。
「ハッハッハッハ! こりゃ傑作だ!
裸を晒しても気丈に振る舞ってたお嬢様も、さすがに出すもん出すところを見られるのは恥ずかしいってか!」
人混みから投げられた言葉に、リリーヤは顔を赤く染めた。
当然、裸体を晒すのだって恥ずかしい。
このまま、死ぬのだって怖い。
だが、それは我慢できた。
亡き家族を思い、ステークス家に残された最後の一人としてどうにか耐えようと思えた。
しかし、だ。
人前で排泄するという行為は、リリーヤにとって一線を越えていた。
領主の娘として、リリーヤは己を磨くことを怠らなかった。
学問や馬術に芸術。
そういった内面的な能力はもちろん、外見についても領主の娘として恥ずかしくないよう手間隙を惜しまず磨いてきた。
リリーヤの外見的な美しさは、産まれ持ったものも当然あるが、それと同等以上の努力の賜物なのだ。
裸体を見せるというのは恥ずかしい。
だが一方で、己の磨き上げた裸体に絶対の自信を持っていた。
シミ一つない白雪のような肌。
陽光をキラキラと反射する黄金の髪。
張りと柔らかさを兼ね備え、垂れのない豊満な乳房。
滑らかな弧を描くくびれ。
肉付きの良い臀部。
スラッと引き締まった四肢。
その全てが努力の結晶である。
裸体を見せるという行為自体を恥じることはあっても、己の裸体自体を恥じる気持ちは一切なかった。
だからこそ、広場で民に裸身を晒されるという辱しめにあっても耐えることができた。
しかし、排泄は違う。
どれだけ肉体を美しく磨き上げようとも、排泄物までは美しくならない。
己の排泄する姿、己の排泄物に自身など持てるはずがない。
それはリリーヤにとって醜いものでしかないのだ。
生物として仕方のない行為だとはいえ、自分でも見たくないようなものを人前に晒すなど到底耐えられるものではなかった。
だからこそ、どれだけ卑猥な言葉を投げ掛けられ、家名を汚されようとも沈黙を貫いてきたリリーヤが声を出したのだ。
己の醜い姿を見ないでくれ、と。
厠で用を足すという、誰もが有する権利。
残酷にも、そんな権利すら今のリリーヤには与えられていない。
「おうおう!
この目でしっかり見ていてやるからよ!
とっとと汚いもんをぶちまけちまいな!」
ギャハハと下品な笑い声が響く。
もう既に限界まで我慢していた。
脂汗が滲み、拘束された脚が世話しなく枷についた鎖を揺らしていた。
そもそも、中腰で股を開いたこの姿勢は、排泄を我慢するにはあまりに辛すぎた。
油断をすれば、たちまち決壊してしまうことは想像に難くない。
厠で用を足したいという最後の頼みも、呆気なく笑い飛ばされた。
リリーヤに残された道は、一時でも長く我慢し、一人でも多くの見学者がいなくなることを願うことだけだった。
しかしそれすらも、リリーヤがこれから晒すだろう醜態をエサに、男たちが人を集めてきたことによって叶わなくなった。
閑散とし始めていた広場には、いつの間にか初めの頃と同じくらいの人が集まっていた。
「おい、尻穴がヒクついてやがる」
「こりゃ、決壊も近そうだな」
「今どんな気持ちなんだ、お嬢様よ!」
男たちが下劣な言葉を投げ掛けるが、リリーヤにそれを言葉として理解するだけの余裕はもうなかった。
一瞬でも油断すれば崩れる。
ピンと張り詰めた糸のように、リリーヤは気力だけでギリギリを耐えていた。
ガタガタ鳴り出す奥歯を無理やり噛みしめ、肛門を引き締める。
美しい顔からは血の気が引き、もう既に限界であるということは、誰の目から見ても明らかだった。
リリーヤが耐えれば耐えるほど、男たちの熱気は高まっていく。
そして、気高いプライドをもってしても、排泄をいつまでも我慢することなどできなかった。
力が抜けてしまえば一瞬だった。
既に集められた人たちは解散しているものの、それでも少なくない人影が舞台の周りにあった。
四方から感じる、全身を舐めるような視線。
自分達の街が攻め落とされ、領主の娘が張り付けにされているというのに、好色の笑みを浮かべる男たち。
いったいどうしてそのような振る舞いができるのか、リリーヤには理解できなかった。
しかし、リリーヤが男たちに批判の声を浴びせることはなかった。
そんなことをしたところでなんの意味もない。
時に卑猥な野次を飛ばされながら、それでも黙って晒し者であり続けた。
豊満な乳房をなじり、肉付きの良い臀部を馬鹿にし、可憐な陰裂を言葉で汚そうとも、一切リリーヤは反応しない。
家族を失った恨みをぶつけ、ステークス家を貶めようとも、リリーヤが言葉を発することはない。
ただ、黙して晒されている。
始めのうちは気分良く罵っていた男たちだったが、さすがに何時間も反応がないと興も削がれてくる。
いくら美しい娘の裸体を公然と拝めるとはいえ、いつまでも広場に居続けられる者ばかりではない。
一人、また一人と広場を去っていく男たち。
やがて日が傾き始め、また一人帰ろうとしたそのときだった。
「……すみません」
初め、それが誰の声なのか広場にいた者たちにはわからなかった。
しかし、その声の主がリリーヤだとわかると、しらけていた顔に、喜色が浮かんだ。
なにせ広場に現れてから一度も声を発しなかったリリーヤが、ついに声を出したのだ。
きっと面白いことが起こるに違いない。
男たちは期待に胸を膨らませた。
そしてリリーヤにとっては不幸なことに、男たちの期待は十二分に満たされることとなる。
見張りの兵士が視線でリリーヤに言葉の続きを促した。
その視線を受け、なにか言い淀んだリリーヤだったが、諦めたように口を開いた。
「……どうか一度、厠に連れていっていただけないでしょうか?」
一瞬の静寂。
やがてリリーヤの言葉を理解した男たちは、大きな笑いを上げた。
「ハッハッハッハ! こりゃ傑作だ!
裸を晒しても気丈に振る舞ってたお嬢様も、さすがに出すもん出すところを見られるのは恥ずかしいってか!」
人混みから投げられた言葉に、リリーヤは顔を赤く染めた。
当然、裸体を晒すのだって恥ずかしい。
このまま、死ぬのだって怖い。
だが、それは我慢できた。
亡き家族を思い、ステークス家に残された最後の一人としてどうにか耐えようと思えた。
しかし、だ。
人前で排泄するという行為は、リリーヤにとって一線を越えていた。
領主の娘として、リリーヤは己を磨くことを怠らなかった。
学問や馬術に芸術。
そういった内面的な能力はもちろん、外見についても領主の娘として恥ずかしくないよう手間隙を惜しまず磨いてきた。
リリーヤの外見的な美しさは、産まれ持ったものも当然あるが、それと同等以上の努力の賜物なのだ。
裸体を見せるというのは恥ずかしい。
だが一方で、己の磨き上げた裸体に絶対の自信を持っていた。
シミ一つない白雪のような肌。
陽光をキラキラと反射する黄金の髪。
張りと柔らかさを兼ね備え、垂れのない豊満な乳房。
滑らかな弧を描くくびれ。
肉付きの良い臀部。
スラッと引き締まった四肢。
その全てが努力の結晶である。
裸体を見せるという行為自体を恥じることはあっても、己の裸体自体を恥じる気持ちは一切なかった。
だからこそ、広場で民に裸身を晒されるという辱しめにあっても耐えることができた。
しかし、排泄は違う。
どれだけ肉体を美しく磨き上げようとも、排泄物までは美しくならない。
己の排泄する姿、己の排泄物に自身など持てるはずがない。
それはリリーヤにとって醜いものでしかないのだ。
生物として仕方のない行為だとはいえ、自分でも見たくないようなものを人前に晒すなど到底耐えられるものではなかった。
だからこそ、どれだけ卑猥な言葉を投げ掛けられ、家名を汚されようとも沈黙を貫いてきたリリーヤが声を出したのだ。
己の醜い姿を見ないでくれ、と。
厠で用を足すという、誰もが有する権利。
残酷にも、そんな権利すら今のリリーヤには与えられていない。
「おうおう!
この目でしっかり見ていてやるからよ!
とっとと汚いもんをぶちまけちまいな!」
ギャハハと下品な笑い声が響く。
もう既に限界まで我慢していた。
脂汗が滲み、拘束された脚が世話しなく枷についた鎖を揺らしていた。
そもそも、中腰で股を開いたこの姿勢は、排泄を我慢するにはあまりに辛すぎた。
油断をすれば、たちまち決壊してしまうことは想像に難くない。
厠で用を足したいという最後の頼みも、呆気なく笑い飛ばされた。
リリーヤに残された道は、一時でも長く我慢し、一人でも多くの見学者がいなくなることを願うことだけだった。
しかしそれすらも、リリーヤがこれから晒すだろう醜態をエサに、男たちが人を集めてきたことによって叶わなくなった。
閑散とし始めていた広場には、いつの間にか初めの頃と同じくらいの人が集まっていた。
「おい、尻穴がヒクついてやがる」
「こりゃ、決壊も近そうだな」
「今どんな気持ちなんだ、お嬢様よ!」
男たちが下劣な言葉を投げ掛けるが、リリーヤにそれを言葉として理解するだけの余裕はもうなかった。
一瞬でも油断すれば崩れる。
ピンと張り詰めた糸のように、リリーヤは気力だけでギリギリを耐えていた。
ガタガタ鳴り出す奥歯を無理やり噛みしめ、肛門を引き締める。
美しい顔からは血の気が引き、もう既に限界であるということは、誰の目から見ても明らかだった。
リリーヤが耐えれば耐えるほど、男たちの熱気は高まっていく。
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