熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

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第三話『仔猫の鳴き声』

その7 へるぷみー、はぐみー、らぶみー

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★第三話『仔猫の鳴き声』
その7 へるぷみー、はぐみー、らぶみー


teller:花楓かえで=アーデルハイド


 ぼんやりと目を開けると、そこは深い暗がりだった。
 どうやらここはおれが堕ちた奈落の底、遺跡の地下らしい。

 じわじわ身体の節々が痛むけれど、致命傷には至っていない。
 何かがクッションになったか、それとも直前で湊がおれの周りにシールドを張ってくれたか。

 独りぼっちの地下で、おれは膝を抱える。
 暗いなあ。
 暗いし寒い。

 そう言えば独りぼっちは久々かもしれない。
 湊も居ないし、お姉ちゃんも居ない。
 別に独りぼっちに慣れていないわけでもないくせに。

 そうだ、おれは最初から一人だったじゃないか。

 ――おれの最初の記憶は、真っ白な狭い部屋。
 それがだんだん赤くなって、それで、世界が変わって。

 ……そうじゃん。一人なのは、平気なんだ。

 『あの部屋』が嫌いだっただけ。
 あの部屋に比べれば、暗いのも寒いのも一人なのも、平気だよ、おれ。

 昔のことを、おれの最初のことを思い出したからか、おれはふと思いついた言葉をぽつりと口にする。

「……助けて」

 タナトスはおれが自由にした。
 今更おれに足掻ける何かがあるとは思えない。
 どうせ死んじゃうなら、無意味でもこの言葉を言ってみたくなったんだ。

 『あの部屋』で、何回言っても誰も応えてくれなかった言葉。
 誰も応えてくれなかったから、こんな言葉に意味なんてないのはわかってる。
 でも、じゃあどうしてこの言葉は世界に存在するんだろう。

 誰も助けてくれないのに、馬鹿馬鹿しいなあ。
 もう全部どうでも良くなって、眠るように目を閉じようとしたその時だった。

 ごうん、と激しい轟音が急に響いたかと思うと、視界が僅かに明るくなった。

 ――そこには、ビッグバンダーが居た。
 非公認ファイターの機体じゃない、きちんと整備された正規の機体。
 無理矢理地下壁を抉じ開けたであろうそのビッグバンダーのハッチが開く。
 そこから降りて、通路が割と狭いからかビッグバンダーの召喚を一旦解いて、生身でおれに歩み寄って強い力でおれの手を引いてきたのは。

「……愁水しゅうすいくん……?」

 おれが散々お姉ちゃん絡みでおもちゃのように扱ってきた、愁水しゅうすい=アンダーソンくんだった。

 愁水くんが何かを言う前に、おれはどこか乾いた声で訊ねた。

「……なんで?」

「…………何でって、ガキの助けてって声が聞こえたら、そりゃ来るだろ」

 だから、それがなんで。

 多分愁水くんは、ビッグバンダーの音声探知機能か何かで、おれの声を拾ったんだろう。
 だけどおれが聞きたいのは、その『なんで』じゃない。

 なんで、それだけのことでおれを助けに来たの。

 愁水くんの言っている意味が、どうしてもわからない。

 さらに理由を求めようと口を開いた時、またしても轟音が響き渡る。
 愁水くんがこじ開けた地下壁の穴から、一体のビッグバンダーが顔を出していた。
 あれは――非公認ファイターの機体だ。
 おれを追ってきたか、遺跡崩落計画の一環か。

 その理由なんかどちらでも良かったのは愁水くんも同じらしく、愁水くんは舌打ちをしておれの手を引く。
 寸前、おれはあるものが近くにあることに気付き、それを拾って愁水くんについて行った。

 開けた場所に出てから、愁水くんがホイッスルを吹く。

「降り臨め!! アイゼン!!」

 ばちばちと光が弾けると同時に、愁水くんの機体――『アイゼン』が再び召喚され、おれと
愁水くんはコックピット内に放り込まれる。

 アイゼンの武器は確か片手剣。もう片手には拳銃。
 防御はサポーターである聖歌お姉ちゃんのシールド頼り。
 操作性が良く、数あるビッグバンダーの中でも一番ファイターにとっての扱いやすさを第一に造られた、 接近戦~中距離戦を得意とする機体だったはずだ。

 なら、遠距離は。

 おれは先程拾ったものをじっと見つめる。
  ずしりと重みが手に響くマシンガン。
 多分、おれがここに堕ちてきた時に一緒に堕ちてきたんだろう。
 ハツラツ草の蔦を発射した敵の装備だ。
 マシンガンと言っても、ペイント弾に近い。

 ビッグバンダー用の装備だから当然重いけど、小型マシンガンだからおれでもギリギリ持てる。
 それに、おれはそんなにヤワじゃない。

「……愁水くん! アイゼンのハッチ全開にしてコックピット、剥き出しにして!!」

「はあ!? 何バカなこと言ってんだテメェ!!」

「愁水くんは脱出のことだけ考えて操縦して! あのビッグバンダーはおれが迎撃する!!」

「んなあぶねーことさせられ……うおっ、バカ! 勝手にイジんな!!」

 愁水くんが聞いてくれそうにないから、おれは身を乗り出し片手でカタカタとコックピットのキーボードにコードを入力し、ハッチを強制的に開ける。

 もうこっちを追ってきてるビッグバンダーにおれがマシンガンを構えると、愁水くんは唸るように溜息なんだか舌打ちなんだか良くわからない音を発してから、通信機越しにお姉ちゃんに呼びかけた。

「っ、聖歌!! 無茶頼んじまうがシールド、臨機応変でなるべく広範囲に張ってくれ!! このクソガキを頼む!!」

『はっ、はいっ!』

 お姉ちゃんの返事を聞くなり、愁水くんはアイゼンを加速させ、勢いのまま離陸準備を整えていく。

 おれはその間、進行方向とは逆、つまりは背後から追ってくるビッグバンダーにマシンガンを連射していた。

 ハツラツ草は音楽で成長する植物。
 さっきはそれがおれの敗北に繋がったけど、今度はその音楽で、おれは自由を、命を勝ち取るんだ。

 チューニングするように軽く鼻唄を歌ってから、アイゼンの速度に乗るように、アイゼンに身を任せるように。
 おれは歌いながら銃の引き金を引く。

 蔦の緑色混じりの硝煙の中、おれは歌う。
 闇の底で。
 光溢れる世界を目指す為に。

 それは希望だった、それは享楽だった、それは奮起だった。

 それは――おれにとって、生きること、だった。

 おれの歌に育まれた蔦にまみれた相手方のビッグバンダーは、のろのろとスピードを落とし、やがて膝をつき動きを止める。
 捕縛の準備は完璧だけど、まずは脱出が先だ。
 それに、この任務にあたっているのはおれたちだけじゃない。

 そうして愁水くんは、アイゼンを打ち上げるように翔ばせた。
 はばたくような一瞬宙に浮く感覚に、心臓が激しく高鳴って、視界が眩しいくらいの光に包まれて。

 おれはまた、生きれるんだ。

 そう思えば思うほど、心臓のビートが活き活きと刻まれて。

 なんで、かな。
 おれは何故かその時、どんな顔をすればいいのかわからなくなったんだ。
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