熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

文字の大きさ
32 / 141
第三話『仔猫の鳴き声』

その8 おタバコはお吸いになりますか?

しおりを挟む
★第三話『仔猫の鳴き声』
その8 おタバコはお吸いになりますか?

teller:花楓かえで=アーデルハイド

 アイゼンが翔んで、空を目指して、その身をまた、元の大地に降ろして。
 愁水くんが軽く息をつき、おれを引っ張り出す形でコックピットから出る。

 思いっ切り歌うことで、生きている証として心臓の鼓動が高鳴るのは嬉しかったけど、まだおれの疑問は尽きなかった。

「……ねえ、ほんとになんで?」

「あ? 何がだよ」

 なんでわざわざ、助けに来たの。
 なんで見捨てなかったの。

 それが当たり前のように愁水くんは言ったけど、今もそんな風に言ってるけど、愁水くんの当たり前はおれの当たり前じゃない。
 それでもって、おれの当たり前は愁水くんの当たり前じゃないんだろう。

 だから、わからなかった。
 理解できなかった。

 おれを助けない理由ならいくらでも思いつくのに、助ける理由だけはどうしてもわからなくて。

 いつの間にやらすっかり落ち着いた戦場の中で、とっととおれの手を引いて歩き出そうとする愁水くんに、おれは何度も理由を求めた。
 なんで、どうして、と。

 すると愁水くんは大きく舌打ちをする。

「……ったく、かっわいくねーガキだな。大人が助けてやるっつってんだから素直に受け取れよ。ガキはガキのうちに甘えとけ。おまえまだまだちびっ子じゃねーか」

 それが、何。
 それが、どうしたの。
 おれが更に理由を訊ねる前に、愁水くんは言った。

「理由……理由なあ、じゃあ、おまえがクソガキすぎて色々心配だから、おまえが一人で歩けるまで、俺が守ってやる。そんなんでいいだろ」

 ……え?

 呆然と、した。
 言葉を噛み砕く暇も与えてくれず、愁水くんはおれを引きずっていく。

 わかんない。
 わかんないよ。

 だって、「守ってやる」なんて言葉、今まで誰にも言われたことない。

 愁水くんがかけてくれた言葉は、きっと普通の子どもが享受するにはごく当たり前の言葉なんだろう。

 でも、おれにとっては――。

 気付けばおれは、愁水くんの手を、ぎゅっと握り返していた。
 離したくないと、思った。
 理由なんて、やっぱりわからなかったけれど。

 その後、無事脱出できて。
 ある程度落ち着いた場所に来てから、おれは愁水くんにしこたま怒られた。
 自分を心配して叱ってくれる大人を、おれは初めて見た。

 それぞれのサポーターと合流するなり、聖歌お姉ちゃんが泣きそうな顔でおれに駆け寄ってくれて、おれを抱き締めてくれた。
 ――誰かに抱き締めてもらえたのは、生まれて初めてのことだった。

 だっておれはいつも湊を抱き締めてばかりで、自分が誰かに抱き締められたことはなかったから。

 そんなおれとお姉ちゃんを見て愁水くんが複雑そうに顔をしかめたのが、何だか面白かった。

 おれの手を引いて助けてくれたのは、愁水くん。
 おれが今ここにいる理由は、愁水くん。
 お姉ちゃんがおれを抱き締めてくれてるのも、愁水くんがおれを助けてくれたから。

 愁水くん。
 年上のお兄さん。
 多分、この人はお姉ちゃんのことが好き。
 それ以外は、良くわからない。

 何で、愁水くんにとっておれを助けるのは当たり前なんだろう。
 何で、どうして。
 愁水くんの、普通って、何?

 それがどうしても知りたくなって――だから、もっと生きたくなった。
 それは、おれの世界が確かに変わり始めた瞬間で。

 ねえ、愁水くん。
 ううん――。





しゅうちゃんっ!」

 おれがそう呼ぶと、愁水くん、ううん、愁ちゃんはいつも思いっ切り眉間に皺を寄せる。

 愁ちゃんが毎朝メタボと合法ショタなおじいちゃんの二人にご飯食べに行こうと絡まれてるから、おれも便乗して愁ちゃんの部屋に遊びに来るようになったら物凄く嫌そうな顔をされた。

「あ、愁ちゃんってば今日も目つきが失礼! ヤダ、こんな絶世の美少年捕まえといてー」

「誰が?? 誰を?? なあオイ、おまえ他にもっといるだろ。何でよりにもよってここにパーティインしてくんだよ。やめろよ面倒だし教育に悪いから」

「あ、バッカスバッカス。今日ファミレス行くんならおれ、お子様ランチの旗あげちゃうよん」

「マジで!? さすがカエちゃん……キッズメニューに手を出せない大人の希望の星じゃん!?」

「おいコラそんなもんで懐柔されんなデブ」

 そう言って愁ちゃんは、露骨に頭を抱える。

 もう一人のメシトモことオリーヴくんは、既にどこかで買ってきたらしいホットスナックを愁ちゃんの部屋の前でもりもり立ち食いしていた。気が早いな。

 そうしておれたちが愁ちゃんを攫う形で辿り着いたファミレスで、店員さんに『おタバコはお吸いになりますか?』なんて定番の質問をされた時。

 愁ちゃんは、口を開きかけ、はっとしたようにおれを見て、数秒心底苦しそうに額を押さえて葛藤したのち。

「……き、禁煙席で……」

 ――そんなんだからおれみたいなガキンチョにまとわりつかれんだよ、愁ちゃん。





teller:ピアス=トゥインクル


 わいわいと出かけた馬鹿スたちを見かけたレイアちゃんが、ふとアタシに言った。

「なんか最近、あの四人いつも一緒に居ますねー、姐さん」

「確かに。毎日毎日飽きもせず、ね」

「アレっすね。なんか……親子とおじいちゃんとメタボのおっさん、みたいなパーティっすね」

「明らかに異物感が凄いパーティね」

 悲しいことにそのアホな異物は、アタシの親友だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...