熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

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第四話『さあ、手負いの獣とダンスを』

その3 目指せ、仲良しの輪!

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★第四話『さあ、手負いの獣とダンスを』
その3 目指せ、仲良しの輪!


teller:愁水しゅうすい=アンダーソン


 セカンドアース全体の治安の悪さ、地区ごとの成り立ち、価値観の違い。

 カーバンクル寮に配属が決まってから、とんでもない異文化交流が始まってしまうのは俺も少しは覚悟していたつもりだった。
 俺はそこそこ治安の良い地区で育ったし、そこそこ文化的な生活を送れていた部類だと思うから周りと齟齬が生じるんじゃないか、とも。

 だけど俺は実際のところ何もわかっちゃいなかった。


 今日も今日とて飲食店の禁煙席で朝飯を食う俺と花楓かえでと、馬鹿スとオリーヴ。

 馬鹿スはつい先ほどまで朝から鍋料理を食っていたかと思えば今はフレンチトーストを齧っている。
 オリーヴはやたらデカいステーキを食っていたかと思いきや、ちょっと目を離した隙に山盛りパスタと具沢山豚汁を注文していた。

 何だここ、地獄か? こいつらアホか? 食い合わせ狂ってることに気付いてねえのか? 

 こんな異文化交流は、想定すらしちゃいなかった。

 早々にお子様モーニングセットのチキンライスの旗を馬鹿スに明け渡して朝食を平らげた花楓は、今はアップルジュースをのんびり飲んでいる。
 メタボとジジイに関しては正直これ以上深く関わりたくないと思っているが、花楓がパーティインしてしまったので、ほっとくとこの三人が何をしでかすかわからないから俺はこいつらにメシトモ認定を食らっているのを渋々受け入れている現状だ。
 花楓が居るからストレス解消の為にタバコも吸えやしない。
 前世がもし俺にあるとしたら、何かとんでもない業を重ねたのだろうか。

 フレンチトーストを齧っていた筈の馬鹿スが、気付けば鯛焼きをちょびちょび咥え齧りつつ溜息を吐く。
 そういや、ガツガツ食ってる割には今日の馬鹿スはどことなくテンションが低い気がする。
 馬鹿スが推しているというアイドルの話題も出そうとしない。

 いや、いつも通りでいられても鬱陶しいだけだからこのままでもいいっちゃいいんだが。
 馬鹿スはまた深い溜息を吐きだした後、しょぼしょぼとした声で呟いた。

「はあ……参ったなあ、最近のおれは地獄に居るような気分だよ」

「今この瞬間の絵面以上の地獄があるってのか。嫌な世の中だなあ」

 俺は思わず悪態をつく。
 これくらいは言ってもいいだろう。

 オリーヴは馬鹿スの様子も気にせずパスタをもぐもぐと食べている。トッピングのチーズの量がエグかった。こいつの胃袋どうなってんだ。

「で、本日の議題なんだけどね、おれのメシトモたちよ」

「議題とかそんな高尚な話題、おまえ話せんのかデブ」

「我慢できないから言うけど、おれは! カーバンクル寮のティーンエイジャーと仲良くなりたい!!」

「やっぱりしょうもねえ話題なんじゃねえか。あとティーンエイジャーっておまえ……」

 馬鹿スが席から立ち上がらんばかりの勢いで拳を握り締めて宣言する。
 その衝撃で馬鹿スが鯛焼きを取り落としかけたが、食いもんへの異常な執念で馬鹿スはそれを見事にキャッチしてまたもそもそと食べ始めた。
 おかげで議題に対する関心がますます薄れていく。死ぬほどどうでも良い。

「にゃー? バッカスバッカス、おれがいるじゃん。おれだって立派な二桁年齢の若者よー?」

「ん~……? カエちゃんはギリギリティーンエイジャーに分類されないんじゃない?」

「10歳ごときが二桁年齢とかでイキってんなよ」

 俺が呆れてそう言うと、花楓はにやりと意味深に口角を上げた。

「アラサーに足突っ込んどいてヤカラみたいなガワと口調でイキってる愁ちゃんに言われたくないにゃー」

「ブッ叩くぞ」

 花楓の額を思いっ切り指で弾きデコピンする。
 花楓はまるで効いてないかのようにケラケラと笑っていた。
 チッ、攻撃に甘さが出たか。

 豚汁を啜ったオリーヴが、バッカスの目をじっと見て言う。

「仲良くなりたいと言うが、どうやって若い奴らに近づくつもりだ」

「……人柄……?」

「諦めろデブ」

「おれそんな悪いやつじゃなくない愁ちゃん!?」

 そうやって、まだ朝っぱらだと言うのに窓際の席で飯を食いながらわいわいと言い合っていたら。

「あ、見つけた。お兄さんたちってこういうところでご飯食べる仲なんだ」

 聞き慣れない声が聞こえ、俺たち四人は一斉に首を動かし声の出どころを探る。

 俺たちの視線の先には、14歳程度の少年が立っていた。
 茶髪で、ゴーグルを首から下げた活発そうな、それでいて少し生意気そうなガキ。

 確かこいつは――第24地区代表ファイターの竜樹たつき=ウィンゼン。

 こいつはこいつで、寮暮らしが始まってからは同年代でコミュニティを作ってそいつらとつるんでいた筈だが、『見つけた』という言葉を真に受けると、何でか一人で俺たちを探しに来たらしい。
 竜樹の視線が、馬鹿スに向く。馬鹿スはきょとんと目を丸くして、咀嚼途中の鯛焼きをごくりと飲み込んだ。

「バッカス兄ちゃん、で合ってるよね? 名前。きみのパートナーの美人さん……ピアスさん、知らない? オレ、ピアスさんに用があるんだけど」

「ピアスに? 今日は確か、整備がひと段落ついたらいつものファンの子たちとショッピングだとか言ってたよーな……」

「ふうん、なーんだ。一緒にいるわけじゃないんだ。残念」

 竜樹は両手を頭の後ろで組んで、俺たちを一瞥する。
 一瞬興味深そうな目をしたが、馬鹿スとオリーヴの周りのフリーダムな食器類を見てすぐに竜樹は目を逸らした。
 まあ気持ちは分かる。
 でも俺まで同類に思わないで欲しい。

 馬鹿スはそんな視線も気にせず、テーブルの上にあったハンバーグにフォークを突き刺し首を傾げる。

「ピアスに用事? 伝言ならおれ、伝えとくけど」

「ん? あー……こないだの廃棄ターミナルにアンノウンが出た時にさ。ピアスさん、オレのしいにぃを庇ってくれたから。お礼言いたかったんだ。自分でちゃんと伝えるから伝言はしなくていいよ」

しいにぃ?」

椎名しいな=メルロイド。オレのサポーター。ピアスさんと仲良くさせてもらってるはずだけど?」

「……ああ! あの子か! ピアスのファンの一人のあの美人大学生くん!」

「そ。ま、居ないなら仕方ないや。別のとこ探そーっと」

 軽い足取りで踵を返し、去っていこうとする竜樹を見て、馬鹿スが慌ててハンバーグをかっ込み、ティッシュで口元を雑に拭う。
 きたねえよ色々と。

 何をそんなに焦っているのか。俺の疑問がまとまる前に馬鹿スは竜樹を呼び止めていた。

「ちょ、竜樹くん! ちょっと教えて欲しいことあんだけど!」

「ん、何?」

 竜樹が足を止め、振り返る。
 馬鹿スのやつ、何を言い出すのかと思ったら。

「……ティーンエイジャー……若者のトレンド、教えてくんない?」

 ……こいつ、まだガキどもと仲良くなるの諦めてなかったのか。
 年下に絡む尊敬できない年上ほど鬱陶しいものはねえっつうのに。
 まず馬鹿スは俺より三つも年上だが、俺は馬鹿スを尊敬どころか限りなく軽蔑している部分の方が多い。主に食関連で。

 だが馬鹿スの人柄についてまだそんなに詳しくないらしい竜樹は、律儀にも少し考え込むような仕草を見せたあと、服のポケットに入れていた端末の画面を馬鹿スに見せた。

「オレたちくらいの歳だと、今はこれかな。架空戦場自由闊歩ゲーム『マガツ・ナーサリィライム』。開発元がビッグバンダー開発部と近い関係らしくて、このゲームで好成績叩き出してファイターにスカウトされた人とかちょこちょこいるみたいだよ?」

「え、そんな重要っぽいポジションにあるゲームなの!?」

 馬鹿スは驚いていたが、俺は平然と頷いてしまう。

「ああ。間違った情報ではねえよ。俺も似たような経緯でファイター候補生として声かけられた身だからな」

「愁ちゃんまで!? な、なるほど……最近の若者はゲームで己の道を切り開くのか……奥が深いな……」

 表現が大袈裟すぎる。誇張表現だ。
 馬鹿スは腕組みをして、何やらああだのううだの唸っている。
 ついには頭が痛そうな表情を浮かべてどうしたのかと思いきや。

「……決めた。おれ、しばらくごはん節制する!」

「は?」

「ごはんの量を控えめにして、治安維持任務頑張って! お金貯めてゲーム買う! そしてティーンエイジャーたちと仲良くなるんだ!」

 何が。
 一体何が、このアホをそんなに突き動かすのかはまるでわからなかったが。

 俺と花楓、それからオリーヴはじっと馬鹿スを見たあと、一斉に声を揃えた。

「いや、無理だろ」

「なして!?」
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