熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

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第五話『ハロウィン・シンドローム』

その5 中途半端イノセント

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★第五話『ハロウィン・シンドローム』
その5 中途半端イノセント


teller:椎名しいな=メルロイド


 自分が男らしい、だなんて一度も思ったことがない。

 情けないくらいに弱々しい細腕、全体的に線の細い身体。
 心身ともになよなよしてて、弱っちいったらありゃしない。
 骨格を良く良く間近で見なければ、大体の人はすぐに僕を男だと気付かないだろう。

 だけど。
 ――だけど、女の子になりたいとも、一度も思ったことがない。

 僕は、どこまでも中途半端な生き物だ。





「おら帰れ。私たちの椎名さんに近付くんじゃねえ野郎ども」

「ぐっ……椎名くん、まさかの周りの、ってかレイアちゃんのガードが固ぇ!」

 いつものように、ピアスさん、レイアちゃん、テレサちゃんとどこか出かけようかと話していたら、何やら僕と同年齢の19歳の男性陣がぞろぞろと訪問してきた。

 彼らのお目当ては僕だったらしい。
 19歳男子みんなで例のテーマパークエリアに遊びに行くから、僕も一緒に来ないかというお誘いだった。

 だけど僕が答えるよりも先にレイアちゃんが僕の前に立ち塞がり、まるで門前払いとでも言いたげにしっしっと男性陣を追い払うような仕草を見せた。

 その冷たい対応に、先陣切って誘いに来たホープ=ラッセルくんが崩れ落ちる。
 真顔だったけど、声色は心底悔しそうだった。

 だけどめげずに声をかけてきたのは、ホープくんと同じくらい遊びのやる気に溢れてそうな陽輔ようすけ=アイバッヂくん。
 明るく元気、と言った印象がある男の子だ。

 まあ、あまり話したことはないんだけれど。
 僕にとって話したことが少ない、は、他の19歳組の男の子たちにも適用されてしまう。

「いーや! オレはまだ納得してねーもん! それはレイアちゃんの考えじゃん! 椎名の考えは!? 椎名の意思をまだ聞いてねえよオレたちは!」

「……えっと……ごめんね?」

「わーーーーっ!!!! やんわりとフラれたーーーー!!!!」

 何故か息ピッタリに声を揃えて叫びながらホープくんと陽輔くんが走り去って行ってしまった。
 元気な子たちだなあ……とぼんやりしていると、他の男の子たちもホープくんたちを追って駆けていく。

 落ち着いた印象のある逢良あいら=シャーウッドくんと、ぽっちゃりしていて穏やかそうな友風ともかぜ=スタンバーグくんだけが少しその場に残った。

「騒がしくして悪かったな」

「ごめんねえ、みんなはしゃいじゃって。トモさんも気をつけるからね。怖がらせちゃってほんと、ゴメンね?」

 そう頭を下げてから既に走り去った他のみんなを追う逢良くんと友風くんの背中を見送ってから、ようやく気付いた。

 ――テレサちゃんの顔色が、とんでもないことになってる。

「ちょっと、テレサ、アンタ大丈夫!?」

 顔を真っ青にして、ぐらぐらと倒れそうなほど不安定な立ち方をしているテレサちゃんの背を、レイアちゃんが慌てて支える。
 テレサちゃんは重度の男性恐怖症で、あんな風に大勢の男の人が近くに来るなんて状況、彼女には耐えられたものではなかったのだろう。

「お……おとこのひと……いっぱい……こわい……」

「もう大丈夫よ、テレサ! ったく、あいつら……今度会ったら明日の朝日を拝めない身体にしてやろうかしら……」

「物騒。物騒よ、レイアちゃん」

 親友を怖がらせたことに憤るレイアちゃんを窘めるようにピアスさんが二人に近付き、テレサちゃんに二、三、質問をしていた。
 視界ははっきりしているか、とか、立っているのも辛いか、とか。
 少ない質問でテレサちゃんの体調の程度を把握したのか、ピアスさんは僕たち全員の顔を見回して、明るい声で言った。

「今日は、寮の部屋でお茶会でもどう? 素敵な茶葉をこの前見つけたし、お茶請けも一応は用意しているの。陽当たりも良いし、のんびりお喋りでもしてましょ」

「やった! ピアス姐さんって万物のセンスが良いから信用できます!」

「万物は言い過ぎ」

 ピアスさんをとても慕ってるレイアちゃんは、ピアスさんの提案にわっと喜び、次に僕の方を向いた。

「あんな連中気にしちゃだめですよ、椎名さん! 椎名さんはキレーなんですもん! 野郎の野蛮でアホなノリに椎名さんが染められるなんてこと、私の目が黒いうちはさせませんから!!」

「……キレイ、かなあ? 僕」

「? 綺麗ですよ、凄く。身も心も。ピアス姐さんだけじゃなくて、椎名さんも私の憧れなんですからね!」

 レイアちゃんはそう言ってくれたけど、いまいち実感が湧かなかった。
 慕ってもらえるのは嬉しいけど、自分に慕われる要素があるとは思えない。

 むしろ、守ってくれたレイアちゃんにこそ僕は憧れる。
 かっこよくて、慕いたくなった。

 僕はきっと、男の子たちと遊ぶよりも、こうしてこのメンバーと、女の子らしい雰囲気の中で遊ぶ方が性に合っていて気が楽だ。

 別に同性が苦手というわけじゃない。パートナーの竜樹たつきとは歳が離れているからというのもあるけど仲は良いつもりだし。

 ただ本当に、僕はそういう生き方が楽なだけ。
 ポリシーとかはなくて、楽をしやすい、息をしやすい生き方を選んでいるだけだ。

 逆に、ピアスさんは凄いと思う。
 美しさを心から愛し、美しくなる為ならどんな努力だって辞さない。
 自分の身体をまるっと作り変えてしまうくらい、その美へのこだわりは強く、美容維持にも余念が無い。
 ピアスさんが美しいのは見かけだけじゃなくて、そういう美の為に頑張れる心の強さも含まれていると思う。

 それから、優しさも。
 さっきピアスさんは、怯え切ったテレサちゃんを寄り添うように気遣っていた。
 ピアスさんは元々の性別は男性だけれど、あまりにも完璧な美人だからかテレサちゃんはピアスさんだけは平気なようで。
 テレサちゃんの頑なな心を溶かしてしまえるくらい優しく、強く美しいピアスさんは、まさしく完璧で、非の打ちどころがないくらい綺麗な人、なんだと思う。

 それに比べて、僕はやっぱり中途半端だ。
 だって、ほら。
 一瞬、ほんの一瞬、テレサちゃんから僕に向けられた視線には。

 ――未だに『男』を恐れる恐怖心が、確かに滲み出ていたから。
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