熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

文字の大きさ
61 / 141
第五話『ハロウィン・シンドローム』

その8 夏のハロウィン

しおりを挟む
★第五話『ハロウィン・シンドローム』
その8 夏のハロウィン


teller:綾音あやね=イルミア


 彼と初めて出会ったのは、火薬の匂いがする夏の日のことだった。

 人は、悲しい記憶を忘れたがる。
 それは私の育った72地区も例外ではなく。

 過去に地区がアンノウンの襲撃を受けたという事実を痛みとして確かに刻みながらも、時は確かに刻まれて。
 苦しみを薄れさせるように、その日も、毎年恒例の小さな夏祭りが開催されていた。

 だけどその日は不思議と、行く気になれなくて。

 別に塞ぎ込んでたとかではない。
 ただ、自分の中の痛みを、悲しみを忘れたくなかった。
 憎しみは――出来れば、要らないや、と思ったけど。

 一人で夜空をぼんやり見上げ。

 ああ、そうか。
 私は本当の意味で孤独なんだ、と漠然と実感していた時。

 私の夜空に、太陽が差した。

 まだ花火が打ち上がる時間じゃない。
 だけど、私は確かに光を見た。

 目の前の、廃屋の屋根の上だったと思う。
 ちょうど月を覆い隠すように、彼は立っていて、うっすら見える悪戯っぽい笑顔が、妙に印象的で。

「――なあ、一緒に遊ぼう!」

 私に手を差し伸べた彼の、笑顔と明るい金髪は、やっぱり焼けるような夏と太陽を思い起こさせて。

 それが、あいつとの―― 陽輔ようすけ=アイバッヂとの出会い、だった。





「綾音ちゃん、綾音ちゃん、どうしたのかね~?」

 くいくい、と袖口を何者かに引っ張られ、自分が今の今までぼーっとしていたことに気付いた。

 隣を見ると、ふわふわした雰囲気ののんびりしてそうな美少女。
 同い年のサポーターで、ちょっと仲良くなりつつある胡桃くるみ=ヒューストンが私の顔を覗き込んでいた。

 その隣には、危ういほどに綺麗な少女・リーザ=ブルームが気遣うように立っていて。

 私は気分を切り替えるように少し頭を振り、大丈夫だという意を示す。

「なんでもない。絶叫マシーン続きでちょっと疲れただけ」

「ええ~、醍醐味じゃん。いきなりゲームコーナーは味気ないって言うからまずは絶叫三昧しようと巡ってたのにぃ」

「胡桃、あんたおっとりしてそうで意外と度胸ある乗り物好むのね……」

 少し疲れの色が出てきた私とは正反対に、胡桃はむしろ活き活きしている。
 にこにこと笑って、さあ行くぞまだ行くぞと言わんばかりだ。
 リーザもリーザで強いのか、そんな私たちを見て静かに、綺麗に微笑んでいた。

 だけど、そんなリーザがふと足を止め、「あ」、と声を上げる。

「……どうしたの?」

 リーザは、どこかを真っ直ぐに見ていた。
 焦がれるような視線だった。
 それなのに、リーザの視線の先が断定できない。

 そして、リーザはぽつりと呟いた。

「――死の、匂いがする」

「……え?」

 彼女の不穏な呟きの詳細を聞くよりも先に、どこからか悲鳴が上がった。

 悲鳴が上がった方向を振り向き、絶句する。
 人が、人を噛んでいた。
 まるで吸血鬼映画か何かのように。

 いや、違う。吸血鬼、ではない。

 人々の様子が、テーマパークエリアを訪れたであろう彼らの様子が、明らかにおかしい。
 逃げ惑う人々を追いかける彼らの目の焦点は定まっておらず、顔色がどぎつい寒色系に染まっていて。
 そんな様子のおかしい彼らはおぼつかない足取りで、それでもまだ正気を保っている人々を執拗に追いかけている。

 これは吸血鬼と言うより、まるで――ゾンビもののパニックホラーだ。

「なに!? どういうこと、これ――」

 この状態は普通じゃない。

 慌てて電子端末を開くと、そこには多数のアンノウン反応が出ていて一瞬息が止まった。
 テーマパークエリア中に、反応が点在している。
 この反応、様子のおかしい人々、これは――。

 端末を操作し、解析を進める。
 反応の正体は、生物の体内への侵入能力を持つ、繁殖機能が特化したアンノウン。
 この前の時は、電子機器へのウィルス型アンノウンだった。
 だけど、今出現しているのは生命体に対するウィルス型アンノウンだ。
 あのゾンビのような挙動をしている人々は、アンノウンに寄生されてしまったのだろう。
 そして他者を噛むことで感染、繁殖しようとしている。

 ――まずい。このエリアには、今日は人が多すぎる。
 解析中だったのは胡桃も同じなのか、先ほどまでとはうってかわって真剣な顔で端末を眺めている。
 だけど。

「……リーザ!?」

 リーザの様子が、おかしかった。

 ふら、と自ら踏み出すように、彼女は騒動の渦中に足を進めようとしている。
 その目があまりに真っ直ぐすぎて一瞬怯みそうになったけど、私は咄嗟にリーザの腕を掴んだ。

 だけど、リーザの挙動に気付いたゾンビの何人かがこちらに向かってくる。
 まずい、シールドを張らなきゃ、ファイターたちとの連絡を、というかここから逃げ出せるのか、そもそもリーザ、どうして――。

 足が動かないわけじゃなかった。
 ただ、間に合いそうになかった。
 リーザを連れた上で胡桃と共に逃げるには、既に大群が押し寄せ過ぎていて。

「綾音ちゃん、リーザちゃんっ!!」

 目の前に、毒々しい色の手が迫る。
 胡桃の悲鳴がどこか遠い。

 ああ、ゾンビなんて言い方、本当はしたくないのに。
 彼らだって、アンノウンの――だめ、憎しみは捨てたい、のに。

 結局、私、は。


「――降り臨め、アメノウズメ!!!!」


 どこまでも、明るい声が響いた。
 夏の匂いが、した気がした。

 気がつけば、眩むような光と共に、目の前に私たちを庇うように、一体のビッグバンダーが堂々と立っていた。

 日本刀、と言うらしい。
 地球文化の、とある国の伝統に沿ったデザインの刀をそのビッグバンダーは携えていた。
 オレンジ色をベースにした、やっぱり夏のような色の派手な機体。

 これは、あいつの――。

「陽輔=アイバッヂくん参上~っ!! 綾音綾音っ、大丈夫?」

「陽輔……っ!!」

 私の相棒が、私の相棒の機体『アメノウズメ』が、そこに居た。
 通信を通して、陽輔の明るい声が耳に届く。

「安心して、綾音! オレ、楽しい作戦考えたんだ! だからサポートは任せたぜ、相棒!」
 
 『楽しい』という部分に一抹の不安を覚えたが、それでもこの状況には初めて希望が生まれていて。
 私は呆れながらも、苦笑しながらも、大きく頷く。

「――ええ、任せて」

 やっぱり、夏の匂いがする。

 きっと、初めて会った時のように、ずっと。
 彼は例え、そこがどんな世界でも――こんな風に、太陽であり続けるのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...