熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

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第六話『暴走暴発暴虐ガールズ!』

その13 感情総量・重量オーバー!!

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★第六話『暴走暴発暴虐ガールズ!』
その13 感情総量・重量オーバー!!


teller:ダリア=リッジウェイ


 本当に、偶然だった。
 ドロッセルと笹巳ささみを探して真っ直ぐに走っていたら、何となく嫌な予感がして。
 先生に習いたての探知魔法を試しに使ってみたら偶然に、この廃ビルが見付かった。

 入り口付近をたむろする若い男たちの会話内容にそっと聞き耳を立てると、ここはやはり例の爆弾テロ集団のアジトのようで。

 ――迷わず、突入することに決めた。

 だってそんなのもう、私の正義が止まるわけがない。
 それに何より。
 やっぱり、ドロッセルは犯人じゃなかった。
 そのことが嬉しくて、心が高揚していた。

 まだあの子がどんな子なのか、どんなものを抱えているのか、何も知らないし見当もつかない。
 ドロッセルはそんな、同い年の女の子だけど。
 私は彼女を、信じてみたいと思っていたから。

 そして、今は。
 彼女と、親しくなりたいと思っているから――勿論、笹巳とも。

 だからこれは、私の戦い。
 私の正義の為の戦いであって、私個人の望みの為の戦いでもある。
 この二つは、両立する。

 私はダリア=リッジウェイ。
 私は私の信じる、正義の味方。
 全てを求め、全てを救う欲深いヒーロー。
 何一つとして取りこぼしたくない。
 何一つからも、目を逸らしたくない。

 もう一度彼女たちと向き合う為に、私がダリア=リッジウェイという人間である為に、私は今から全力で戦う。

 『ヴェルダンディ』のコックピット越しに、モニターを通してアジトの全体図を確認する。
 ヴェルダンディの武器は、杖。
 先生から『魔法』を叩き込まれた私の生体データが登録されたホイッスルと、その杖を媒介にして、『魔法』を攻撃手段の一つとして出力することが出来る、特殊機体。

 心の中で、これまで聞いてきた先生の教えを、魔法の基礎を、魔力の流れを何度も復唱する。
 精神的な安定感の差は、行使する魔法にも影響されるらしい。
 三秒ほどで、ある程度昂る気持ちを安定させてから、杖を一振りする。

 まずは簡易結界魔法。
 先生というサポーターの支援を得られない時はまず、自分でシールドの役割を果たす措置をとっておかなければいかない。
 ヴェルダンディの耐久力は低いし、ましてや相手は爆弾を扱うほどの連中だ。
 ビッグバンダーが生身の集団を相手にするとは言え、油断は禁物。
 まずは身の安全を確保。

 緑色の薄い膜状の結界が機体全体を包んだ途端、銃撃音がその場に鳴り響いた。
 爆弾だけじゃない、連中は銃器すらも持っていたらしい。
 散弾銃の弾丸が容赦なくヴェルダンディにぶつけられるが、それを少しずつ杖で弾いていくと向こうが怯んだ気配があった。

 私が張った結界の範囲は、機体全体。
 それは装備品にも、武器の役割を持つ杖にも適用される。
 攻撃を弾く結界を纏ったこの杖は、今は何物をも弾く刃にも成り得る。

 思考をやめてはいけない。
 魔法の組み合わせ次第で、このヴェルダンディはいくらでも戦える道がある機体だと、先生は良く言っていた。

 まず何をする。
 こいつらを倒すのは最大の前提として、問題なのはその過程。

 一掃できる攻撃魔法を使いたいところだけど、爆弾の危険を考えるとこの杖による物理的な攻撃を慎重に行いつつ周りの様子を探った方がいいのかもしれない。

 懲りずに浴びせられる銃撃を弾きながら頭を回していると、大きな爆発音が聞こえた。
 視界が揺れる。
 衝撃でぱらりと上から破片が降ってきたところで、私ははっと息を呑んだ。

 まだ考えが甘かった。
 モニターを全然活用できていない。
 先生の話によると、寮の方ではサポーターたちによる爆弾の解析が進んでいるはず。
 試しに手元のキーボードを軽く操作しモニターに命令を追加してみると、爆発物の存在を示すマーカーが各所に点在された。

 先ほど爆発した箇所は基地の端の方らしい。
 衝撃で一瞬怯んだ私を、ヴェルダンディを、奴らの銃撃が襲う。
 だけど、この程度じゃまだヴェルダンディは揺れない。

 大丈夫、まだ直接爆撃を浴びたわけじゃない。
 私は、まだ大丈夫――。

「わ、わわわわっ! 今揺らされたら落ちる! 落ちるって!!」

 ――突然、場にそぐわない慌てた声が聞こえた。
 人が慌てること自体は、この状況では間違っていないはず。
 ただ、その慌て方が……緩いというか、気の抜ける感じ。

 殺気立った他の連中とはまた違う成人男性の声を確かに拾い上げ、音声を拾った箇所を見つけてモニターの一部分を拡大することでそこを注視する。

 テロリストの仲間らしい風貌のスキンヘッドの男性が、高所にある鉄骨にしがみついていた。
 どういう経緯でそうなったのかはわからないが、ぐらぐらと揺れる鉄骨を必死に抱き締める彼は、わたわたと慌てた様子で。
 何より、その男は自らの視線の先をひどく焦った様子で見ていた。

 彼の視線の先には、銀髪の背の高い男。
 明らかに他とはオーラが違う。彼がこの場のリーダー格だということは私でも一目で分かった。
 銀髪の男は、その腕を掴み無理やり立たせているらしい一人の男の腹部にナイフを近付けていた。

 ナイフを突きつけられている男は、鉄骨の上で無表情に立ち尽くしている。
 茶髪でサングラスをかけた、やはり連中の仲間らしき風貌の男性。

 でも、何やら様子がおかしい。
 仲間割れ、というわけでもなさそう。

 ヴェルダンディの優秀なスピーカーが、彼らの会話内容を拾う。

「潜入とは、ナメた真似をしてくれるじゃねえか。ああ?」

 潜入? じゃあ、あの人たちはテロリストの仲間じゃない?
 銀髪の男がナイフの向きは変えないまま、どん、と強く地団太を踏んだら鉄骨がまたぐらりと揺れて。
 サングラスの青年の身体が傾きそうになったところで、スキンヘッドの男性がはっと息を呑んで――自ら、躊躇なく鉄骨を手放した。

 え。
 重力に逆らえず落ちていくスキンヘッドの男性。
 彼にとっての命綱とも言える鉄骨を彼が自ら手放すのが予想外で、つい、機体の手を伸ばしてしまった。

 だが落ちて、落ちていく彼の行動が予想外だったのは私だけじゃないらしく。
 彼の真下に丁度固まっていた銃器を持ったテロリストの集団は突然の落下物に対応できず、彼の下敷きになる。
 彼一人の、男性一人の下敷きだというのに。

「ぐはぁ!? お……重……っ!?」

 大勢いた筈のテロリスト集団は、たった一人に簡単に潰された。
 あれ、待って、落下物の衝撃ってどれくらい――。

 知識を思い返すよりも早く、落下してきた当人がけろりと顔を上げる。
 それから、魔法が解けるようにバリバリと彼を纏う粒子状の何かが剥がれていき。
 そこから姿を現したのは、見覚えのあるふくよかな男性。

「……あ……」

 この人は知っている。
 カーバンクル寮のファイターの一人・バッカス=リュボフさんだ。

「あ、よかった……落ちてもなんとかなった……あんま痛くないしセーフ……って、え、もしもーし? だいじょぶですかー?」

 バッカスさんが、自分の下敷きになったテロリストたちを見下ろし、ぺちぺちと頬を叩くなどするが、全員目を回し気絶しているようだった。
 まあ、当たり前かも。
 あの重量に落ちてこられて生きてるだけで凄い。

 さきほどの会話内容を思い返して、バッカスさんがこのテロリスト集団に何らかの方法で変装して潜入捜査を行っていたのは明らかになった。

 じゃああの、ナイフを突きつけられている方も――?

 銀髪の男が、下の、バッカスさん周りの様子を忌々しそうに見下ろしながらナイフをサングラスの男の腹部にさらに近づける。
 サングラスの男が、面倒そうに顔を歪めた。

 銀髪の男がサングラスの男に告げる。

「……ちっ、うっぜえな。おい、こっちに来いや。テメェだけじゃねえんだろ。テメェを人質にすりゃ、残りは炙り出せるしあのビッグバンダーも止まる」

「――ごめんだね」

 サングラスの青年がようやく口を開いた。
 ――開いた、けど、その声は成人男性のものとは思えない甲高いボーイソプラノ。

 あれ、と思う暇もなく青年は不敵に笑った。

「生憎おれに、ピンチなんて言葉はないんだ」

 サングラスの青年は、ナイフから遠ざかるように、不安定な鉄骨を足場と定めて後退する。
 そして彼は――大人の姿には似合わない、ひどく無邪気な笑顔を浮かべた。

「――だって、おれのことは愁ちゃんが絶対守るって言ってくれたもん!!」

 そして彼は、何の迷いもなく自ら鉄骨から飛び降りる。
 同時に叫ぶような声が下から響いた。

「っ――降り臨め!! アイゼンッ!!」

 突如顕現した私以外のビッグバンダーは、やはり迷うことなく、包むようにその両手を広げる。
 落下中の青年は嬉しそうに目を輝かせ、その身体は『アイゼン』と呼ばれたビッグバンダーの両手に吸い込まれるようにさらに落ちていった。

 途中、先ほどのバッカスさんのように、やっぱりまるで魔法が解かれるように彼から粒子状の何かが剥がれ落ちていく。
 全部剥がれた末に姿を現し、アイゼンに抱き着くように着地したのは、小さな小さな影。
 バトル・ロボイヤル最年少ファイター・花楓かえで=アーデルハイドくんだった。

「にゃーん、しゅうちゃん大好きー!!」

「てっめえ!! 心臓に悪いことすんなバカ!!」

「おれは愁ちゃんが助けてくれるって常に信じてるもんね~、甘えてるもんね~!」

 アイゼンのコックピットから、怒声が響く。
 この声には聞き覚えがある。
 愁水しゅうすい=アンダーソンさん。いつもバッカスさんや花楓くんと居る、少々荒っぽい雰囲気の男の人。

 私の前に先に潜入していたファイターがいたこと、この場に増えたビッグバンダー。
 一気に増えた情報量に固まってしまったのが良くなかった。

 ついさきほどまで私に、ヴェルダンディに向いていた銃口が、今は花楓くんに向けられている。
 銃撃担当の集団は大半がバッカスさんに潰されてしまったが、それでもテロリスト集団の数は多い。
 まだ、全然多勢に無勢だ。

 そのうちの一人が手榴弾を花楓くんの方向に投げようとした際、ついに焦った声が私の口をついて出た。

「待って……っ!!」

 それと、同時だったと思う。

「――さいっあく。きったない爆弾。そんなんで爆破テロ名乗ってんの? ほんと、センスない。だっさぁい」

 いつの間に、そこに居たのか。
 手榴弾を構えていた男の背後には、ツインテールの小柄な美少女。

 ――ドロッセル。
 私の、探していた人。

 ドロッセルは妖艶な笑みを浮かべたまま、背後からその手榴弾男の首筋を指でなぞっている。
 誰もが、その突然の登場に固まってしまった。
 その直後、入り口の方から轟音が聞こえた。
 見ると、まだ全壊していなかった扉が、完全にひしゃげた状態で転がるように倒れている。

 外界の光を背負って現れたのは、こちらも私の良く知る少女。
 ブーツで扉を蹴り飛ばしたらしい。長い髪を雑に結んだ痩躯の少女――笹巳ささみだ。

「ムシャクシャしたから来ちまったけど……面倒なことに居合わせちまったな。丁度良い、全員ぶっ壊してやるよ」

 笹巳が苛立ったように、吐き捨てるように言う。
 明らかに立ち位置の違う登場人物が増えたのはわかった。
 少なくとも、ドロッセルと笹巳が善意からここに居るわけではないことを、私はわかっていた。

 それでも。
 ――それでも不思議と、私はワクワクしてしまったのだ。
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