熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

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第七話『水の底の誓い』

その16 十八年間僕らは生きて、そしてきっとこれからも。

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★第七話『水の底の誓い』
その16 十八年間僕らは生きて、そしてきっとこれからも。


teller:暁月あかつき=ブロック


 何とか迷宮型アンノウンを撃破し、脱出し。
 外部のカーバンクル寮生たちが頑張ってくれたから街への被害も最小限。

 あとは精々、少しの後始末が残っているだけ――なんだけど。

 それにしてはオレたちの様子は、些か賑やかすぎた。

「……テメェ、ミヤ。いつまでひっついてんだよ」

「んー……? 十字のこと、気に入ったし、一緒にいるとたのしそーだし……しばらくこのまま、かなあ」

「勝手に気に入って纏わりついてくんな! 邪魔だわ!!」

 目の前には、タキシード姿の大男の片脚にしがみついてずるずる引きずられていく和服の少年。
 同い年のミヤ=イスタージュはこれまた同い年の十字じゅうじ=トワイニングをいたく気に入ったらしく。

「……ああ。ミヤはゆるゆるに見えて意外とこういうとこ、頑固だから。諦めた方がいいわ」

 溜息混じりにそう言ったのは、ミヤのサポーターである伊鞠いまり=ハーツカイムさん。
 そんな彼女の様子を見て、十字のサポーターである柘榴ざくろ=アシュベリーさんが苦い顔をした。

「発言の重みが違う……って言うか、伊鞠、君も結構苦労してるんだねやっぱり……」

「ああ、まあ……もう慣れたから」

 遠い目をする伊鞠さんと柘榴さん。
 柘榴さんは柘榴さんで十字に常日頃振り回されていそうなので、伊鞠さんと柘榴さんにはこの二人だけに通じる何かがあるのかもしれない。
 だが、その様子を見た十字は不満げだ。

「てめっ、柘榴、しみじみしてないで助けろよ! コイツ邪魔なんだけど!」

「は? 嫌だよ、自分で何とかしなよ。別に他人に慕われるのは悪いことじゃないでしょ」

「露骨に投げんじゃねえ! お前それでも俺のサポーターかよ――」

「――妬いたか」

 ぬっと出てきて十字の発言を遮ったのは、空多くうた=プラント。
 彼は楽しそうに十字と柘榴さんの姿を交互に見ていて、特に十字を煽っているようだった。
 空多の発言に十字は露骨に顔を歪め、空多の胸倉を掴む。

「だ~れが妬いたって?? くっだらねーこと言ってんじゃねえよ。人をそんな小さな男にしてんじゃねえよ」

「ああ、デカいな、十字は。身長的に」

「そういう話じゃねえっ!!」

 がくがくと十字に身体を揺らされても、空多はポーカーフェイスを保ったままだ。
 本来なら空多の傍に居るはずの、空多が先ほど助けたばかりの彼のサポーター・フィオナ=ベネットさんは事態の後始末の作業にサポーターとして駆り出されている。

 それはオレのサポーター・彩雪も同じ。
 きっと怖い思いをしただろうから、彩雪が帰ってきたらうんと甘やかしてやろうとオレは勝手に決めている。
 可愛いあの子の心に傷を残すなんて、オレが許さない。絶対に。

「にしても、ぐっときたな。オリーヴさんのアレは」

「アレ?」

 空多の言葉に首を傾げると、普段あまり表情が変わらない空多の瞳に熱が灯った気がした。

「76歳からでもヒーローは目指せると証明する、と。言っていただろう。聞こえたんだ、通信機越しに。あれは良かった。憧れた。オレもまた目指している、英雄というやつを。目標だ、オリーヴさんは」

「わかるっ!!」

 弾んだ声が、聴こえた。

 女の子の声。
 だけどそれは、伊鞠さんの声でも柘榴さんの声でもない。

 ちら、と目線を移動させると、いつの間にそこに居たのか。
 みつあみにした茶髪のポニーテールとロングスカートのきらきらした瞳の少女――ダリア=リッジウェイさんが立っていた。

 彼女もオレたちと同じ18歳のファイターだ。
 今回の迷宮型アンノウンの被害には遭わなかったけど。
 気がつけば、ダリアさんの傍には最近彼女と親しいらしいドロッセル=リデルさん、笹巳ささみ=デラクールさんの姿もある。
 オレたちの顔をそれぞれ見回して、ダリアさんは安心したように笑った。

「みんな、無事で良かった! 心配してたんだ、迷宮型アンノウンに捕まったって報告がいきなり来たから!」

「どういうことだ、『わかる』とは」

 空多の疑問に、ダリアさんは一瞬目を丸くして瞬きをした後、無邪気に笑う。

「私も似たような夢を持ってるから! 私もね、『正義の味方』に憧れてるの! だからオリーヴさんのあの言葉はやっぱり……うん! ぐっと来た!」

「同志か、なるほど。いいよな、あれは。言ってみたい、オレも」

「うん、同志同志! でもどうせ言うならさ、自分だけのかっこいい口上言いたくない?」

 二人で盛り上がる空多とダリアさんを見て、笹巳さんが呆れたように眉間に皺を寄せ舌打ちをする。

「……バカとバカが会話してんの聞くと、頭痛くなるな」

「なぁに、笹巳ちゃんってば。オトモダチのダリアちゃんがオトコに取られて妬いちゃった?」

「誰が妬くか! ボケたこと言うな!」

「そうよねぇ、笹巳ちゃんは麓重ろくえサン一筋だもんねえ」

「…………蹴り潰すぞ」

「爆散させてあげよっかぁ?」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ十字、と十字に懐くミヤ。
 そんな二人を見て意気統合したかのようにうんうんと頷き合っている伊鞠さんと柘榴さん。
 ヒーロー談義で盛り上がる空多とダリアさん。
 物騒な会話をしながらも、距離自体は近いドロッセルさんと笹巳さん。
 そんな、ちぐはぐでぐちゃぐちゃなみんなを見ていたら。

「……ははっ」

 何だか自然と、笑えてしまった。
 オレの笑い声は不思議と皆の耳に届いたらしく、皆が皆、不思議そうな表情をオレに向けている。

「……あ? どした急に笑い出して。おかしくなっちまったか? 暁月まで変になられたら困ンぞ、おい」

 十字の言葉に、また笑う。
 おかしい、おかしいかあ。

「おかしい……うん、そうかも」

「はあ??」

 なんだろう。この気持ちの正体がわからないけれど。

 バッカスさんたち四人が騒ぎを起こすのを遠目に見る時の気持ち、ホープさんたち19歳の人たちが仲良く過ごしているのを見る気持ち。

 それとはまた違う、心が浮き立つような気持ち。

「……オレ、皆とここにいられて良かった」

 オレの言葉に、皆はまたそれぞれ、おかしいくらい目を丸くしてくれて。

 こんなに賑やかな人たちと同い年で良かった。
 できることならオレは、彼らと仲良くなりたいと望んでしまった。
 楽しくて、これから何が起きるかわからない現状にまた、どきどきして。

 オレはオレだけが感じる世界を、どきどきを、この時はっきり愛しく思えた気がしたんだ。
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