熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

文字の大きさ
116 / 141
第八話『ラブ&ピース』

その 1 残酷なはんぶんこ

しおりを挟む
★第八話『ラブ&ピース』
その 1 残酷なはんぶんこ


teller:New fighter


 はんぶんになろう。
 はんぶんの、約束をしよう。

 どっちかが悲しいときは、どっちかが笑っていよう。
 楽しいのも、苦しいのも、ぜんぶぜんぶ、ふたりで分け合おう、はんぶんこしよう。

 そうすれば、俺たちはきっと大丈夫だから。
 ふたりでいれば、怖いことなんて何もないから。

 だから、ずっとずっと、ふたりで一緒にいよう。

 ――約束、だよ。





「すず」

 子どもの頃からずっと呼び続けている愛称を口にすると、そいつは、サイドテールをぴょこんと揺らし、目を丸くして俺を見上げた。

 昔と変わらない、無垢な表情。
 こいつは、俺と違って、多くの人間に囲まれる、優しいやつだから。
 明るく、笑えるやつだから。
 ――俺のぶんまで、笑ってくれるやつだから。

「なあに? ゆーちゃんっ」

 俺と目が合った瞬間、すずが――鈴芽すずめ=ホーリーランドがにぱっと無邪気に笑った。
 どこまでも明るい、善意と好意だけで構成された笑顔。
 昼食時だからか、口元に何かのソースが付着している。

 拭いてやろうかとも思ったが、だめだった。
 俺にはこいつに触れる権利がないことを、何とか思い出して。
 伸ばした手を、引っ込めてしまった。

 『ゆーちゃん』。
 すずだけが口にする、俺の、柚葉ゆずは=シェリンガムの愛称。

 子どもっぽいから今となってはあまり好きではない呼び名なのだが、嬉しそうにこの呼び名を口にするすずを見ていると、俺は何も言えなくなってしまう。
 今日もその笑顔に絆されるのが嫌で、すずから目を逸らして、俺はちょっと素っ気なく言った。

「……今日、遅くなる」

「はーい! 了解っ! ごはんどうする?」

「……要らない。……伝えたからな」

「うん、ありがとう、ゆーちゃん!」

 業務連絡のような淡々とした俺の態度と違って、すずは終始弾んだ声を上げていた。
 去り際にちらりとすずの方を振り返れば、すずはまっすぐな目で空を仰いでいた。
 どこまでも、楽しそうに。


 俺とすずは、ほとんど生まれた時から一緒の、同い年の幼馴染だ。
 家族ぐるみで仲が良くて、子どもの頃は毎日二人で遊んでいた。

 あの頃の俺は、すずとのあの時間が、優しい時間が、ずっと続けばいい、すずとずっと一緒に居たい、だなんて馬鹿みたいな幻想を抱いていた。

 実際、すずは今も俺の隣に居てくれているが――俺が、あの頃と変わってしまった。

 俺が、俺の大切な人を、姉さんを喪ったあの日から。
 すずが両親を喪い、独りぼっちになってしまったあの日から、ずっと。

 眉間に皺が寄るのがわかる。
 嫌なことを思い出した。

『あの男』の手を取った姉さん、『大丈夫だよ』と俺に笑いかける姉さん。
 何も大丈夫なわけがなかった、すぐにあの男から離れてほしかった。

 なのに、幼かった俺は何も言えなかった。

 あの時、もっと必死に引き留めていれば――姉さんは今も生きていて、すずも、一人にならずに済んで、きっとすずは本当の意味で笑えている筈なんだ。

 俺の、所為なんだ。
 ぎゅ、と手のひらに爪を立てる。


 今の俺は――セカンドアース第90地区の正式な代表ファイター。
 カーバンクル寮に暮らす戦士の一人。
 柚葉ゆずは=シェリンガム、17歳。

 搭乗機体は大鎌を武器に戦う重量級ビッグバンダー『ティーシポネー』。
 名前の意味は確か、復讐の女神。

 なるほど、確かに。
 今の俺には、お似合いの名前だ。

 俺がファイターになったのは、セカンドアースの治安を良くしたいから、だとか、アンノウンから人々を守りたい、だとか、そんなご立派な理由じゃない。

 ただ――ファイターになれば、俺とすずから幸せを奪った『あの男』に必ず道は通じているからだ。
 だって俺は、あの男を知っている。
 あの男を、覚えている。

 許さない、許せない。

 俺から大切な存在を奪い、すずを孤独にしたあの男を、俺は必ず、この手で殺してやると決めている。

 この復讐だけは、果たしてみせる。

 復讐を果たすと決めた時から、俺は笑い方を忘れたかもしれない。
 ただただ、身を焦がすような怒りに、怨みに、自分を任せるようになった。

 すずは、今も俺の一番近くで、隣で笑っている。
 俺のサポーターに立候補もしてくれて、一応は一緒に戦ってくれている。

 だけど。
 それはきっと、俺とすずが子どもの頃に交わした『はんぶんの約束』があるからなんだ。

 幼い俺なりのプロポーズのつもりだった。
 今思えば、呪いのような約束。

 俺が笑わないから、すずが俺のぶんまで笑っている。
 俺が人を許せないから、すずがそのぶん優しくなっている。

 すずは、それでいいのだろうか。
 すずだって俺が抱えるような、どうしようもなく許せない気持ちや、どうしようもなく悲しい気持ちを、本当は抱えているんじゃないのか。

 無理しているんじゃないのか。
 自分を押し殺しているんじゃないのか。

 俺の所為で――すずは、もう幸せになれないんじゃないのか。

 考えれば考えるほど、俺たちはきっと一緒に居ない方がいいのだと痛感させられる。

 それでも、すずは、すずだけは、手放したくなくて、離れたくなんかなくて。

 すずを誰よりも幸せにしたい筈なのに、俺はずっと自分の意義を、理由を、復讐という事柄に見出してしまっている。
 すずではないものを、自分の存在理由にしている。

 どうしようもなく間違った道に迷い込んでいる筈なのに――それでもすずが、笑顔でついてきてくれるから。

 だから、俺も歩むことをやめられないんだ。

 すずの手をしっかり握って、繋ぎ止める勇気すら、もうないくせに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...