熱血豪傑ビッグバンダー!

ハリエンジュ

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第八話『ラブ&ピース』

その10 ノスタルジック→ブラザーフッド

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★第八話『ラブ&ピース』
その10 ノスタルジック→ブラザーフッド


teller:バッカス=リュボフ


 ーー気付けばおれたちが居た川の辺りには、人だかりが出来ていた。
 おれたちが最初にこの橋を通ろうとした時は、全然人気がなかったはずなのに。

 脱獄囚騒動の解決。
 おれとヤマネさんの決闘。
 通りすがりのカーバンクル寮17歳ボーイズの活躍によって、脱獄囚騒動・真の解決。

 まあ、色々起きすぎた。


 おれがトヨウケごとドブ川に突っ込んだように、17歳少年トリオの一人・咲斗さきと=ガルシアくんがどういうわけかすっ転んでドブ川に沈んだので、一緒に来ていた柚葉ゆずは=シェリンガムくんと壱叶いちか=キッドマンくんに咲斗くんが引き上げられて、そのまま彼らは撤収して行ってしまった。

 警備部隊に連行されていく脱獄囚たちは全員気絶していた。
 ヤマネさんにボコられて、その上17歳トリオのビッグバンダー総攻撃を食らったんだからそりゃそうだろう。
 忙しなく動き回る警備部隊を後目に、ビッグバンダー『ハニヤス』から降りたヤマネさんがおれに端末を差し出した。

「でぶっちょくん、オレと連絡先交換しない?」

「え、する! しまっす!」

「おっと返事が想定より早かった。いいのかい、オレは君の愛しのクラリスたんに関しては同担拒否だからケンカ吹っかけちゃうかもよ~?」

「おれは同担拒否じゃないからオールオッケーなのさヤマネさん! クラリスたんの魅力は、ロマネスクの魅力は全宇宙に伝わるべき! 歌よ広がれ愛よ伝播しろ! おれのラブはなかなかデカいからね!」

「デカいとか大口叩いたなこんにゃろ。ははっ、思想相容れねえ~」

 端末を利用し合い連絡先を交換しながら、ヤマネさんと笑い合う。語らい合う。
 そんなおれたちを見ていた愁ちゃんたちが何やら話していた。

「同担拒否だの何だの、一部のやつにしかわかんねー話を常識のように話すやつってめんどくせーな」

「……曲の話題なら、恐らく俺もついていけるんだが」

「オリーヴくんすっご~。バッカスに染まってってんじゃん。あと愁ちゃんにはハナから理解できないでしょ、好きな女の子の話題を他人と共有することすら出来ない驚きの心の狭さなんだからーーあだっ」

 愁ちゃん、オリーヴ氏、カエちゃん。
 三人とも今日も仲良さそうで何よりだ。
 早くおれも混ぜてもらわねば。
 今日もいつメンでわちゃわちゃメシを食うのだ。
 未来の希望の為に、夢へのやる気の為に、ごはんで英気を養ってーーそして、走り出すんだ。

 おれには今、走り出したい理由がある。
 とてつもなく、真っ直ぐな理由。

 おれの連絡先と簡易データを確認したヤマネさんが、笑った。

「でぶっちょくん、バッカスって言うんだ? へえ」

「おう! お気軽に馬鹿スって呼んでくれちゃっていいよ、ヤマネさんも!」

「蔑称じゃねえのそれ? まあでもーー」

 ヤマネさんは笑って、おれに背を向けて。
 最後にゆらりと後ろ手を振って。

「おんなじ女を愛した者として、名前覚えといてやるよ。でぶっちょくんーーいや、馬鹿スくん」

「……おう! ありがとヤマネさん!」

 ぶんぶんとヤマネさんの背中に手を振り続けるおれに、ぼそっと愁ちゃんが呆れたような声をかける。

「……馬鹿スって呼ばれてたから実質名前覚えられてねえんじゃねえのあれ?」

「おれが呼んでって頼んだんだからノーカンよ、愁ちゃん。そんなことより!」

 ちょうど手が掴みやすいちっこいコンビ、カエちゃんとオリーヴ氏の腕を引っ掴んで走り出す。
 カエちゃんを拉致する素振りを見せれば何だかんだでカエちゃんのことが大事な愁ちゃんもついてきてくれるっておれは知ってる。

「さあまずはメシの時間! たらふく食べよう! 色々やりたいことが出来たので、まずは食事大事!」

「やりたいことってなーにー?」

 カエちゃんの無邪気な質問に、おれはただ、晴れやかに笑って答えた。


「ーー勝ちたい!!」







teller:ヤマネ=チドリ

 追加されたばかりの連絡先。
 追加されたばかりの名前。
 その文字列を、オレはまるで懐かしむように指でなぞる。

「連絡先、増やすの久々だなー……馬鹿スくん、かあ」

 おもしろい男だったと思う。
 オレと同じアイドルが好きなやつ。
 オレが愛してやまない女神クラリスたんに、同じく巨大な愛を向けるやつ。
 色々オレと同じで、色々オレと違うやつ。

 三人、仲間だか友達だかを連れてた。
 若いやつとかちっこいやつとかと仲良くできるやつなんだな、馬鹿スくんは。

「……いーなあ」

 そう呟くオレの声は、どこかしみったれていて。
 しみったれた空気はオレには似合わないから、へらっと軽薄に笑ってオレたちの根城ーー『個人スペース』に足を踏み入れる。

 街の高層部に隔離された、高価な設備で整えられている広く清潔な空間。
 その一室は、遮光カーテンに覆われていて。
 オレはまた、その部屋のドアノブを、断りも入れずに回す。

「ただいまー、ソノラ。いやあ兄ちゃん、今日さあーー」

「……ノックしろよ。何度も言ってる。あんた、ほんとにおれの話聞かないな」

 遮光カーテンだらけの部屋。
 全てを拒むように暗く閉ざされた部屋で、モニターの中のゲームの世界に没頭している小柄な少年。

 ソノラ=チドリ。
 オレの、弟。
 ーーオレの、サポーター。

 オレがソノラの話を聞かないように、ソノラもオレの話を聞きたくないという意思表示だろう。
 今日もソノラは、ヘッドホンでおれとの間に壁を作っている。
 
 たまにモニターに姿が映るソノラの表情は無表情だったけど、見慣れた眼帯をやっぱり着けている。
 わけあって視界を常人の半分の範囲に狭められているソノラはそれでも、難なくゲームの世界では活躍している。
 視界を遮ってこれは、なかなかできることじゃないと思うんだが。

 まあ、褒めることも許しちゃくれない。
 オレのどんな言葉も、ソノラにとっては耳障りな雑音だ。

 馬鹿スくんみたいな見知らぬ年下にはかっこつけれんのに。
 実の弟相手にはこれだ。

 ファイターとサポーターとして以前に、兄弟として暮らしているはずのオレとソノラの距離感は今日も歪で。

 この大きな戦いに身を投げようとしている他のペアの空気、個人スペース暮らしのオレじゃなかなか知ることのできない、人と人との絆。
 それらが気になって気になってーーきっとオレはその全てを羨むんだろうなあ、と漠然と感じていた。

 広くて狭い、暗い、この部屋にただただ立ち尽くしながら。
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