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第1章:希望という名の再会
第3話:救いの手と懐かしい顔
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新たな人生の始まりに胸を高鳴らせていた俺は、しかしすぐに厳しい現実に直面することになる。
ここは、どこだ?
右も左も分からない、見知らぬ森の中。 食料も水も、コンパスすらない。
あるのはこの健康な体と、現代日本のサラリーマンとして培った、ここでは何の役にも立ちそうにない知識だけだ。
「……完全に詰んでるな」
さっきまでの高揚感が急速に萎んでいく。
とりあえずがむしゃらに歩き回るのは危険だ。
まずは状況を把握しなければ。
俺は近くにあった一番高い木に登り、周囲の地形を確認しようと試みた。
幸い、体は驚くほど軽く、スルスルと木を登ることができた。
枝の上に立ち、森を見渡す。
どこまでも、どこまでも続く緑の海。
人工物らしきものは一切見当たらない。
(これは……
本格的にヤバいかもしれない……)
現代社会の常識が、ここでは全く通用しない。
自然の脅威というものを、俺は甘く見すぎていたようだ。
途方に暮れて木から降りた、その時だった。
ガサガサッ!
背後の茂みが大きく揺れた。
とっさに身構える。
茂みから現れたのは、一匹の獣だった。
狼……?
いや、違う。
狼に似ているが、その体躯は軽自動車ほどもある。
全身が漆黒の毛で覆われ、その背中からは不気味な骨の棘が何本も突き出ている。
そしてその頭には、爛々と赤く輝く目が三つあった。
グルルルルル……。
喉の奥から漏れる、地を這うような唸り声。
その口からは涎が糸を引いて滴り落ちている。
明らかに、俺を「獲物」として認識していた。
(……嘘だろ)
全身の血の気が一気に引いていく。 これが、異世界の洗礼か。
あまりにも、状況が過酷すぎる。
逃げなければ。
頭ではそう分かっているのに、足が竦んで動かない。
恐怖で体が完全に金縛りにあったようになっていた。
三つ目の狼がゆっくりと、しかし確実に俺との間合いを詰めてくる。
死ぬ。
そう、直感した。
せっかく手に入れた二度目の人生。
まだ何も始まっていないのに、こんな場所で、こんな化け物に食われて終わるのか。
冗談じゃない。
冗談じゃない、冗談じゃないッ!!
俺は最後の気力を振り絞って化け物に背を向けた。
そして、走った。
もつれる足を必死に動かし、ただひたすらに前へ。
背後から、猛烈なスピードで追いかけてくる獣の足音が聞こえる。
木の根に足を取られ、派手に転んだ。
すぐに起き上がろうとするが、焦りで力が入らない。
振り返ると、巨大な口がすぐそこまで迫っていた。
鋭い牙がずらりと並んでいるのが見える。
(ああ……終わった……)
二度目の死を覚悟し、俺は固く目を瞑った。
その、瞬間だった。
空気が、変わった。
風が止み、鳥の声が消え、森のざわめきが嘘のように途絶える。
まるで世界から「音」という概念が盗み去られたかのような、絶対的な静寂。
(何だ……?
何が起きている……?)
死の恐怖すら忘れ、俺は恐る恐る目を開けた。
目の前の光景は、異様の一言に尽きた。
俺を喰らおうとしていたはずの三つ目の狼が、その動きをピタリと止めている。
涎を垂らしたまま、牙を剥き出しにしたまま、まるで時間が停止したかのように硬直しているのだ。
だが、違う。
時間は止まっていない。
狼の三つの赤い瞳が、あり得ないほど激しく揺れ動いていた。
それは捕食者の目ではなかった。
圧倒的な上位存在を前にした、絶対的な恐怖と、理解を超えた現象に対する純粋な混乱。
この化け物が、俺以外の“何か”に怯えている……!
その時、声が聞こえた。
いや、鼓膜を震わせた音ではない。 脳内に、魂に直接語り掛けてくるような、神々しくも冷徹な声だった。
『―――“勅令”する』
その声が響いた瞬間、俺の目の前で信じられないことが起きた。
ミシミシッ……ゴギギギッ……!
三つ目の狼の巨体が、嫌な音を立てて軋み始める。
まるで目に見えない万力に全身を締め上げられているかのようだ。
四肢は意思に反して不自然な方向に曲がり、巨体はゆっくりと、しかし確実に地面へと押し付けられていく。
グルル……ガァッ……!
化け物は苦悶の声を漏らし、必死に抵抗を試みる。
だが、無駄だった。
絶対的な「王」の命令に、逆らうことなどできはしないとでも言うように。
『我が前に立つこと、許さぬ』
再び、声が響く。
その声の主は木漏れ日の中から、ゆっくりと姿を現した。
影になっていて、まだその顔ははっきりと見えない。
だが、その人影が発する威圧感は尋常ではなかった。
人影がすっと右手を上げる。
人差し指と中指を立て、静かに狼へと向けた。
『―――自壊せよ』
ゴオッ!
命令と同時。
三つ目の狼の全身から、漆黒の炎のようなオーラが噴き出した。
「グ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
断末魔の絶叫。
化け物は、その身を焼く見えない炎にのたうち回り、自らの鋭い爪で、自身の喉を、胸を、腹を、めちゃくちゃに引き裂き始めた。
それはもはや戦闘ではなかった。
一方的な処刑。
絶対的な強者が、存在を許さないと決めた弱者を、ただルールに従って排除するだけの冷徹な「作業」。
やがて狼は全身をズタズタに引き裂き、黒い血だまりの中で完全に動きを止めた。
再び、森に静寂が戻る。
俺は目の前で起こった出来事が信じられず、ただ呆然と、無残な骸と化した魔物を見つめていた。
助かった……のか?
あの、声の主が……助けてくれたのか……?
震える体でゆっくりと顔を上げ、声の主を見る。
木漏れ日を背にした人影が、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「……大丈夫か?」
穏やかでいて、芯の通った声。
その声には、聞き覚えがあった。
いや、忘れるはずがなかった。
「……嘘だろ……?」
乾いた声が、喉から漏れた。
影から現れたその人物は、俺に向かって屈託のない、懐かしい笑顔を向けていた。
純白の衣に金の刺繍が施された豪奢な装束。
腰まで伸びた艶やかな黒髪。
小学生の頃の面影を残しながらも、その双眸には王者の風格と深い知性が宿っている。
「久しぶりだな、ケント」
この異世界で再会した、たった一人の旧友。
神崎隆。
俺がリュウガと呼んでいた、親友だった。
ここは、どこだ?
右も左も分からない、見知らぬ森の中。 食料も水も、コンパスすらない。
あるのはこの健康な体と、現代日本のサラリーマンとして培った、ここでは何の役にも立ちそうにない知識だけだ。
「……完全に詰んでるな」
さっきまでの高揚感が急速に萎んでいく。
とりあえずがむしゃらに歩き回るのは危険だ。
まずは状況を把握しなければ。
俺は近くにあった一番高い木に登り、周囲の地形を確認しようと試みた。
幸い、体は驚くほど軽く、スルスルと木を登ることができた。
枝の上に立ち、森を見渡す。
どこまでも、どこまでも続く緑の海。
人工物らしきものは一切見当たらない。
(これは……
本格的にヤバいかもしれない……)
現代社会の常識が、ここでは全く通用しない。
自然の脅威というものを、俺は甘く見すぎていたようだ。
途方に暮れて木から降りた、その時だった。
ガサガサッ!
背後の茂みが大きく揺れた。
とっさに身構える。
茂みから現れたのは、一匹の獣だった。
狼……?
いや、違う。
狼に似ているが、その体躯は軽自動車ほどもある。
全身が漆黒の毛で覆われ、その背中からは不気味な骨の棘が何本も突き出ている。
そしてその頭には、爛々と赤く輝く目が三つあった。
グルルルルル……。
喉の奥から漏れる、地を這うような唸り声。
その口からは涎が糸を引いて滴り落ちている。
明らかに、俺を「獲物」として認識していた。
(……嘘だろ)
全身の血の気が一気に引いていく。 これが、異世界の洗礼か。
あまりにも、状況が過酷すぎる。
逃げなければ。
頭ではそう分かっているのに、足が竦んで動かない。
恐怖で体が完全に金縛りにあったようになっていた。
三つ目の狼がゆっくりと、しかし確実に俺との間合いを詰めてくる。
死ぬ。
そう、直感した。
せっかく手に入れた二度目の人生。
まだ何も始まっていないのに、こんな場所で、こんな化け物に食われて終わるのか。
冗談じゃない。
冗談じゃない、冗談じゃないッ!!
俺は最後の気力を振り絞って化け物に背を向けた。
そして、走った。
もつれる足を必死に動かし、ただひたすらに前へ。
背後から、猛烈なスピードで追いかけてくる獣の足音が聞こえる。
木の根に足を取られ、派手に転んだ。
すぐに起き上がろうとするが、焦りで力が入らない。
振り返ると、巨大な口がすぐそこまで迫っていた。
鋭い牙がずらりと並んでいるのが見える。
(ああ……終わった……)
二度目の死を覚悟し、俺は固く目を瞑った。
その、瞬間だった。
空気が、変わった。
風が止み、鳥の声が消え、森のざわめきが嘘のように途絶える。
まるで世界から「音」という概念が盗み去られたかのような、絶対的な静寂。
(何だ……?
何が起きている……?)
死の恐怖すら忘れ、俺は恐る恐る目を開けた。
目の前の光景は、異様の一言に尽きた。
俺を喰らおうとしていたはずの三つ目の狼が、その動きをピタリと止めている。
涎を垂らしたまま、牙を剥き出しにしたまま、まるで時間が停止したかのように硬直しているのだ。
だが、違う。
時間は止まっていない。
狼の三つの赤い瞳が、あり得ないほど激しく揺れ動いていた。
それは捕食者の目ではなかった。
圧倒的な上位存在を前にした、絶対的な恐怖と、理解を超えた現象に対する純粋な混乱。
この化け物が、俺以外の“何か”に怯えている……!
その時、声が聞こえた。
いや、鼓膜を震わせた音ではない。 脳内に、魂に直接語り掛けてくるような、神々しくも冷徹な声だった。
『―――“勅令”する』
その声が響いた瞬間、俺の目の前で信じられないことが起きた。
ミシミシッ……ゴギギギッ……!
三つ目の狼の巨体が、嫌な音を立てて軋み始める。
まるで目に見えない万力に全身を締め上げられているかのようだ。
四肢は意思に反して不自然な方向に曲がり、巨体はゆっくりと、しかし確実に地面へと押し付けられていく。
グルル……ガァッ……!
化け物は苦悶の声を漏らし、必死に抵抗を試みる。
だが、無駄だった。
絶対的な「王」の命令に、逆らうことなどできはしないとでも言うように。
『我が前に立つこと、許さぬ』
再び、声が響く。
その声の主は木漏れ日の中から、ゆっくりと姿を現した。
影になっていて、まだその顔ははっきりと見えない。
だが、その人影が発する威圧感は尋常ではなかった。
人影がすっと右手を上げる。
人差し指と中指を立て、静かに狼へと向けた。
『―――自壊せよ』
ゴオッ!
命令と同時。
三つ目の狼の全身から、漆黒の炎のようなオーラが噴き出した。
「グ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
断末魔の絶叫。
化け物は、その身を焼く見えない炎にのたうち回り、自らの鋭い爪で、自身の喉を、胸を、腹を、めちゃくちゃに引き裂き始めた。
それはもはや戦闘ではなかった。
一方的な処刑。
絶対的な強者が、存在を許さないと決めた弱者を、ただルールに従って排除するだけの冷徹な「作業」。
やがて狼は全身をズタズタに引き裂き、黒い血だまりの中で完全に動きを止めた。
再び、森に静寂が戻る。
俺は目の前で起こった出来事が信じられず、ただ呆然と、無残な骸と化した魔物を見つめていた。
助かった……のか?
あの、声の主が……助けてくれたのか……?
震える体でゆっくりと顔を上げ、声の主を見る。
木漏れ日を背にした人影が、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「……大丈夫か?」
穏やかでいて、芯の通った声。
その声には、聞き覚えがあった。
いや、忘れるはずがなかった。
「……嘘だろ……?」
乾いた声が、喉から漏れた。
影から現れたその人物は、俺に向かって屈託のない、懐かしい笑顔を向けていた。
純白の衣に金の刺繍が施された豪奢な装束。
腰まで伸びた艶やかな黒髪。
小学生の頃の面影を残しながらも、その双眸には王者の風格と深い知性が宿っている。
「久しぶりだな、ケント」
この異世界で再会した、たった一人の旧友。
神崎隆。
俺がリュウガと呼んでいた、親友だった。
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