異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

文字の大きさ
3 / 150
第1章:希望という名の再会

第3話:救いの手と懐かしい顔

しおりを挟む
 新たな人生の始まりに胸を高鳴らせていた俺は、しかしすぐに厳しい現実に直面することになる。

 ここは、どこだ? 

 右も左も分からない、見知らぬ森の中。 食料も水も、コンパスすらない。

 あるのはこの健康な体と、現代日本のサラリーマンとして培った、ここでは何の役にも立ちそうにない知識だけだ。

「……完全に詰んでるな」
さっきまでの高揚感が急速にしぼんでいく。 

 とりあえずがむしゃらに歩き回るのは危険だ。
まずは状況を把握しなければ。

 俺は近くにあった一番高い木に登り、周囲の地形を確認しようと試みた。 
幸い、体は驚くほど軽く、スルスルと木を登ることができた。 

 枝の上に立ち、森を見渡す。 
どこまでも、どこまでも続く緑の海。 
人工物らしきものは一切見当たらない。

(これは……
本格的にヤバいかもしれない……)

 現代社会の常識が、ここでは全く通用しない。 
自然の脅威というものを、俺は甘く見すぎていたようだ。

 途方に暮れて木から降りた、その時だった。

 ガサガサッ!

 背後の茂みが大きく揺れた。 
とっさに身構える。 

 茂みから現れたのは、一匹の獣だった。

 狼……? 
いや、違う。

 狼に似ているが、その体躯たいくは軽自動車ほどもある。 
全身が漆黒しっこくの毛で覆われ、その背中からは不気味な骨のとげが何本も突き出ている。 

 そしてその頭には、爛々らんらんと赤く輝く目が三つあった。

 グルルルルル……。

 喉の奥から漏れる、地をうような唸り声。 
その口からはよだれが糸を引いて滴り落ちている。 

 明らかに、俺を「獲物」として認識していた。

(……嘘だろ)

 全身の血の気が一気に引いていく。 これが、異世界の洗礼か。 
あまりにも、状況が過酷すぎる。

 逃げなければ。 

 頭ではそう分かっているのに、足がすくんで動かない。 
恐怖で体が完全に金縛りにあったようになっていた。

 三つ目の狼がゆっくりと、しかし確実に俺との間合いを詰めてくる。

 死ぬ。 
そう、直感した。

 せっかく手に入れた二度目の人生。 
まだ何も始まっていないのに、こんな場所で、こんな化け物に食われて終わるのか。

 冗談じゃない。 
冗談じゃない、冗談じゃないッ!!

 俺は最後の気力を振り絞って化け物に背を向けた。 

 そして、走った。 

 もつれる足を必死に動かし、ただひたすらに前へ。

 背後から、猛烈なスピードで追いかけてくる獣の足音が聞こえる。 

 木の根に足を取られ、派手に転んだ。 
すぐに起き上がろうとするが、焦りで力が入らない。

 振り返ると、巨大な口がすぐそこまで迫っていた。 
鋭い牙がずらりと並んでいるのが見える。

(ああ……終わった……)

 二度目の死を覚悟し、俺は固く目を瞑った。 
その、瞬間だった。

 空気が、変わった。

 風が止み、鳥の声が消え、森のざわめきが嘘のように途絶える。 

 まるで世界から「音」という概念が盗み去られたかのような、絶対的な静寂。

(何だ……? 
何が起きている……?)

 死の恐怖すら忘れ、俺は恐る恐る目を開けた。 

 目の前の光景は、異様の一言に尽きた。 
俺を喰らおうとしていたはずの三つ目の狼が、その動きをピタリと止めている。 

 よだれを垂らしたまま、牙を剥き出しにしたまま、まるで時間が停止したかのように硬直しているのだ。

 だが、違う。 
時間は止まっていない。 

 狼の三つの赤い瞳が、あり得ないほど激しく揺れ動いていた。 

 それは捕食者の目ではなかった。 

 圧倒的な上位存在を前にした、絶対的な恐怖と、理解を超えた現象に対する純粋な混乱。

 この化け物が、俺以外の“何か”に怯えている……!

 その時、声が聞こえた。 

 いや、鼓膜を震わせた音ではない。 脳内に、魂に直接語り掛けてくるような、神々しくも冷徹な声だった。

『―――“勅令ちょくれい”する』

 その声が響いた瞬間、俺の目の前で信じられないことが起きた。

 ミシミシッ……ゴギギギッ……!

 三つ目の狼の巨体が、嫌な音を立ててきしみ始める。 
まるで目に見えない万力に全身を締め上げられているかのようだ。 

 四肢ししは意思に反して不自然な方向に曲がり、巨体はゆっくりと、しかし確実に地面へと押し付けられていく。

 グルル……ガァッ……!

 化け物は苦悶の声を漏らし、必死に抵抗を試みる。 

 だが、無駄だった。 

 絶対的な「王」の命令に、逆らうことなどできはしないとでも言うように。

『我が前に立つこと、許さぬ』

 再び、声が響く。 

 その声の主は木漏れ日の中から、ゆっくりと姿を現した。 
影になっていて、まだその顔ははっきりと見えない。 

 だが、その人影が発する威圧感は尋常ではなかった。

 人影がすっと右手を上げる。 
人差し指と中指を立て、静かに狼へと向けた。

『―――自壊じかいせよ』

 ゴオッ!

 命令と同時。 
三つ目の狼の全身から、漆黒の炎のようなオーラが噴き出した。

「グ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 断末魔の絶叫。 

 化け物は、その身を焼く見えない炎にのたうち回り、自らの鋭い爪で、自身の喉を、胸を、腹を、めちゃくちゃに引き裂き始めた。

 それはもはや戦闘ではなかった。 

 一方的な処刑。 
絶対的な強者が、存在を許さないと決めた弱者を、ただルールに従って排除するだけの冷徹な「作業」。

 やがて狼は全身をズタズタに引き裂き、黒い血だまりの中で完全に動きを止めた。

 再び、森に静寂が戻る。 

 俺は目の前で起こった出来事が信じられず、ただ呆然と、無残なむくろと化した魔物を見つめていた。

 助かった……のか? 
あの、声の主が……助けてくれたのか……?

 震える体でゆっくりと顔を上げ、声の主を見る。 

 木漏れ日を背にした人影が、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

「……大丈夫か?」

 穏やかでいて、芯の通った声。 
その声には、聞き覚えがあった。 

 いや、忘れるはずがなかった。

「……嘘だろ……?」

 乾いた声が、喉から漏れた。 
影から現れたその人物は、俺に向かって屈託のない、懐かしい笑顔を向けていた。

 純白の衣に金の刺繍ししゅうが施された豪奢ごうしゃな装束。 
腰まで伸びた艶やかな黒髪。 

 小学生の頃の面影を残しながらも、その双眸には王者の風格と深い知性が宿っている。

「久しぶりだな、ケント」

 この異世界で再会した、たった一人の旧友。 

 神崎隆。

 俺がリュウガと呼んでいた、親友だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...