異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第1章:希望という名の再会

第4話:英雄の凱旋と甘い言葉

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 目の前にいるのは、間違いなく俺が知っている神崎隆だった。 
小学生の頃、いつもクラスの中心にいた太陽のようなあいつだ。

 だが同時に、目の前にいるのは俺の全く知らない誰かでもあった。 

 あの獣を問答無用で自壊じかいさせるほどの、神のごとき力。 
王者の風格を漂わせるその立ち姿。 

 あまりの情報量の多さに、俺の頭は完全に機能停止していた。

「……なんで、神崎がここに……?」

 ようやく絞り出した声は、自分でも情けないほどに震えていた。

「俺も聞きたいよ。
なんでケントが、こんな森のど真ん中で魔物に襲われてるんだ?」

 神崎は悪戯いたずらっぽく笑うと、俺に手を差し伸べた。 
その屈託のない笑顔は、昔のままだった。 

 俺は差し出されたその手を夢遊病者のように掴む。
力強く引き上げられ、よろめきながらも立ち上がった。

「話せばすごく長くなるんだ。
俺のことも、ケントのことも……そして、この世界のことも」

 彼は、俺の肩をポンと叩いた。

「まずはここを出よう。
俺の街が近いんだ。
安全な場所で、温かいものでも飲みながらゆっくり全部話すよ」

 街。 

 その言葉は、絶望的な状況にいた俺にとって何よりも魅力的な響きを持っていた。

 ◇ ◇ ◇

 彼に導かれて森を抜けると、そこには立派な街道が整備されていた。 

 そして街道の脇には、見たこともない紋章が刻まれた壮麗そうれいな馬車が停まっている。

 馬車を引いているのは、馬によく似ているが純白の体に黄金の角を持つ、神々しい生き物だった。

(ユニコーン……? 
いや、ペガサスか? 
どっちでもいいが、とにかく普通じゃない……)

 元サラリーマンの現実的な思考が、目の前の光景に悲鳴を上げる。 

 俺たちが馬車に乗り込むと、護衛らしい屈強な騎士たちが神崎に向かって、一糸いっし乱れぬ動きで敬礼をした。

 馬車が走り出すと、彼は少しずつこの世界のことを話してくれた。 

 この世界には《天賦(ギフト)》と呼ばれる、人が生まれながらに持つ異能の力が存在すること。
 凶暴な魔物がそこかしこに生息し、人々の生活を脅かしていること。

「そういえば、さっきから気になってたんだが」

 俺は、ふと疑問に思ったことを口にした。

「自己紹介の時もそうだったけど、なんで自分のこと『リュウガ』って言ったんだ? 
それ、小学生の時のあだ名だろ?」

 俺の問いに、彼は「ああ」と頷いた。

「こっちの世界に来てから、そう名乗るようにしてるんだ。
『神崎隆』という名前は、この世界の人たちには少し発音しにくいらしくてな」

 彼は、少しおどけたように肩をすくめた。

「それに、『リュウガ』という響きの方が英雄っぽくて聞こえがいいだろ? 
民衆を導く上では、そういう印象操作も大事なんでね。
ちょっとした工夫さ」

 当たり前のように言うが、その思考はとてもではないが俺のような凡人には思いつかないものだった。

「だからケントも昔みたいに、俺のことは『リュウガ』って呼んでくれ。
その方がしっくりくる」

「……ああ、分かったよ。
リュウガ」

 そう呼ぶと、リュウガは満足そうに笑った。 

 そして彼は話を続けた。
彼が治めるこの国が「神聖ロゴス帝国」という名であること。

「俺も、ケントと同じなんだ」

 リュウガは窓の外に流れる景色を見ながら、静かに言った。

「気づいたらこの世界にいた。
最初は何も分からなかった。
ケントと同じように、森の中で死にかけたよ」

 その横顔には、俺の知らない苦労が刻まれているように見えた。

「だが俺は決めたんだ。
この理不尽な世界を、誰もが安心して暮らせる場所に変えてやるって。
そのために、ここまで必死で走ってきた」

 その言葉には、紛れもない真実の重みがあった。

 やがて馬車の速度が緩やかになる。 前方に、巨大な城壁が見えてきた。 

 どこまでも高くそびえる純白の壁。 
その壮大さに、俺は言葉を失った。

(なんだ、これ……。
うちの本社ビルが豆粒みたいに見えるぞ……)

 城門をくぐり王都の中へと入った瞬間、俺はさらに度肝どぎもを抜かれることになった。

「リュウガ様だ! 
リュウガ様がお戻りになられたぞ!」

「我らが英雄! 
リュウガ様、万歳!」

 どこからともなく、熱狂的な歓声が沸き起こった。 

 人々が道の両脇に殺到し、俺たちの乗る馬車に向かって手を振っている。
窓からは色とりどりの花びらが投げ込まれ、まるで歓迎の催しのようだった。

 老人から子供まで、誰もがリュウガを英雄として、救世主として心からの尊敬と愛情を向けているのが分かった。

(すげえ……。
こいつ、本当にこの国を創り上げたのか……)

 この歓迎ぶりは、まるで王の凱旋じゃないか。

 いや、それ以上だ。

「おい、リュウガ……」

 俺は信じられない思いで、隣に座る親友に尋ねた。

「お前、もしかしてこの国の王様なのか?」

 その問いに、リュウガは「ははっ」と声を上げて笑った。

「まさか。俺は王じゃないさ。
この神聖ロゴス帝国には、アウレリウス三世陛下という国王がちゃんといる」

「じゃあ、この騒ぎは一体……。
お前は一体何者なんだ?」

「俺の役職は『執政しっせい』だよ。
まあ、日本の総理大臣みたいなものだと思ってくれればいい。
国王陛下に代わって国の一切の政を任されているんだ」

 執政。総理大臣。
つまり、この国の事実上のトップということか。

「陛下はもうご高齢でね。
今は俺が実質的にこの国を動かしている。
民衆の支持も、幸いなことに得られているみたいだが」

 リュウガは歓声を上げる人々に、穏やかな笑みで手を振って応えた。 

 その姿は俺が知っているガキ大将の面影を残しながらも、「カリスマ」という言葉では表しきれないほどの指導者の風格を放っていた。

 ◇ ◇ ◇

 通されたのは、王宮の一室だった。

 天井には巨大なシャンデリアが輝き、壁には美しいタペストリーが飾られている。
家具の一つ一つが俺の前世の年収を軽く超えていそうな、最高級品だ。

(落ち着かない……。
こんな場所、株主総会でも使わないぞ……)

 慣れない豪華さにそわそわしていると、リュウガが柔らかなソファを勧めてくれた。 

 侍女が運んできた紅茶は、今まで飲んだどんなものよりも芳醇ほうじゅんな香りがした。

 二人きりになり、リュウガは改めて俺に向き直った。 

 その瞳は、真剣そのものだった。

「ケント。
単刀直入に言う。……
よく来てくれた」

「いや、俺は別に自分の意志で来たわけじゃ……」

「ううん、そうじゃない。
俺は、ずっとお前を待ってたんだ」

 リュウガの言葉に、俺はきょを突かれた。

「この世界に来てから、俺はずっと一人だった。
誰も信じられず、ただがむしゃらに戦ってきた。
平和な国を創る、その一心でな。
……だが、正直に言うと、もう限界だったんだ」

 彼は自嘲じちょうするように、少しだけ笑った。

「俺は前に立って戦うのは得意だ。
だが、それだけじゃダメなんだ。
国を動かすには、複雑な問題を解決するには、俺には足りないものが多すぎる。
……俺には、俺の背中を任せられる最高の相棒が必要なんだ」

 リュウガはテーブルを挟んで、俺の目を真っ直ぐに見つめた。 
その瞳の奥で、熱い炎が燃えているのが見えた。

「なあ、ケント。
覚えてるか? 
小学生の頃、俺たち二人でやったドッジボールの大会」

 唐突とうとつな昔話に、俺は戸惑いながらも頷いた。

「あの時、俺はただボールを投げることしか頭になかった。
けど、ケントは違った。
相手チームの利き腕、クセ、誰が弱いか、どういう陣形を組めば勝てるか……
全部、分析してた。
お前が立てた作戦通りに動いたら、俺たちは地区大会で優勝できたんだ」

 そんな昔のことを、覚えていてくれたのか。

「あの時からずっとそうだ。
俺が前で無茶をして、ケントが後ろで頭を使って支えてくれる。
俺たち二人が組めば最強だった。
そうだろ?」

 そうだ。 
確かに、そうだった。 
俺たちは、いつも二人で一つだった。

「もう一度やらないか。ケント」

 リュウガはソファから立ち上がると俺の前に来て、手を差し出した。 
それは森の中で俺を助けてくれた時と同じ、力強い手だった。

「もう一度、二人で最高のチームを組もう。俺がこの国の剣になる。
だから、ケントにはこの国の頭脳になってほしいんだ」

 頭脳。 
最高のチーム。

 その言葉が、俺の心の最も柔らかい場所を、強く、強く締め付けた。

 前世の俺は、何だった?

 会社という組織の、交換可能な歯車の一つ。 
誰も、俺を必要とはしていなかった。 
俺がいなくても、会社は問題なく回り続ける。

 あの無力感。 あの疎外感。 
自分の人生を生きているという実感のなさ。 

 それが俺が抱えていた後悔の、本当の正体だった。

 だが、今。 

 目の前の親友は、俺を必要だと言ってくれている。 
お前じゃなきゃダメなんだと、言ってくれている。

 こんなに嬉しいことが、あるだろうか。 
こんなに心が震える瞬間が、あるだろうか。

「……俺でいいのか? 
今の俺は、何の力も持ってないただの……」

「力ならあるさ」

 リュウガは、確信に満ちた声で言った。

「この世界に転生した者は、誰もが特別な力……
《天賦(ギフト)》を授かることになっている。
ケント、お前にも必ずあるはずだ。
お前のその頭脳にふさわしい、最高の力が」

 彼の言葉に、俺の胸は高鳴った。 
俺にも、力が? 
この世界で、何かを成し遂げられるだけの特別な力が?

 目の前で輝く親友の笑顔。 
彼が差し出す力強い手。 
そして、これから始まるであろう新たな人生への熱い期待。

 俺の心は、もう決まっていた。
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